107.平穏な生活の始まり

 あれから僕達は堂々と一緒に歩けるようになった。


 僕とディアナとリサ……いやアリサさんだ。


 リサとも話して、この世界であまり前世の事を引っ張るのも良くないので、この世界中心で考えようと話し合った。


 だけど、アリサだからそのままリサと呼んでいる。


 お母さん前世のはお母さんとは呼べないので、セシリアさんと呼ぶ事になった。


 セシリアさんも僕をクロトとは呼ばず、クロちゃんと呼ぶようになった。


 そして、セシリアさんを従業員達全員に紹介した。


 セシリアさんは只の居候は嫌だからと、何か仕事をさせて欲しいと言われたので、好きな事なら何でも仕事に出来ると話したら、料理がしてみたいと言われたので島の食堂を紹介した。


 その料理の腕前は島の料理人達にも引けを取らなかった。


 何でも前世でパティシエを目指していたけど実家の許しが出なくて、なれなかったらしい。


 確かに前世でもお母さん前世のの料理って物凄く美味しかった気がする。




 それからセレナお姉ちゃんは病弱・・な弟のため、お姉ちゃんもアカバネ商店王都支店から通う事にした。


 そうやって、漸く僕の学園生活が再開された。


 多くのクラスメイト達には病気の心配をされた。


 余談だけど、セレナお姉ちゃんが全ての授業に一緒に出ると駄々こねたのを何とか宥められた。




 ◇




 あれから数日が経ち、僕達にも漸く平穏が訪れた。


 しかし、学園で妙な噂が流れている事を僕は知らなかった。



 『エクシア家三男とアリサさんが出来ている』



 そんな噂は僕の知らない所で広まって行った。


 それもそうだ、二人同時に偶々同じ日の午後から体調が悪くなり三日程休んで復学。


 しかも、毎朝一緒に登校しては毎日一緒に帰宅する始末。


 そんな噂が立たない方が不思議なモノだろう。




 いつもだとクラスが違うので授業中は違う場所なのだが、実技授業は全員共同で受ける。


 その日、珍しくリサが僕の所へやってきた。


「くろにぃー、何してるの?」


「ん? リサ、他の生徒の詠唱を見ていたの」


「詠唱?」


「うん、僕詠唱使えないから」


「へ? くろにぃ詠唱使えないの? じゃあどうやって魔法を?」


「う~ん、まあ、リサならいっか……僕、魔法は基本『無詠唱』なんだよ」


「ええええ!? そう言えばこの前も回復魔法を詠唱破棄してたよね??」


「あ、あれは誤解されるから魔法名っぽいの言ってるだけだから」


「ええええ!? 回復魔法も『無詠唱』で使えるの?」


「うん? そうだよ?」


「そ……そんな馬鹿な……」


 なんだかリサがブツブツ呟いていた。



「そうだ、リサ、魔法見せてくれよ」


「―――、うん? 良いけど……」


 そう言い、的に向かって両手を挙げた。


「火の神よ! 貴方の力を我に貸し与えたまえ! ファイアボール!」


 リサの両手の前に拳程の火の玉が現れ、的に飛んでった。


 ボーーーン


「おぉー、魔法を間近で見ると中々迫力あるね」


「えっ……くろにぃだって使えるでしょう? くろにぃの魔法も見せてよ!」


 ほっぺをぷくっとさせたリサがそう話した。


 何だかこの子滅茶苦茶可愛いな、僕の(前世の)妹世界一可愛い。


「まぁ、いいけど……こんな感じ」


 そう言い僕はリサと同じくらいの火の玉を作り飛ばした。


 ボーーーン


「え――――、……普通に撃つんだ……凄っ」


「ん? リサは『無詠唱』で撃てないの?」


「撃てないよ! 世の中そう簡単に『無詠唱』出来たら苦労しないってば」


「そっか……、ディアナもやっぱりそう思う?」


 ディアナにも聞いてみた。


「はい、今まで見てきた多くの冒険者達でも『無詠唱』はクロウ様以外、誰も見ていません、以前サディス様から賢者様でも無理かも知れないと仰っていましたよ?」


「そうか……」「えっ!? サディス様ってあの・・空間魔法使いのサディス様?」


「え? リサってうちのサディスさん知っているの?」


「知ってるも何も――空間魔法使いの上級空間魔法の使い手、サディス様の名前を知らない魔法使いなんていないと思うんだけど……」


「え!? やっぱりサディスさんって凄いんだね」


 改めてエクシア家の凄さを知った。


 でも、確かサディスさんってお母さんの実家から来たって言ってたけど……お母さんの実家って何処だろう?


「ディアナ、うちのお母さんの実家って何処か知ってる?」


 ディアナにそう聞くとキョトンとした顔になった。


「クロウ様……母上様の実家……ご存じないんですか?」


「え、うん……聞いた事なかったから……」


 ディアナが少し短い溜息を吐いた。


 そして――。


「奥様の実家は、名門辺境伯ブレイン家の長女でございますよ?」


「えええええ!? お母さんって辺境伯様の娘さんだったの!?」


 そんな驚いている僕にジト目になったリサは「にぃだって辺境伯様の息子じゃない……」とボソっと言っていた。




 ◇




「くしゅん」


「あれ? フローラ、風邪かい? 珍しいね」


「あれ? 全然そんな感じ無かったんだけど……何処かで噂でもされてるのかしら」


「あはは、フローラは大の人気者だからね~」


「そんな大したモノでもないわよ?」


「だって、実家のブレイン領でも結婚前は凄かったよね?」


「むむっ、あれは……ちょっと過激な人達が多かったからね」


「あはは、おかげで僕は何回決闘申し込まれた事か……」


「あ、あれは――お父様が冗談でけしかけたモノでしょう?」


「冗談で……あんな大軍を……まあ、あのお義父様ならやりかねないけどね」


 昔話に花が咲いたアグウスとフローラだった。



「そう言えば、貴方? 何か重要な事忘れてない?」


「う~ん、そんな重要な事あったっけ?」


 クロウティアに何も教えてない事に未だ気づかない二人だった。

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