ヴァリアントジーン

右左右 右左

第1話「シュレティンガーの蛇」1片

世界滅亡まで後一日!


「魔王!お前の計画はここで俺が打ち砕く!」


「フッハハハハァ!貴様に出来るかぁ!?勇者よ!我とその配下達!多勢に無勢だなぁ!たった一人で、その背にいる姫を守れるかぁ!?」


「仲間は必ず来る!俺は信じている!、姫も、世界も、俺達が救うんッだぁぁぁぁあ!!」


勇者過労死!?


劇場版 『転生しても勇者でした』 近日上映!


「・・・・」


ガタン、ゴドンと音が鳴る。


――揺れる。


つり革を手にしながら、電車の入り口の上にあるモニターから流れる。映画のPVをまじまじと見る。


ボーっとしながらの通勤。


ギュウギュウと体が押される電車の中、隣にいる鬼人族のオーガのサラリーマン。彼の頭から横に伸びた角が俺の頭に刺さっているのを必死にこらえながら、ただ、降りる駅が来るのを待ち続ける。


「次は〜ニューホテル駅、ニューホテル駅」


電車内のアナウンスが耳に届く。


降りる駅はまだ、先だ。


「はぁ・・・」


日々の疲れからか、思わずため息が出てしまう。


満員電車じゃあ、スマホを見てる隙すらねぇ・・・だが。


目の前。彼女も日々の疲れがあって眠いのか船を漕いでいる、魔族のサキュバスのOL。そのポヨンっと音がなりそうな、大きな胸が、俺の腕に当たっているのだ。


役得。


朝からありがとうございます。


生きてて良かった。


ポーカーフェイスを装いながらも心の底から感謝を目の前のサキュバスのOLに述べる。


まぁ、言葉にはしないが。


けして本人には言わないけど。


でも、伝わって欲しい。


そんな、アホみたいな事を考えていると、電車が大きく揺れて隣のオーガの角が頭に更に刺さる。


「痛ッ!?」


「す、すいません・・・」


俺の声で自分の角が刺さっている気づいたのか、オーガが小声で謝ってくる。


同時に目の前に居たサキュバスも先ほどの揺れで眠気が覚めたのか、自分の胸が当たっている事に気づき、頬を赤らめながら慌てて持っていたカバンを持ち上げ胸をガードしてしまった。


ああ、年に一度有るか無いかの癒しが・・・あと可愛い・・・。


「・・・はぁ」


二度目のため息と共に割りとどうでもいい、悲しさが心を支配する。顔は鉄仮面、完璧なるポーカーフェイスの死んだ魚のような目。


そう、ただの事故、たまたま、やましい気持ちなど俺には微塵もないのだ。


気持ちを切り替える為、電車内を見渡す。


多種多様な種族がひしめく電車。そんな、満員電車のドアの外に映る、街並みを見る。


そこには、いつも通りの見慣れた高層ビル群が建ち並んでいた。





ここは都会。


多種族国家『ヒボン』


勇者の出身地と言われているこの国は遥か昔。勇者が魔王を討伐した後に勇者を支援していた王国がその後、発展と衰退。二度の世界大戦の末に今の形になったと言われている。


勇者の仲間達が一つの種族ではなく、多種族構成だったらしく、遥か昔、勇者の魔王討伐の為、多くの種族がこの地で結託したらしい、その名残からか今も他の国から移民がこの国に住み、多種族国家の名に恥じないほどの種族が民間人として暮らしている。


好景気、今も建造され続ける建ち並ぶビル群。


そして、そんな街を見下ろすように、青く晴れ渡る空と白い雲。


画面に映る戦闘シーンなんかより、今日も世界は平和そうだ。


いや、これはもはや、平和と言う名の憂鬱の景色なのかもしれない。


そんな、電車のドアに映る風景を見てると、あることに気づく。


「・・・?」


電車のドアの前にたたずむ学生服を着た少女。


所々に赤黒い鱗が見え、スカートの下からは鱗と同じ色合いをした尻尾が生えているのが見える。


火蜥蜴サラマンダー。体温が他の種族よりも非常に高く、場合によっては発火もする場合もあるため、誤った放火事件を起こしてしまうこともある種族だ。こんな満員電車では正直、暑すぎて近寄りたくはない。


実際、満員電車だが、彼女の周りだけスペースが少し空いている。


が―――。


「・・・・」


俺はその女子学生に近づく為、満員電車の中を移動する。


「すいません、ちょっと失礼」


「ッ!?」


「なんだね!君は!?」


高身長のエルフや背の低いドワーフなど他の乗客に嫌がられながらも進む。


普段の俺ならしないが、緊急事態なのだ。


あと、もう少し。


その子に気づかれないようにゆっくりと進んで行く。


「・・・・」


サラマンダーの子が手の届く範囲まで近づけたら、俺は迷わず、その子の尻尾に手を伸ばしていき。


「―――おい」


「ッ!?」


を捕まえた。


触れていた手の先にいたのはただの人間、20歳を過ぎた青年と言った所だろうか。


驚いた顔でこちらを見てくるが、返す形で俺はソイツを睨み付ける。


「な、なんですか・・・」


「なんですかじゃあない・・・、今お前。痴漢してだろうが」


俺の放った言葉に動揺する、素振りを見せる男。


こりゃ、完全に黒だな――


「し、してませんよ!」


俺が掴んだ男の声が大きかったのか、車内にいた乗客達が俺達の事に視線が集まる。


・・・面倒くせぇ。素直に認めりゃいいのに。


周りを一瞥し、仕方ないので近くにいた金髪の若いゴブリンに話しかける。


「おい、あんた」


「え?僕ですか?」


「あんた近くにいて見えなかったか、コイツが痴漢している所を」


目撃者が複数いれば痴漢も黙る。


多数決。


人は何かと相対した時、味方する人数の数によって有利、不利を悟ものだ。


こうすれば穏便に物事が―――。


「え、わからないです。スマホ見てたんで・・・」


「・・・・は?」


冗談だろ。


俺はそのゴブリン以外に他の乗客を見渡すが・・・みんな首を横に振る。


なんでだよ、いくら何でも満員電車でそんなにスマホが見たいか!?お前らは!?


この瞬間ほど、普段お世話になったいるスマホを恨んだ事はない。


「おい、いい加減にしてくれよ!アンタ、俺は痴漢なんてやってないって!」


こっちが、有効な手を取れないでいると、痴漢の男が暴れ始める。


「ちッ!」


正直、聞きたくなかったが、被害に聞くのが一番か。


こういう場合、解決するには被害者が手を上げ、被害を被っている事を周りに言ってくれれば速解決なのだが、時と場合によっては―――。


「ッおい!、嬢ちゃん、コイツに痴漢されてたよな?」


痴漢をされていた女子高生に問いかける、女子高生は俺の声に気づき、ゆっくりと振

こちらを向くが・・・。


「ぁ・・・うッ・・・わ、私・・・ッ」


だが、肝心の被害者は身がこわばって、目に涙を浮かべている、この状態にパニックになって言葉が出ないようだった。


そりゃそうだ、自分は痴漢をされていると、納得してしまえば、それは自分は男に触れられていたと自分で認めてしまうようなものだ。


ましてや、歳いかない少女。


目の前の現実を簡単には・・・飲み込めない。


最悪だ・・・。


「手ぇ離せよ!」


「ッ、そうする訳には・・・」


俺から手を振りほどこうと更に暴れ始める痴漢の男。


とにかくコイツを離さないようにしなければ・・・そう、思っている時に限って・・・。


「ニューホテル駅、ニューホテル駅、足元にご注意のうえ、ご乗車してください。お乗り替えの・・・」


いつのまにか駅についてしまった。


「―ッ!」


一瞬の内に、掴んでいた手を振りほどかれ痴漢の男が開いたドアから逃げる。


いきなりドアから出てきた人に駅のホームで待っていた列は驚きの声をあげながらも道を開いてしまう。


「待て!お前!」


直ぐに手を伸ばし、痴漢のバックを掴むが、痴漢はそのバックを振り払い近くにあったホームを降りる階段を人混みをかき分けながら降りていく。


電車を待っていた人々が騒然とする中、俺も掴んだバックを投げ捨て、後を追いかける。


「すまん!ちょっとどいてくれ!」


「え?、うおっ!?」


人が上がってくる中、最短コースを選び、階段の手すりの上を滑って、各ホームに続く大通りに出たが、沢山の人が行き交う中であの痴漢の男を見つけるのは至難の技だが。


「どけッ!!」


「うわっ!?」


「はぁ?ちょっと何!?」


近くで、大きな声が上がり、行き交う人達の顔がそっちに向く。


そっちか!


直ぐさま、声が上がった方に走り出す。


すると痴漢の男が気づいたのか、ポケットからスマホを取り出すと、スマホに向かって何かを呟く。


「・・・?」


次の瞬間、痴漢の男はスマホを地面に叩きつけた。


まさか!?


地面に叩きつけられたスマホから黄色い光がほとばしりその場を起点にコンクリート通路が砕け、スマホを核に、砕け散ったコンクリートが集まっていく。


そして―――。


「オオオォォォォ!!」


叫び声を上げながら人間と似た形状をした、コンクリートの塊、いや、ゴーレムがそこに造り上げられた。


「・・・魔術か」


「悪りぃな、誰かを傷つけるつもりはなかったんだがな、お前がしつこいんでなぁ、後は任せたぞ!ゴーレム!」


焦りながらもヘラヘラと笑いながらそう言い放ち、再び逃げ初める痴漢の男。


ゴーレムもそれに応じるように、そのコンクリートで出来た豪腕を振り上げてこちらに襲いかかってくる。


「・・・・」


俺は姿勢を低く保ち、そのままゴーレムの懐まで一気に詰め寄る。


拳を握りしめ、ゴーレムの腹に勢いよく殴りつける瞬間に静かに唱える。


身体強化ベースアップ・・・」


当たった拳はそのままゴーレムの腹を突き抜け、ゴーレムの身体の一部と四肢は宙を舞う。


「はぁ!?」


痴漢は驚いた顔でこちらを見てくる、無論周りにいた野次馬も口を開けてあんぐりとしている。


ゴーレムを破壊したそのままの勢いで驚いている痴漢の男の手を掴み、足をかけて、テコの原理を使って地面に叩きつける。


「がッ!?」


直ぐ様、馬乗りになるよう押さえつけ、痴漢の男が動けないようにする。


騒然となる駅の通路。遅れて、近くにいた駅員達も近づいてくる。


「暴れんな!」


「ぼ、暴力だ!今、僕はこの人に暴力をふられています!助けて下さい!」


男が周りに助けを求める。


それを聞いた、列を作っていた人達は全員戸惑うばかりだ。


はぁ・・・そりゃ無茶があるだろ。


ここまでくると哀れにもみえるな、誰かに危害を与えたくせに、誰かに助けを求めるなんて。


本当に面倒くせぇ、正直朝からこんな事に首を突っ込むんじゃあなかった。


・・・だが。


「いい加減にして下さい!警察に訴えますよ!」


「ほぅ、じゃあ聞かして貰おか、自分がなにをやったかを」


「・・・え?」


困惑する痴漢に胸ポケットから手帳を取り出し、開いてから見せつける。


俺と男の周りにいた人々は驚愕する。


「HGPだ、猥褻、痴漢の容疑、ならびに銃刀魔術法違反の疑いで現行犯逮捕する」


その手帳を見た痴漢は血相をかいたように慌てて、こう言ってくる。


「ヒ・・・ヒボンHガーディアンズGポリスP!?」


「ああ、警察だ」


そして俺は、押さえつけている痴漢の男の手に。持っていた、手錠をかけた。









「うむ、遅刻だな」


「冗談言わないで下さい、俺はむしろ誰よりも早く仕事をしていたんですよ、誉めてもらいたいくらいなんですが」


痴漢を連行してHGPに出勤した俺。時刻は色々な手続きを済ませていたら午前10時を過ぎていた。


目の前の机にいるのは人間サイズの丸々太った猫、もとい妖精種、ケット・シー属の、マルコ・エキゾチック警部。俺の上司だ。


「ふん、君のならば、駅に大きな損害を与えずに痴漢を無力化できただろうに。おかげで、テロ行為か何かと間違われ、今日1日交通機関はちょっとしたパッニクだ」


「すいませんね、まさか痴漢如きが、最近ウワサの非合法デバイスを持っているとは思わなかったので」


触媒デバイス。現代において魔術と言うのは一般人にも普及しているシロモノだ。昔は限られた専門性のある職業についているものしか学べなかったが、今は小学生でも使えるよう、ヒボンでは基礎教育として学ぶ事が出来る。


魔術はデバイスを通して使用する事が出来、明かりが無い所に火を、喉が乾いた時に水を、人手が欲しい時には小型の自動人形を。用途そのものは科学が発達した現在では限定的でもあるが。実際二年前に震災などの自然災害が発生した時には個人が魔術を使えた為、物資が届くまでの間に大きく活躍した。


科学に頼り切らぬよう、自然の力を行使出来る魔術はいざという時のマルチツールとして使用されるはずだったのだが・・・。


「そうか、その男も非合法デバイスを・・・」


「ええ、魔術のランク自体は低いものですが、既製品にはあそこまでの出力はありません」


本来、デバイスは企業が国の基準にしたがって作られる物だ、安全性を考慮し、火はライター程度、水なら蛇口から出る水の水量程まで出力を落として作られている。


だが、ここ最近違法改造されたデバイスが出回り事件を起こしている。


「ふむ、そうか、まぁ、その件は一課の連中が捜査するだろう。我々は我々の仕事をせねばな」


「他の奴らは?」


「もう、仕事を始めているよ」


仕事の報告を済ませたらすぐに新しい仕事、まったく、この国は騒がしすぎる。


部署内を見渡して、誰かいないかと探したら、一人見知らぬ影があった。


誰だ?


セミロングの銀の髪、エメラルドの瞳、小柄で華奢な身体をしているエルフの女の子が椅子に座っていた。


こちらが見ていると、向こうも気づいたようで会釈をしてくる。思わずこっちも軽い会釈をしてしまう。


「いいか?これから、事件の概要を説明するぞ」


声をかけられ正面に向き直す、マルコ警部は後ろにあったスクリーンに顔向ける。


「今朝未明、ヒボンの都市郊外にある刑務所の中の独房で死体が見つかった」


スクリーンには亜人種、蛇人属の蛇頭の男が写し出されていた。


「被害者はアースィー・イスマーイール。中東のランイ国出身の蛇人だ、罪状は宝石店への強盗殺人で、3日前に捕まったばかりだった」


「ランイ国の出身で強盗殺人?ヒボンには長かったんですか?」


基本的、こういう外人が起こす犯罪は、2パターンある、一つは短期滞在の時に起こる計画的犯罪。元々目的があって入国してくるいわゆる仕事で犯罪を犯すパターン。二つ目は長期滞在で周りの環境やストレスなどが原因で自分を制御出来なくなるパターンがあるが・・・今回は・・・。


「ああ、彼は技能実習生として入国。ヒボンの中ではランイ国出身者達のグループの中核をなす位には周りから信頼があった」


後者か・・・じゃあ・・・


「一時の気の迷いからの、犯罪とかじゃないですか?で、自分が犯した罪に耐えきれず、独房内で自殺って感じで・・・」


「これが自殺なら、我々に仕事は回ってこんよ」


「じゃ、刑務所内で他の囚人から恨みを買ったとか?」


「はぁ・・・」


マルコ警部が顔の前で手を組み、大きくため息を吐く。


「正確な死亡時刻はまだわからんが、おそらく深夜、誰も入ることも出来ない独房の中で。彼は死んだ」


「!?」


胸を引き裂かれて?


「HGPは直ぐにこれを密室殺人と決定し、遺体の損傷具合から凶悪犯罪として、我々7課に仕事が回ってきた、わかるな?」


「これは、厄介な事件ですね・・・」


密室殺人なんて実際にやる奴なんて始めて聞いた。そんなものフィクションの世界だけだと思っていたのだが。


「それでも、事件は解決されねばならない、我々は警察だからな」


ま、最もだな。面倒だがそれが俺達の仕事だし。


頭で、そう思いつつ、マルコ警部に敬礼をとる。


「了解」


「うむ、元気な返事でよろしい、そんな元気な君にもう一つ仕事を頼みたい」


「はぁ?」


返事をして直ぐに仕事に取り掛かろうとしたがマルコ警部はまだ俺に仕事を押し付けたいようだ。


「フィロ君、前に」


「はい!」


そう言ってマルコ警部は俺の後ろにいた人物に手招きする・・・いや、猫招きか・・・。


マルコ警部に手招きされたのは先ほど会釈したあの銀髪のエルフだった。


「新人のフィロ・S・ハワードです!よろしくお願いします!」


小柄な身体から出てるとは想像出来ないようなハッキリとした声で自己紹介をしてきた。


いや、待てこの流れは・・・


「ちょっ?マルコ警部?仕事ってまさか!?」


「フィロ君は優秀なんだ、HGP訓練学校を首席で卒業した実力者だ。運動神経、射撃技術、魔術知識、そのほとんどでトップの成績を取っている、いや〜フィロ君を引き抜のは苦労したもんだ」


マルコ警部がウンウンと頷く。


「いきなり新人を現場に連れ出すなんて!最初は事務処理でもやらせとけば!」


「私は昔からのやり方の見て盗めを推奨しているからね〜。古臭いが実際、早めに現場に慣れさせるべきだと思うんだよ」


「しかし!俺は一人の方が!」


「ん、ん、ん、ん・・・」


ポンとマルコ警部が俺の肩に手を置いてくる。柔らかい・・・。


が、俺の目に写ったのは可愛らしい猫の顔では無く、鬼の形相をしたマルコ警部だった。


そして、新人に聞こえないように小さな声で話してくる。


「君は一人だと面倒臭がって手を抜く癖があるだろう?今朝の痴漢も君のならば電車内で仕留めれたはずだ」


「ぐっ・・・」


マルコ警部が顔と顔が密着しそうになるまで圧をかけてくる。


近ッ!!


「フィロ君は真面目で優秀な新人だ、もしも彼女から君がおかしな行動の報告があった場合は・・・わかるね?」


「わかりました!わかりましたから!」


マルコ警部の近すぎる顔から逃げようと後退りしようとした時、最後にボソッと言われる。


「それに、君が個人的に調べたい事がまだあるのだろう?」


「―――ッ!」


「・・・では、頼んだよ」


俺を一瞥した後、そう言い残しマルコ警部は部署から出ていく。


「・・・・」


「あの〜」


あの不細工猫親父・・・


「あの〜!」


「なんだ?」


先ほどのマルコ警部の言った事を考えていると、新人のエルフに声をかけられる


「えっと、先輩のお名前はなんて言うんですか?」


名前か、そうか、まぁ新人には答えないと不味いか・・・。


朝から、魔術を行使する痴漢を逮捕し、本部に着いたら労いの言葉も無しに、次の仕事は密室殺人事件の調査、そして最後に新人(監視)を押し付けられる。俺はそれなりに仕事をしてそれなりに日々を過ごす、そんな予定だったのに。


「はぁ・・・」


ため息を付き、嫌事を割りきって新人に自分の名前を告げる。


「キユウ・シラサワだ」


「キユー先輩ですか・・・はい!」


新人が俺に笑顔で敬礼して答える。


「フィロ・Sソフィー・ハワードです!よろしくお願いします!キユー先輩!」


その彼女の笑顔は俺の疲れが吹き飛ぶ程、可愛らしい笑顔だった。

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