被虐待児の最強転生して優しい家族に囲まれ

第31話 結果報告

　次の日、僕はダグラスさんに会いに港町セベジアにやってきた。

　ダグラスさんは宿屋の一階に設けてある食堂で朝食を取っていた。

　僕を見つけたダグラスさんがすぐに立ち上がる。

「オーナー！」

「ダグラスさん、お久しぶりです」

　嬉しそうな笑みを浮かべたダグラスさんと久しぶりに会えた。

　残り朝食を食べ終え、僕達はダグラスさんが借りている部屋で移動する。

　しかし、その後ろを付いて来る忍び足があった。

「霧属性魔法、防音結界」

　部屋に着いた僕は部屋に防音結界を張る。

　霧属性魔法は主に幻術や罠の魔法があるのだ。

「オーナー？」

「ダグラスさん、誰かに付きまとわれてますよ？」

「本当ですか！？　…………それは大変申し訳ございませんでした」

「相手は相当強い人のようですね…………何か思い当たる人はいますか？」

「……、いえ、全くありません――――ですが」

「ですが？」

「今から報告致しますが、私は色んな町で多額の利益を生んでいます。もしかしたらそこに目を付けられたのではと…………」

「あ……、そうかも知れません。どうやら彼女は隣の部屋にまで泊っているみたいですし」

「彼女……というのは女性の方ですか？　しかも隣部屋とは……」

「はい。今もこの部屋内の事を盗み聞こうとしてますね。まぁ一旦放置しても問題ないですけどね」

「…………分かりました。では報告致します」

　魔法で防音結界を張っていて、中の音を盗み聞きされる心配はないので、放置することにしよう。

　テーブルを持ってきたダグラスさんは、テーブルの上に『次元袋』と大量の金（・）貨を置いた。

「まず、大銀貨１０枚を三か月間色んな町を周り、昨日商品全ての換金が終わりました。結果、金貨６０枚になりました」

「金貨６０枚！？　ええええ！？」

　たった三か月で増えたお金は６０倍にも及んだ。

「はい、オーナーからお借りした資金だけでなく、『アイテムボックス』があれば大した事ではありません」

「いやいや……とんでもない稼ぎですよ！　正直ダグラスさんを甘くみてました…………」

　キョトンとした顔で驚いてる僕にダグラスさんは笑いながら話した。

「ははは、オーナーを驚かせられたのなら頑張った甲斐があったってもんです」

　ダグラスさんには商売才があると思っていたけど、想像していた以上に凄腕だったね。

「では、オーナー。先日の契約通り、金貨６０枚を納めてくさだい」

「え？　６０枚って、ダグラスさんの取り分はちゃんと取ってますか？」

「いえ、全く取っておりません」

「！？」

「これが俺の答えでございます。この金貨をオーナーに全額返し、もしオーナーがまた俺を使ってくださるのならまた全力で励みます。要らないと仰るなら、俺の商人人生はこれで終わりでしょう。

　これ程自由に商売をするなんて、生まれて初めてで、こんなにも楽しい思いをさせて貰いました。商人冥利に尽きるという事です」

　『精霊眼』を使わなくても、ダグラスさんの真剣さと堅実さが伝わってくる。

「ダグラスさん…………うん。契約通りこの金貨は全部受け取ります」

　そう言いテーブルの上の金貨を全て受け取った。

「これで契約は完遂ですね」

　以前契約を交わした『契約の紙』は淡く光り、紙に書かれていた内容とダグラスさんのサインが消えていった。

「それでは、ダグラスさん。まず隣のお姉ちゃんを呼びます。敵だと容赦するつもりはないので、そのつもりでいてください」

「かしこまりました」

　◇

　◆ダグラスが泊っている部屋の隣部屋で盗み聞きをしている女性◆

　先日見かけた商人の後を付けた。

　『アイテムボックス』を持って商売をし、多額の利益を生んでいた。

　私がその現場を目撃出来たのは、単に運が良かっただけではなく、私が護衛志望だからだ。

　港街セベジアに来て、護衛仕事を狙いつつ、報酬を多く払えそうな商人を探した。

　それが彼だった。

　名前はダグラスさんと調べがついた。

　宿屋に泊まってる所も彼の隣部屋を取り、彼の秘密を探る事にした。

　何故なら、彼を只の商人だとは思えないからだ。

　彼は今朝、５歳くらいの子供と待ち合わせをして、部屋に戻っていた。

　その時、彼が子供を「オーナー」と呼んでいた事に違和感を感じた。

　彼の後ろにいるのがあの子供かも知れないと直感したのだ。

　彼らが部屋に戻り、私もその隣の自分の部屋へ戻った。

　あとは私の能力で、隣部屋の声を聞こうとした。

　しかし何も聞こえない、不自然だ。

　歩く音、息遣いの音一つすら聞こえない。あの部屋には誰もいないと言わんばかりに何も聞こえなかった。

　でも、入って行ったのは間違いない。少しこのまま様子を見ながら盗み聞きを続ける。

　しかし――。

　それは一瞬の出来事だった。

　いきなり私の周りに黒い手の形をした影が現れた。

　こう見えて私は諜報が得意で素早さには自信がある。

　でも影に一瞬で反応は出来たものの、数が多さとあまりの速さに捕まってしまう。

　何とか、その一本を剣で斬りつける事が出来た。が、影の手は傷一つ付かなった。

　そして私はその影に全身を縛り上げられ、見知らぬ空間に吸い込まれる事となった。

　◇

「闇の手」

　そう唱えて、隣で盗み聞きをしているお姉ちゃんを捕まえる。

　それにしてもあのお姉ちゃん、中々優秀だ。

　一瞬で反応し、闇の手一本を斬りつけたのだ。

　もちろん斬れるはずもなかったが、あの反応と動きの速さはかなり強い。

　感覚的に『スレイヤ』のアグネスお姉さんと同等の強さだと思う。

　彼女を闇の手で異次元空間に入れ、今度は僕の前に出す。

　彼女の両手両足胴体首を闇の手で縛り、口の中にも闇の手を入れている。

　この状態で動ける人はそうそういないはずだ。

　異次元空間から出した彼女は驚いた顔で僕を見て、ボロボロに泣き始めた。

「お姉さんが誰かは分かりませんが、この部屋を盗み聞きしていたことは知ってます。嘘は通用しないのでそのつもりで聞いてください。　

　これから口を塞いでいる闇の手を抜きますので、絶対に声は出さないでください。僕の質問以外には何も言っちゃだめですよ？　それに納得したら両目を３回瞬きしてください」

　そう言うと、彼女はすぐに瞬きを３回繰り返す。

　口の闇の手を抜き、全身を縛っていた手も少し緩めてあげた。

「げほっげほっ」

　彼女はすぐさま僕の前に土下座してくる。

「それじゃあ、まずお名前を教えてください」

「アヤノでございます……」

　もちろん精霊眼を既に使っている。嘘をついたらすぐに分かるはずだ。

「盗み聞きしていた理由は？」

「はいっ、私は護衛志望でして、より高い報酬で雇ってくださる商人さんを探しておりました。昨日たまたま見かけたダグラス殿が、一人で多額の取引をしている所を見かけました。只者じゃないと思い、ダグラス殿がどういう方か調べて護衛を売り込むつもりでした」

　嘘は一つもない。

「なるほど、それでも盗み聞きはあまり…………」

　彼女はますます深く土下座をする。

　一言も言わないところを見ると、自分の今の立場をちゃんと理解しているようだ。

「では、僕達に言いたいことはありますか？」

「はい！　本当に此度の無礼は申し訳ございませんでした！　どうか命だけはお助けください。私は東の大陸で修行した身でして、護衛として役に立てると思います。

　私には守りたい家族がございますので、どうか殺さず私を使ってください。貴方様がいらないというまで尽くします。

　奴隷にしてくださっても構いませんので、どうか命だけはお助けください！」

　どれも誠心誠意で話しているし、もちろん嘘偽りもない。

「では、ダグラスさんの意見も聞きたいんですけど」

　ダグラスさんにも振ってみた。

　ダグラスさんも真剣な顔で彼女を眺めていた。

「どうやら、嘘を言っている訳ではなさそうですね…………」

　そう言うと、彼女は顔を上げ真っすぐな目でダグラスさんを見つめた。

　涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだ、あと――失禁もしている。

　目で「どうか、お助けください」と言わんばかりにダグラスさんを見つめている。

「オーナー、彼女の強さはどのくらいですか？」

「う～ん、恐らくＡランク冒険者と同じくらいですね」

「Ａランク冒険者ですか！？　それほどまでに強い方なんですね……」

　疑うのも無理はない、涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃで失禁も…………。

「では一つ聞かせてください、守りたい家族がいらっしゃると言いましたね？　詳しく教えてください」

　ダグラスさんは彼女の家族が気になるようた。

「はいっ！　私の家は東の大陸で、諜報の仕事で有名な一家でした。ですが他の家との計略で私の一家は嵌められ、帝国内には居られなくなりました。何とか生き延びることが出来、グランセイル王国に逃げて来ることが出来ました。

　一家全員でひっそり生きようと思い、セベジア街に着いてすぐに、ヘリネ村に引っ越しましたが、ここまでの疲労もあり……両親が息を取ってしまいました。弟や妹達が大きくなるまで出稼ぎに来た次第でございます」

　ヘリネ村はここから南に数日行った場所にある小さな村だ。

　必死にダグラスさんに目で訴える彼女。

「実は俺も護衛が欲しいところでしたが…………まだオーナーから商人として依頼が出てないのでどうしようもないのです」

「ではアヤノさん」

「はいっ！」

「これから僕の商会に雇われる前提で許してあげます。これからはダグラスさんの護衛をお願いしますね？」

「はいっ！　誠心誠意勤めさせて頂きます！　助けて頂きありがとうございます！　ダグラス殿も申し訳ございませんでした！」

　頭が取れるんじゃないかって土下座をして喜んだ。

「『クリーン』」

　これは僕のオリジナル魔法だ。

　水と風を使い、相手の全身を洗い流す魔法だ。

　お姉ちゃんとの稽古中に開発した魔法だったりする。

　すぐにアヤノさんの全身が綺麗になった。

「ダグラスさん、アヤノさんがこれから護衛に付くので、より安全に商売に集中できますね！」

　ダグラスさんはそんな僕に大きく頷いて返す。

「ダグラスさん、これからも僕の商会で働いてくれますか？」

　ダグラスさんは満面の笑顔で跪いだ。

「光栄でございます」

　こうして僕の商会が始まった。

　まだ従業員は二人だけだが、どちらも才能に溢れた従業員だからこの先が楽しみだ。