第77話 魔道具の分解

 ◆王都内魔道具ギルドのとある魔道具師◆


「マリエル先輩? 本当に分解するんですか?」


 僕は王都内でもエリートと言われている魔道具ギルドの一員のペリオ・スビリンだ。


 そして僕の先輩で魔道具ギルドの上級魔道具師のマリエル・サイレンス。


 彼女はとても優秀な研究者であり、魔道具師だ。


 しかし、先輩は魔道具となると人が変わる。


 最近その情熱は全て『アカバネ魔道具』に注がれている。


 マリエル先輩は全ての権力を使い、アカバネ商会の特別な魔道具を分析しようとしていた。


 でもアカバネ商会はそう簡単な商会ではなかった。


 全て拒否され、しまいにはあのエクシア家を抱え込んだ。


 その後、あの商会は『アカバネ魔道具』となる物を賃貸する事を発表した。


 恐らく王都領の貴族やうちの先輩みたいな人の対策なのだろう。


 そのアカバネ商会から賃貸した後、分解したり破壊した場合、多額の慰謝料をエクシア家から請求すると発表した。


 それを…………。



「大丈夫! 私、天才だから! ちょちょいで分解して直ぐ戻せば問題ないだろう! 先程中身を見たけど、箱自体は単純な構造だった。寧ろ何故そんな単純な構造でこれまで高性能な魔道具であるのか……それを分析しない手はないでしょう!」


「先輩……アカバネ商会から分解や破壊したらエクシア家から報復するって……あぁ聞いていないや」


 先輩の目がもうイッちゃってるよ……。


 もうこうなったら梃子でも動かないから、後はなるようになれって感じで見守るしかない。


「心配しないで! もしバレたら私一人の責任にするから」


「それは当たり前ですよ! 僕は反対しましたからね? 僕はアグウス様の大ファンですから嫌われたくないですからね!」


 アグウス・エクシア様……王国内で彼を嫌う人は誰一人いないだろう。


 それ程強く、そして気高い貴族の頂点の一人だ。


 英雄伝が幾つもあり王国内生きる伝説だ。


 そんなお方を敵に回す事だけは絶対ごめんだ!



「さあ! ここを分解すれば全ての謎が解明出来るはずだ!」


 あぁ……先輩もう大分分解している……。


 しかし同じ魔道具師としてはとても興味がある。


 あの高性能な魔法を連発しても切れない魔道具って、魔道具の中でも夢のような魔道具だ。


 しかも性能も非常に高い。


 部屋を涼しくしたり、温かくしたりと、昨今では戦いに使う魔道具ばかり開発されているがこれは違う。


 平民の……いや、人類のための魔道具だ。


 この魔道具を作ったお方は天才を通り越して、もはや神様だと思える。



「よし! これで……最後だ!!」


 そう言って先輩が箱の奥の蓋を開けた。


 その瞬間…



 パーーーーーン



 箱の中からビックリ箱のように「残念~君達は敵認定だよ~」と書かれた紙を持った玩具が出てきた。


 あ……直感でこれは不味いと分かった。


 だって、そもそも分解されるのを見越さない限り、こういう物を仕込んだりはしないだろうから。



「はあ!? なによこれ!」


 マリエル先輩が狼狽えている。


「は? 中から玩具?? それじゃ、この魔道具はどうやって動……え? 動かないわ」


 そりゃ……先輩が壊しましたから。


「先輩、それ本当に不味いんじゃないですか? 元に戻せるんですか?」


「は? 元に戻せる訳ないでしょう! だってこれは……元々・・こういう作りなんだから」


「元々……?」


「うん、これ…………魔道具じゃないわ」


「は? 魔道具じゃない?」


「ええ、これ元々ビックリ箱よ」


「いやいや、さっきまで『エアコン』魔法が効いてたじゃないっすか」


 全く理解出来ない。


「だから……可笑しいのよ…………これは魔道具の法則を無視しているわ……、一体これ作ったのどこの誰よ? 本当に神様?」


 先輩が一人で理解して一人で納得している。


「いやいや、先ず元に戻しましょうよ先輩、このままだとエクシア家と……」


「いや、もうこうなった瞬間終わりだよ、これも織り込み済みで作られた魔道具なんだよ」


「……じゃあどうするんですか!!」


「うん……逃げるか…………いや、一目製作者に会いたいわ、多分私はこれで終わりだと思うから」


「ちょっと待ってください! 先輩は天才じゃないですか! 何とか直せないんですか!?」


 だからあれだけ止めようよと言ったのに! この馬鹿先輩は!


「ううん、これは最早……人に作れる品ではないわ、だから作ったのは神様かも知れないわね」


 あの先輩が神様呼ばわりするなんて、ここ十年の付き合いだけど初めて聞いた。




 そして数十分後、騎士達が入ってくる。


「魔道具ギルドの皆様、エクシア家から賃貸した魔道具が破壊されたとの通報ですが、アカバネ魔道具を見せて頂いても宜しいでしょうか」


「早いわね……どうやってこんなにく来れたのかしらね」


 先輩は何も隠さず、分解した魔道具を騎士達に渡した。


「なっ!? サイレンス殿、これがどういう事を招くかご存じですか?」


「知らないわよ。そもそもその魔道具を最初・・にこちらに回したのはあんた達だろう? 分解してくれと言わんばかりじゃないか」


「ッ、そんな言い訳は通用しませんよ?」


「ふん、どうせこうなったら私一人に全責任を押し付けようとしてたんだろうよ。まあいいわ、分解したのは私一人だし、後悔なんてないわ。好きなようにしなよ」


 そうして先輩は騎士様達に連行されて行った。




 ◇




 それから……アカバネ商会から「王都内の魔道具の申請全てを却下します」と通知があった。


 それで王都内の貴族達全員から怒りを買ってしまった。


 どの貴族も味方せず、サイレンス家は全責任を取られ、家は破門となり、先輩は一人で責任を取り処刑が決定した。


 何故、僕はあの時、先輩を力づくで止めなかったのだろう……。


 何故、僕はあの時、連れて行かれる先輩を追わなかったのだろう……。


 後悔しかない。


 僕は魔道具ギルドに退職届を出して、その足で『アカバネ商会』へ向かった。

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