第25話 再び港街セベジア

 お母さんとの勉強も一週間で終わりを迎えた。


 最初は『魔法』についての勉強だったけど、後半は国とかそこにまつわる話を教えてくれた。


 僕的に一番面白かったのは、『バレンタイン枢機卿の堕落事件』だ。


 教会歴史上、最も最悪な事件だったらしい。


 その中心がお母さんというのだから、うちのお母さんとお父さんの凄さが伝わってくる。



 そして『転移魔法』で自由に遠い街へ出掛ける事に条件ありで承諾してくれた。


 まず、出掛ける前に必ず行き先を伝える事。


 伝えるのは、執事のサディスさんかお母さんかお父さん。


 夕方前には必ず帰って来る事。


 帰った際は必ず帰った事も伝える事。


 以上が決まり事となった。



 早速本日は港街セベジアにやってきた。


 相変わらずの賑わいっぷりが目の前に広がっている。


 街を散策して色んな物を眺める事にする。


 勿論、服は先日手に入れた平民服だ。


 どこから見ても僕は平民の子供だね。



 道を歩き、市場に入る。


 物凄い賑わいだ。


「安いよ! 安いよ! こちらの茶碗は東の帝国産茶碗だよ! たったの大銅貨五枚!」


「新鮮な野菜が安いですよ!」


「獲れたての魚がたくさんー!」


 野菜、魚介類、肉類の食材から、茶碗等の雑貨品まで多種多様に売り出されている。


 市場を歩き、道を抜けると広場があり、広場には食べ物の屋台が広がっていた。


「美味しい焼き鶏肉の串一本銅貨三枚~!」


「豚肉串焼き銅貨十枚~!」


 香ばしい濃い匂いが充満して、お腹が空いてくる。


 前世では食べる事もままならなかったから、僕はこれと言って好き嫌いはない。


 屋敷で出される料理はどれも美味しそうだけど、街で売ってる食べ物は数段味が落ちるとサディスさんが言っていた。


 ちょっと気にはなるけど、今はお金もないので買えないから見て回るだけにしよう。



 広場を抜けるとそこには色んな店が道の両脇に広がる。


 調味料の店、素材の店、武器防具の店、雑貨の店、薬の店もあった。


 どの店も賑わっているね。



 その更に先に行くと、大きな看板が掲げられている冒険者ギルドもあった。


 エドイルラ街のギルドよりは小さい感じだが、それと引けを取らない程賑わっているみたい。



 何となく、街をぶらぶら歩き回って戻り、再度市場に戻る。


 その時、市場の路地裏の前から商品を眺める男が一人。


「ブツ……ブツ……」


 何やら独り言を言いながら商品を眺めていた。


 少し気になったので近づいてみる。


「くっ……あの小麦を買って、ビストリア町で売り捌けば絶対得なのに……あぁ――あの茶碗は東帝国の品か! あれは帝国の街で売れば数倍は稼げるのに…………あぁぁ資金が…………」


 どうやら駆け出しの商人さんのようかな? 何だか気になるので声をかけてみよう。


「お兄さん!」


「あとあの野菜は…………ん? こんな所に子供が一人で僕ちゃんどうしたんだ?」


「市場に遊びに来たんです! お兄さんはさっきから何を言っているんですか?」


「あ……口に出ていたか…………あはは……恥ずかしい事をしてしまったな。俺はここで商品を見極めているんだ」


 そこら辺の商人達より目がキラキラしてるもんね。


「商品?」


「あはは……子供にはまだ難しいよな、例えばあそこに売っている小麦をあの値段で買って、向こう町に持って行って売れば儲けが出るんだよ」


「ほんと!? 凄い! どうやって分かるんです?」


「それは………………俺の勘だ」


「かん…………」


 精霊眼を発動してみたけど、嘘で言っている訳ではなかった。


「子供には分からないかも知れないが、商人の勘というやつは馬鹿に出来ないんだぞ? 俺はいつか資金を貯めて世界一の商人になってやるから」


「凄い! 世界一の商人さんを目指しているのにお金がないんですか?」


「くっ……痛いところを突くな? これからなるんだよ、これから」


「そうなんだ! でもお金ないんでしょ?」


「これから……お金を貯めて増やすさ」


 そう言ってお兄ちゃんはどこかに行ってしまった。


 あのお兄ちゃんの目、なにか光るものを感じた気がする。




「このクズが! 早く運ばんか!」


 ヒューン、スパンスパン!


 何処からか怒鳴り声と共に、何かを叩きつける音がする。


「申し訳……ございません…………すぐに……運びます……」


 そこには丸々と太り上品な服を着たデ…………おっさんがみすぼらしい服を着て首輪をした獣人族を鞭で叩いていた。


「この役立たずのただ飯食らいが! さっさと運べ!」


 獣人族の人は大きい木の箱を頑張って運んでいく。


 これが本で読んだ噂の奴隷と言うものか…………。


 あの首輪は『奴隷の首輪』と言われるもので、奴隷商人から簡単に買えるという。


 そんな奴隷の姿を見た僕は、前世の事を思い出しながらも彼を助ける事が出来ない事に怒りを感じた。


 実はここに来る前、サディスさんから、もし奴隷を見ても正義感で助ける事は絶対にならないと言われた。


 奴隷は最早、人ではなく、物として扱うらしく、所有権があるため、他者が口出ししてはいけない法だという。


 そんな怒りを感じつつ、僕は屋敷へと帰って行った。




 屋敷に帰り、早速サディスさんに質問してみた。


「サディスさん? 商人さんってどうやってお金を増やすんですか?」


「ほぉ、お坊ちゃまは商人にご興味がございますか」


「今日港街で色々見て回ったんです!」


「そうでしたね。商人の儲けと言いますと、彼らは先ず『商品』を購入します。そしてそれを持って別の街で売ります」


「それでお金が増えるの?」


「えぇ、但しそれが成立するのは安く買って高く売る事が出来る・・・商人のみですが」


「安く買って高く売る……?」


「そうです、例えば東帝国で皿一枚が銀貨一枚で売っていたとしましょう。それを買って今度は北帝国で売るとします。その際、皿一枚を銀貨二枚で売ることが出来ます。恐らく一瞬で売れるでしょうから皿一枚に付き銀貨一枚儲けになります」


「へぇ! じゃあ何でみんなそれをやらないの?」


「先ず『商品』を運ぶのに限界があるからです。移動で持てる量が決まっていますから、私やお坊ちゃまのように空間魔法が使えたら良いでしょうけど、そう都合良く使える魔法ではありませんから、荷馬車等で運送するでしょう。そうなると持って行ける量に限りがございます。途中モンスターや悪党に襲われたりとただの商人では難しいのです」


「そっか……あと時間もいっぱいかかっちゃうのか」


「そうでございます。お坊ちゃまの転移魔法と空間魔法があれば商売に関してはこの世で誰も勝てないでしょう」


「う~ん、でも僕は別に商人になりたいんじゃないですから」


「それがよろしいと思います。商売というのは時に誰かから恨みを買う事もあります。商売上敵も味方も増えます。商売の世界よりお坊ちゃまは魔法で成り上がられた方が敵も少なく済むのではないでしょうか」


「うん! ありがとう、サディスさん!」


「いえいえ、また何かございましたらいつでも」



 僕には商売は向かないと思う、けど世の中を生きていくにはお金が必要だって事くらいは分かった気がした。


 そして先程見た奴隷。正義感ではないけど、何とか助けたいと思う自分がいる。


 偽善と言われても良い。彼らを虐待されていた前世の自分と重ねてしまったからね。


 ではこれからは奴隷達を助けつつ、前世の妹を探すために、色んな町で動ける必要性が出てきた。


 そのために商売をする集団、『商会』を立ち上げて大きくすれば良いと思いついた。


 これからその下準備をすることにしよう。

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