第53話 姫の復活

 奴隷伯爵に『座標石』を渡してから一週間が経過した。


 何処の街なのかは知らないけど、エドイルラ街からだと随分遠い場所に向かっている。


 今まで転移した距離では断トツに遠い場所だ。


 向こうに飛んで『エリクサー』『ソーマ』を使って帰って来れるくらいのMPはぎりぎり大丈夫そうだ。


 全く動かない所を見ると、そろそろ『座標石』を使われると思われる。



 その次の日。


 正午に『座標石』が使われた。


 出番のようだ。


 念のため、精霊眼を全開にして向かおう。




 ◇




 部屋の中に飛ぶとベッドには綺麗な少女が一人、すぐ傍には筋肉がはちきれんばかりに鍛えた中年男性がいる。


「ふむ、この『宝石』はそういう効果だったのですね」


 中年男性はそう言い見つめてくる。


「こんにちは~、伯爵・・


「本当に貴方という方は……ここが危険な場所だったらどうするつもりで?」


「あはは~、僕は伯爵さんの事、信じていましたから」


 それを聞いた伯爵さんは苦笑いを零す。


「こちらのお嬢さんが例の彼女さんですか?」


 ベッドの上に静かに眠っている。


 薄紫色の綺麗な髪で、病気の所為で痩せてはいるが、ナターシャお姉ちゃんやセレナお姉ちゃんにも負けない美貌なのが分かる程に綺麗な人だ。


「そうです。その女性を……治して頂けますか?」


「分かりました。これから行う事も伯爵を信頼してますので」


「もちろんです。ここに私が一人いるのがその証拠です」


 部屋の外には大勢の人がいる。何処かのお城のようだ。


「では施術後に僕はすぐ飛びますので、後は予定通りお願いしますね」


 大きく頷く伯爵さん。


 それでは――――『エリクサー』と『ソーマ』を合わせる。


「『魔法』……でしたか」


 小さく伯爵の声が聞こえた。


 それから『エリクサー』と『ソーマ』の光が部屋を包む。


「なんと神々しい光だ……」



 技が終わり、光が消える。


 精霊眼で彼女の『呪い』と『衰弱』が治った事を確認する。


「伯爵。施術は終わりました。では僕はもう飛びますね? 彼女はあと数分で目を覚ますでしょう」


「そ……れは……誠でございますか」


「えぇ、ではまたホルデニアでお会いしましょう伯爵」


 そう言い僕はエドイルラの屋敷へと帰った。



「お帰り~」


 笑顔のお姉ちゃんが出迎えてくれる。


 うん、お姉ちゃんの笑顔、世界一可愛い。





 ◇





 ◆帝都城内◆


 皇帝カイザはソワソワしていた。


 医師から今日が山場と言われた娘。


 そんな彼女を治せるかも知れないと言ってくれた友人。


 現在、その友人が施術を行っている。


 部屋に入り既に5分が経とうとしている。



 その時、部屋が開いた。


 アデルバルト伯爵が慌てて出てくる。


「陛下! 皇女殿下が……皇女殿下が!」


 アデルバルト伯爵の泣いている声に胸騒ぎがした皇帝は急いで部屋に入っていく。




 ◇




 一週間後。世界に大きいニュースが流れた。


 『アーライム帝国のレイラ皇女、不治の病から奇跡的な生還を果たす』


 現聖女ですら匙を投げる程の病気が治った。


 その事実は瞬く間に大陸中に広がった。


 アーライム帝国ではレイラ皇女復活祭が開催されるほどであった。




 ◇




 ◆レイラ・インペリウス◆


 私が5歳の誕生日の事でした。


 職能開花を楽しみにしていた瞬間、身体から赤黒い煙が出てから私の人生はどん底に落ちました。


 後からお父様が制圧した相手から呪いを受けた時に、跳ね返した呪いが私に飛んできたとの事です。


 お父様とアデルバルト伯爵様は後悔しておられましたが、私はお父様やアデルバルト伯爵様が呪いに掛からなくて良かったと思っております。


 あれから三年……。


 長く苦しみました。


 毎日痛みで苦しみました。


 職能開花でお祝いになるはずでした私の職能は、きっと帝国にとっても大きいモノだったでしょう…………。



 昨日医師から今日で限界だと言われました。


 はい……私自身でもそう感じております、そろそろお母様の元へ行くのでしょう。


 一度もお会いした事のないお母様……私を受け入れてくださるのでしょうか?




 何やらアデルバルト伯爵様がお見えになられました。


 アデルバルト伯爵様から「皇女殿下、助かるかも知れない方法を見つました」と言われました。


 アデルバルト伯爵様が私なんかの為に一生懸命に世界を歩き回ってくださっていましたからとても嬉しいです。


 アデルバルト伯爵様から治すのは明日正午、お昼には黄色い薬を飲んで貰うと言われました。



 次の日、アデルバルト伯爵様から黄色い薬を受け取り飲みました。


 今までずっと身体中が痛かったのが嘘のように消えました。


 それから眠くなり、眠りました。




 それからとても温かい光に包まれた気がします。




 あれから目を覚ますと、今までの痛みが嘘のように消えていました。


 寧ろ、元気になり、今でも飛べるんじゃないかと言える程、身体の内側から力を感じます。



「皇女殿下! お加減は如何ですか!?」


 目に涙を浮かべたアデルバルト伯爵様がいました。


「はい、とても良いです。今までで一番元気になりました。今すぐに飛べると思える程に」


 そういうと伯爵様は急ぎ足で部屋の扉を開き、お父様を呼びました。


 入って来たお父様は私の元気な姿を見るや否や大きい涙を流して抱きしめてくださいました。


 私が5歳以来、最も幸せな瞬間です。



 あれから3日が経ち、今では元気に城内を歩けています。


 アデルバルト伯爵様にどうやって治したかお尋ねしましたが、教えてはくださりませんでした。


 お父様にも秘密だとの事です。


 あの日、私を包んでくれた光からは優しい匂いがしました。


 あれは……申し訳ありませんがアデルバルト伯爵様ではないような気がします。


 いつか、私を治して頂いた方に出会えたら、感謝の言葉を伝えたい。


 その日を夢見て、これから毎日精進していきます。

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