第73話 エクシア家の交渉

 今日はお父さんから呼び出しがあった。


 お父さんの書斎へ行くとお母さんもいた。


「クロウ、これから面会があるから付いて来てくれ」


「はい? 僕がですか?」


 言われるがまま、お父さんとお母さんと一緒に屋敷の貴賓室へと向かった。


 そして貴賓室へ入った。



「「オーナー!?」」


 へ?


「へ?」


 そこには驚いたダグラスさんとディゼルさんがいた。



 えええええ!?


 何でお二人がここに!?


「はぁ、やっぱりクロウの知り合いだったか……」


 お父さんが呆れたように話した。


「オーナー……貴族だとは思っていましたが…………エクシア家でしたか……」


「あ、あはは……二人とも……すいません……」


「屋敷に入った時、屋敷内で『エアコン』のような感じがしていたので、もしやとは思いましたが……」



 それからお父さんとお母さん、ダグラスさんディゼルさんがお互い挨拶を交わす。



「まさか、天下のアカバネ商会のオーナーが……自分の息子だったとはな…………」


「貴方、アカバネ商会のあの奇抜な発想はクロウくんのモノだと思うと納得しますわ」


「オーナーと初めてお会いした時の資金は……なるほど、大貴族ならではの事でしたか」


「うん? クロウ? もしかしてその資金ってお小遣いで渡したお金なの?」


「え? は、はい」


「大銀貨10枚が…………あの時、何か企んでそうな顔だったから渡したら……これ程の大事になっていたとはな」


「えぇ、子供のお小遣い程度では足りないと思ったのは正解でしたわね」


 どうやら大銀貨10枚をお小遣いとしてくれた訳ではなさそうだ。


「えっ!? あれって単純にお小遣いだったんじゃないの!?」


「それはそうよ! いくら貴族とは言え、子供に大銀貨10枚も渡すもんですか!」


「あう……そうだったんだ…………」


 ダグラスさん達も呆れた顔で僕を見た。



「コホン、それでダグラスさん達は今日どうしてうちに?」


「………………オーナー? 昨日の会議を……」


「あっ」


 わ、忘れていた……。


 ダグラスさんが妙案を出すものだから……。


 あぁ、二人ともそんな呆れた顔で見ないでよ……。



「それでは、改めまして、我々アカバネ商会ではこれから『無限魔道具』を販売する事になりました……が、そのままですと販売価格が高額すぎる上に秘匿情報もございまして、販売ではなく賃貸にしようと考えております」


「『無限魔道具』と言うのは……クロウティアが作った『魔道具』ですかね?」


「はい、その通りでございます」


「なるほど、分かりました。続けてください」


「そのまま賃貸にしてしまうと、王国領の貴族や王族から無理難題を付けられるのが目に見えております。そもそもこの賃貸も彼らの圧力があったからこそです。ですのでエクシア家にはその受け皿になって頂けないだろうかと言う商談でございます」


「ふむ、王国領の連中は権力に煩いですからね……」


「現に王都支店では毎日のように貴族や士官が訪れて、早く献上せよと言っています」


「献上……ですか、相変わらず王都の連中は…………」


「賃貸する『無限魔道具』は全部で三種、『エアコンキューブ』『シャワー』『水が出る魔道具』です。後者二つは使用した水の量でも請求額が上がる仕組みです。毎月の契約の予定でございます」


 お父さんお母さんが頷きながら聞いている。


「当初の予定では、『無限魔道具』をタダで貸す事でエクシア家への手数料として提示しようとしておりましたが……どの『無限魔道具』も屋敷にはございますからね。困ったものです」


 ダグラスさんが苦笑いをしながらそう話した。


「もし屋敷に『無限魔道具』が一つもなかったら、すぐに食いつきましたよ……」


「はい……『無限魔道具』は恐ろしいですからね」


「えぇ……それはもう……クロウティアが初めて作った時からこうなる事は予想していましたが、些か速すぎますね」


「ははは、王国の英雄殿でもクロウ様は手に余るのですね」


 お父さんってやっぱり英雄って言われているんだ。


「まあクロウティアに比べたら大した事はないんですが、取り敢えずその件は了承しましょう」


「!? それはアカバネ商会に取ってはありがたい申し出ですが、手数料等はまだ提示出来ないのですが宜しいんですか?」


「えぇ、息子がオーナーですからね、親としては協力しますよ。と言うのを建前に……実はアカバネ商会に協力するのはこちらにも大きな得があるのです」


 ダグラスさんが目を光らせた。


「バレイント領の領主殿とお茶会をしまして、その時アカバネ商会の素晴らしさを聞いています。つまりうちの領でも同じく支店を展開してくだされば、それが領民のためになりますから。既に各町に支店があるようですが、開店しているのはごく少数ですから、これを機に領内全支店の開店を手数料として受け取りましょう」


「さすがはエクシア家当主様でございます。アカバネ商会の領内開店がどれ程の影響があるのか……良くご存じで」


「まあ、これもうちには優秀な相談役がいますから」


 優秀な相談役? 誰だろう?


「それと、エクシア領で商売も許可しましょう。税は最低限率で構いません。それでも恐ろしい金額になるでしょうから」


 ダグラスさんがニヤッと笑う。


「それはとてもありがたい限りでございます。これよりアカバネ商会頭の権限を持ってエクシア領内の商売は責任を持って行いますので、これからもよろしくお願い致します」


「えぇ、こちらこそ、領民達のためにもよろしくお願いします」



 こうして、アカバネ商会の王国内初めての広範囲開店はエクシア領で展開された。


 この契約からアカバネ商会はエクシア家を盾に大きく躍進する事となり、エクシア家はアカバネ商会と言う大きな金を産む商会を内に抱える事となった。


 アカバネ商会のエクシア領内税収が最低限になったにも関わらず、エクシア領の税収が大きく上がり、それを皮切りに他辺境伯からも打診があるのは、そう遠くない未来の話しだ。

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