第35話 ミリオン商会

 ◆ダグラス◆


 貿易街ホルデニアに到着した。


 最近王国内の物価を荒らしたので、ここに来る途中は何もしていない。


 余計な敵をさらに作るべきではないからだ。


 俺はオーナーに商会登録を勧めたが、どうやらお気に召さなかったようだ。


 それもそうだ。あの方は年齢こそまだ6歳だが、とてつもない魔法をたくさん使える。


 その力だけで世界の商売を掌握出来るんじゃないだろうかと思える程に。



 先日ここ貿易街ホルデニアの老舗商会の『ミリオン商会』が貴族から見放され、娘が病気になりと、散々な状況だと噂されていた。


 その商会は元々コルディオ領内で広く商売をしていたが、今ではホルデニア街の商会本店しか残っていないとのことだ。


 商会頭の娘がとても美人なようで、彼女が学園に通っていた時、コルディオ家の息子に目を付けられたそうだが、コルディオ家の息子を拒んだ彼女に、卒業と共に報復が始まった。


 それから二年後、娘は病気となりそのままベッド生活を送っているそうだ。


 その病気を治そうと有り金を吐き出しつつ、コルディオ家の息子の報復で少しずつ契約が打ち切られ、ミリオン商会はもう既に虫の息だ。


 俺の予想だと、今年も持たないだろう。


 今月まで持つかすら怪しい。


 だからこそ、その商会を狙いにホルデニア街にやってきたのだ。


 あの商会の土地は一等地にあり、貿易街ホルデニアで商売するには一番良い立地でもある。


 そこであの土地を買い叩こうと思う。




 さっそくミリオン商会へやってきた。


 メイド服を着た女性が出迎えてくれる。


「いらっしゃいませ、お客様、申し訳ございません…………商売はもうしていないのです…………」


「はい、存じております。実は大切な商売のをお持ちしました。ダグラスと申します」


「そうでございますか……うちに出来る事があるかは分かりませんが、旦那様をお呼びしましょう」


 予想通り状況はかなり悪いようで、そのおかげもあり店主には簡単に会えそうだ。



 待っている間、客間に通された。


「それにしても、閑古鳥が鳴いてるわね」


「ふむ……コルディオ家の嫌がらせは相当なものらしいな」


「ふ~ん、でも良いの? こんな店を手に入れても客が来るとは思えないんだけど……」


 アヤノとは随分打ち解けてきた。


 今ではお互いに名前で呼び合っているし、言葉もラフになっている。


 オーナーに最初に認められた二人だからこそ、こうして対等に話す事を決めたのだ。




 トントン――


 ノックの音がして扉が開き、目の下に隈が出来ているボサボサ髪の中年が入ってくる。


「初めまして…………私がミリオン商会の店主のディゼルと申します…………」


「初めまして、ダグラスと申します。こちらは護衛のアヤノです」「どうも」


「まともなおもてなしも出来ず申し訳ございません…………現在私達の状況が芳しくないのでして…………」


「えぇ、構いません。というのもそれを見越して来ていますから」


 それを聞いたディゼルの顔が強張る。


「私達はとある方に仕える者達です、あぁ、誓ってコルディオ家とは関わっていないのでご安心を」


 ディゼルの顔が少し緩む。


「それで、その方というのは……?」


「それはまだ教えられません」


「そうですか……それでは要件をお聞きしましょう」


「単刀直入に言いましょう。商会の全てを売っては頂けませんか?」


「…………」


「噂は聞いております。どうやらコルディオ家と揉めていらっしゃると?」


「くっ……あれはディオのやつが一方的に……うちの娘が求婚を断ると報復に…………」


「まぁ、少なくとも辺境伯の家に連なる人ですからね。断るとは大したものです」


「えぇ…………ですが、娘の結婚相手だけは、娘に決めさせると誓ったのです。娘が良しとしない相手との結婚など…………」


 ディゼルさんはどうやら娘思いの人なのだろう。


 だが人情だけでは商売は出来ない。


 時には切り捨てる覚悟がなければ…………でもそれをも物ともしない力あれば或いは…………。


「そういえば、お嬢様は病気になられたと?」


「あれは病気なんかではありません……呪いではないかと…………」


「呪い……ですか」


「えぇ、『ポーション』を飲んでも治りませんでした。聖職者達の魔法でも治らずお手上げという状態です…………病気ではなくて呪いではないかと思えて仕方がないのです……」


 そう言うとディゼルさんは涙ぐむ。


「分かりました、ではこういうのはいかがでしょう? お嬢様の病気を治せるかも知れません」


「なっ!? それは本当ですか!? 娘の病気を治して頂けるなら何でもします! どうか娘を助けてください!」


 余程長年苦労していたのだろう。彼の言葉から必死さが伝わってくる。


「実は私達が仕えているお方は、病気を治すすべがございます」


「えっ? そうだっけ?」


 ボソッと小さい声でアヤノが呟く。


「本当ですか! ぜひ、お願いします! どうか!」


「ですが、これも商売ですから。まず、あのお方に連絡を取ります。そしてあのお方から承諾を得ないといけません。もし彼女を治せた際には…………」


 ディゼルさんが息を吞んで聞いている。


「ミリオン商会の今の全て・・を頂きます」


 俺はディゼルさんにそう告げた。




 ◇




【以上が、今回ミリオン商会とのやり取りでございます。オーナー】


【了解! その件、承諾しましょう!】


【かしこまりました。しかしオーナー、こちらは港街セベジアから一週間程離れていますが宜しいのですか?】


【全く問題ないですよ! 以前渡した宝石を誰もいない場所の地面に置いてください!】


【あぁ、あの宝石ですね? かしこまりました】


 オーナーに現状を報告すると、どうやら宝石を置いてと命じられた。


「その宝石、どんな凄いアイテムなのか楽しみだね!」


「アヤノ……あのオーナーだぞ? とんでもない物に間違いないだろう」


「うん……本当……オーナーって何者なんだろうね」


「さぁ……だが、何者でも良い。俺達にとっては命の恩人だ。俺は……オーナーのために生きると誓ったからな」


「うん、それは私も同意見だし、こんな好待遇で素晴らしい雇い主はいないからね。一生仕えるわよ」


 アヤノと話しながら路地裏にたどり着いた。


「ここら辺に人は?」


「全くいない、ここなら大丈夫」


「分かった」


 アヤノに周りの気配を探って貰い、問題がないとの事なので、宝石を地に置いた。


 数秒後、地に置いた青い宝石は、青い光を発した。


 待つ事数秒、光が終わりその光の中からとんでもないモノが現れた。

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