第72話 ダグラスの妙案

「はい。ギルド『アマゾネス』は、王国内にあるAランク冒険者ギルドの一つで、女性のみで且つ職能持ちのみが加入出来る上位ギルドでございます」


 Aランク冒険者と言えば『スレイヤ』パーティーのお姉さん達を思い出す。


 クランは複数人数の冒険者で組んでいる組織の事だ。


 全体に対応するギルド、つまり国営ギルド等は〇〇ギルドと呼び、民間のギルドはギルド『○○』と呼ぶそうだ。


 冒険者ギルドや商会ギルド等。



「そのギルド『アマゾネス』ですが、どうやらナターシャを随分と気に入ったようでして、『姉貴』なんて呼び親しんでおります」


 姉貴!? ナターシャお姉ちゃん何かしたのだろうか?


「そのナターシャを……から守るとギルド『アマゾネス』全員が協力し、10人がまとめて売り出して『プラチナカード』の点数を稼いでおります」


 賢いな……。


「そしてこのままですと、今回の表彰上位十名全員がギルド『アマゾネス』のメンバーとなります」


 それは……しかし正規なやり方だから禁止する訳にも行かないのよね。


「そればかりに制限を設ける訳も行かないですね。それでも彼ら彼女らは頑張ってくれてますし、アカバネ商会としては静観するしかないですね……」


「はい、前回の会議でもそう結論付いておりました」


 うん……やっぱり皆さんもそう思うよね。皆さんも同意するように頷いた。



「では最後です、これが現状一番深刻な問題になります」


 ディゼルさんが険しい顔になった。


「先程の『無限魔道具』ですが、すと話しましたが、今でも各地の有権者達からの圧力が凄まじいです。そして今では王家までもが乗り出しており、献上・・せよと命じています」


「ん……そこまでですか……」


「王都支店に毎日のように王国の偉い貴族から士官が訪れては『無限魔道具』を寄越せと言っております」


「王都支店ですか……しかし何故王都支店だけ?」


「はい、それは王国内の情勢によります。王国領は『権力』を最も大事にしております。ですのでその権力が一番だと言わしめたいのでしょう」


「権力ですか……」


 以前読んだ本で権力はいつの時代も駄目にするって書いてあったけど……うん、分かった気がする。


「何もしてくれない相手にタダで渡す程、こちらは困ってないですからね」


「はい。しかも、もしあれらに貸した場合、踏み倒されるとみて間違いないでしょう」


「なるほど、もし踏み倒した場合、『無限魔道具』を切りますので、問題ないでしょう」


「いえ、もしそうなったら今度は不良品だと難癖付けて来るはずです。王国領はそういう貴族が多いのです」


 む、これだから貴族は嫌なのだ! …………僕も貴族だけど、お父さん達は本当に偉いなと再度思えた。


「その打開策として、一つ提案がございます」


「はい、どんな提案ですか?」


 ディゼルさんの目が光った。


「アカバネ商会の『本店』はエドイルラ街です。つまりエクシア領です。そもそも『本店』を決める際の一番の理由はこのエクシア領である事です」


「エクシア領である事……?」


「エクシア家の現当主様はとても正義に溢れた方と聞きます。武勇伝も多く、政治も後ろめたい事は何もない方です。領民からも絶大な信頼を得ていますし、アカバネ商会への過剰な接触もしてこないと……ここ稀に見る為政者であります」


 えぇ……お父さんって武勇伝多いの?


 そう言えばうちの領民って誰もお父さんの悪口は言わなかったっけ……。


「そこで、エクシア当主様には申し訳ないが……ここは利用させて頂こうと思います」


「エクシア家を……利用ですか?」


「はい、アカバネ商会から『無限魔道具』を全てエクシア家を通して出せば、貴族や大商会でもそう簡単には無視出来ないでしょう」


 な……るほど……?


「そして、エクシア家には『無限魔道具』を無償で貸し手数料の代わりに出来るのではないかと考えています」


 あ、あはは……うちの屋敷にはもう既に『無限魔道具』だらけなんだけど……どうしよう?


「ん? クロウ様どうかなさいましたか?」


 ちょっと引き攣った顔になっていたからディゼルさんにそう言われてしまった。


「い、いいえ、何でもありません!」


「ふむ……もし何かありましたらいつでも仰ってください」


「え、えぇ」


 どうしよう……僕の事話した方がいいのかな……。



 そんな事を考えていたら、会議が終わっていた。



「それでは、これで会議は終わりますが最後にクロウ様から連絡があると先程仰っていましたが、如何ですか?」


「あ、そうでした」


 コホンと軽く咳払いをする。


「最近課題に上がっていた土地ですが、解決出来そうです、実は四か月後くらいに広い土地が手に入りそうなんです」


 そう言うと、みなさんが食いついて来る。


「それはどこの土地ですか?」


「えっと……まだ確定では……いや、確定しているんでした。僕、とある『島』を手に入れたんですよ」


「「「島!?」」」


「はい、あと四か月後に完成するみたいですが、どのくらいの大きさかは分かりませんけど」


「さすがクロウ様……今度は島ですか……島……」


「島って……手に入れられる物だったんですね……」


 え? みなさん? なにか呆れかえっていません!?


「その島次第ではありますが、各支店にその島を繋いで工場へ行き来すれば工場の問題は解決するかも知れません」


「クロウ様、一つ宜しいですか?」


「どうぞ、ダグラスさん」


「もしその島の大きさが大きければ、島にも支店を作っても宜しいですか?」


「ん~、あんな島に何故支店を?」


「もしも、島に……町を作れるのであれば、アカバネ商会の正従業員達の町にしたいと思いまして」


 正従業員達の町!?


 そんな事、考えすら思いつかなかった。


「ダグラスさん! それ凄くいいですね! つまり島から各支店へ直接出勤出来るようにすれば……」


「はい! 全員同じ町で住めるのは大きいです。先程の料理の件もこれで決着が付きます」


「たしかに! 食堂も島にしてしまえば! みなさんの休憩も島で取って貰い……護衛隊も島から出動出来れば各支店で最小限に配置出来そうですね!」


「はい! しかもクロウ様が島を手に入れたって事は、誰も口を出せない。つまりその島では今までアカバネ商会が出来なかった色んな事が出来るかも知れません」


 僕とダグラスさんは期待を膨らませた。


「しかしまだ島の大きさが分からないので過剰な期待はせず、もし島に町を作れる面積が出来たら視野に入れましょう!」


「「「はっ、かしこまりました」」」


 ダグラスさんの妙案で、もしかしたら『魔導島』でアカバネ商会専用の島が出来るかも知れない。


 その期待を胸に屋敷へと戻っていった。


 その時、エクシア家の件はすっかり頭から抜けていた。

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