第78話 魔道具師

 『アカバネ魔道具』が魔道具ギルドによって分解された事件は、たった数時間で決着が着いた。


 王国に唯一賃貸した『エアコンキューブ』は、すぐさま魔道具ギルドへ送られたという。


 王国的にも分析して自分達の物にしようとしたのだろう。


 しかしそれは叶わず、バレてしまいお父さんから直に抗議が入った。


 ついでにアカバネ商会から王国領内の賃貸申請全てを却下させると伝えたら、事件の解決は驚く速さで進んだ。


 まず、慰謝料として白金貨一枚を支払うと言われた。


 しかしその白金貨ってこの事件で家が潰れたサイレンス家の全財産だという。


 それをそのままアカバネ商会に当てるのだから……王国領貴族の汚いやり方だなと思うのが感想だ。



 二つ目は、分解を行った本人を処刑すると言う。


 優秀な魔道具師でもあるし王都貴族達によって犠牲になった人でもあるので、表向きは処刑にして奴隷としてアカバネ商会へ招く事にした。


 今まで散々自分の事をこき使ってきたサイレンス家はどうでも良いって言い放ったらしいので、家族は除き彼女のみ招いた。



 三つ目は王国領内のアカバネ商会税率を十年間無しにしてくれると言われた。


 実は上記二つの案を出した際、全く良い返事をしてないダグラスさんに対して、王国の宰相様から苦肉の策としてあげてくださった案だった。


 それ程『エアコンキューブ』を貴族達が待ち望んでいたとの事だった。


 これがのちに『グランセイル王国エアコン事件』となるのだが僕には知らない話だ。


 グランセイル王国が一介の商会にけたこの事件は多くの人々に様々な影響を与えたのだ。




 ◇




「マリエルと申します。この度処刑される所を助けて頂きありがとうございます。奴隷にするなりご自由に使ってください」


 彼女は今回事件の一番の被害者であるマリエルさん。


 世界でも数人しかいない上級魔道具師さんだ。


「マリエル殿、此度の事件は大変でしたね。ですが実際に破ったのはマリエル殿になります。これからオーナーの奴隷になって頂き、その一生をオーナーのために働いて貰いますよ?」


 ダグラスさんがそう話す。


「かしこまりました。これからはオーナー様に忠誠を誓います」


「それで宜しいかと思います。ではオーナーを紹介しましょう」


 ダグラスさんは僕の前に彼女を連れてくる。


「こちらがオーナーのクロウ様でございます」


「なっ!? 子供!?」


 あ……この反応、最早いつものだね。


「こんにちは! 僕はクロウって言います、これからアカバネ商会で誠心誠意働いて貰いますね?」


「は、はいっ。かしこまりました」


 理解が追い付かないようで、彼女はあたふたする。


 そんな彼女を僕の奴隷に登録した。



 それが終わると警備隊から報告があった。


「オーナー。店でオーナーに会わせろと怒鳴り込んで来た輩がございます。お会いになりますか?」


「うん? どんな人なんですか?」


「はい、元魔道具ギルドの者だと言えば分かってくれると言っています」


「元魔道具ギルドの者?」


 その時、マリエルさんが何かを思ったようだ。


「オーナー。もしかしたら……私の後輩かも知れません」


「マリエルさんの後輩ですか?」


「はい。十年程ずっと一緒に研究していた後輩です。当日も…………」


「なるほど! では会ってみましょうかね」


 彼に会う事にする。


 向かった場所にいたのは、人生を諦めた顔になってボロボロの青年が一人。


「ッ!? 僕はこんな子供に用はない! オーナーに会わせてくれ!」


「こんにちは、僕が代わりに用事を聞きますよ?」


「くっ……アカバネ商会はこんな子供まで使うのか…………」


 彼の目は怒りでいっぱいだ。


「まあ、どうするかは聞いてから決めますので、まず用件を聞きましょう」


「…………アカバネ商会の魔道具を分解して捕まった魔道具ギルドの一人がいるはずだ。彼女は君達のおかげで処刑された」


「ふむ……ですが、あれは彼女がアカバネ商会の忠告を聞かず、分解したからでは?」


「ああ! そうとも! でも……あんな凄い魔道具を目の前にされたら……先輩が我慢出来るはずもないだろう!」


 アカバネ魔道具ってそんなに凄い魔道具なのだろうか?


 僕はいつも使っているからどれくらいかイマイチ分からないでいる。


「だから……最後に僕の全財産金貨三十枚だ。そしてこの命も差し出す。だからどうか……アカバネ魔道具の製作者に一度でいいから会わせてくれ! その後、先輩の墓で報告したらこの命好きに使ってくれて構わない!」


 えええ!? …………復讐にでも来たのかと思ったけど、どうやら違うみたいだ。


 精霊眼でも噓偽りないと分かった。


「分かりました。その提案受けましょう。代わりに…………先に奴隷になって貰いますが宜しいですか?」


「ああ! 構わない! 必ず魔道具の……あの神の魔道具の製作者に会わせてくれれば何でも良い!」


 か、神の魔道具か……。


 僕、神でも何でもないただの少年なんだけどな……。


 ちょっとだけ変な職能を持ってるだけだしな……。


 それから彼と奴隷契約を結んだ。


「はい、ではまずこちらに来て貰います」


 彼を連れて先輩・・の元へやってきた。


「せ、先輩!?!?」


「はぁ、やっぱりペリオだったのね…………」


「せ、せんぱぁああああいいぃいいいいい」


 ペリオさんがマリエルさんに突撃した。


 マリエルさんが仕方ないわね。とボロボロ泣いているペリオさんを宥めた。



 それから数分後、ペリオさんがようやく落ち着いた。


「それでは、ペリオさんとマリエルさん」


「オーナー申し訳ありません」


「え!? オーナーって……この少年が!?」


 やっぱりその反応なんだね……。


「ではお二人はこれからアカバネ商会の魔道具隊になって貰いますよ」


「「了解しました」」


「では、二人には最初にこれを見せておきましょう」


 そう言い、僕は『次元袋』から『エアコンキューブ』の本体を出した。


 そして、その本体に『エアコン』魔法を固定した。


 簡単に完成した『エアコンキューブ』を二人に渡した。


 でも二人は受け取れなかった。


 器用に立ったまま気絶していたからだ。

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