招かれた闇

「すみません、申し遅れました。私は、天束あまつか イルと言います 」


「これはご丁寧に。私は神父をしている、巳崎 良司みさき りょうじです。こっちは息子のミツル 」


父親の後ろに隠れたミツルが、ペコリと頭を下げる。


「ありがとうございます。タオルに暖かい飲み物まで頂いて……」


イルは申し訳なさそうに礼を述べる。


「いやいや、困ってる人に手を差し伸べるのが教会の役目だからね 」


ミツルは若い客人が珍しいのか、チラチラとイルの方を気にしていた。


「ミツル、あまり人を観察するのは良くないよ」


「あっ、ごめんなさい……」


ションボリと謝るミツルに、イルは柔らかい笑顔を向ける。


「ああ、大丈夫ですよ。急に知らない人が来てビックリしてるんだよね? 」


イルの言葉に、ミツルはキョロキョロと視線をさ迷わせる。そしてもう一度彼を見ると、ポツリと言葉を発した。


「なんかお兄さんって、変わった色をしてるなって」


「ん?ああ、この髪色の事かな? 」


イルはこの目立つ髪を指摘されているのかと、自分の髪に触れる。


「違うよ、お兄さんの周りのフワーってした色だよ」


「……?」


子供特有のよく分からない表現にイルは首を傾げた。


「すみませんね。息子は時々変なことを言う。人の周りに色が見えるとかどうとか、子供のよくある架空の友達とか、そう言った類の物だと思います 」


父親のフォローにイルは「ああ」と合点がいったと言うジェスチャーを取る。


「でも他の人は小さくてゆらゆらなのに、お兄さんの周りは、お日様の光が差したみたいにキラキラしてるから、綺麗だなって思って 」


ニコニコと微笑み無邪気にイルを褒めるミツルを見て、イルは目を丸くした。

しかし、直ぐにその言葉を察する。


”ああ成程。この子は魂の色が見えるのか。これは面白い ”


一瞬、イルは顔に影を落とした様な表情を見せたが、すぐに笑顔を向ける。


「ふふ、本当かい?それは嬉しいな 」


暗い顔をしたイルを見て、何か失礼な事を言ったのかと良司は内心心配していたが、すぐに笑顔を見せたイルに、ほっとした表情を浮かべて話に入る。


「それはすごい。イルさんはもしかしたら、神様の遣いなのかもしれないね 」


「え?お兄さんは天使様なの? 」


ミツルの期待に満ちた表情を見て、イルは顔の前でやや大げさに手を振った。


「いや、まさかとんでもない。けど、これは偶然かもしれませんが、以前に私は天啓の様なものを聞いたことがあるんです。それにより生命が助かったことがありました 」


神妙な面持ちで語るイルに、良司は感嘆の声を上げる。


「なんと、それはすごい。神に愛されている証拠ですよ 」


「そんなことは……」


イルは軽く首を横に振ると、終始ポカンとして話を聞いていたミツルを見つめて微笑む。


「ミツルくんは私と同じ様な…いえ私以上に特別な力があります。是非、この力を沢山の人々の導きの光として役立ててあげてください 」


その言葉に、良司は少し戸惑った表情を見せてクシャリとミツルの頭を触る。


「ハハ、まさか。この子にそんな力なんて……」


ミツルにはその話の内容はよく分かってはいなかったが、二人が笑っているのを見て同じ様に笑顔を見せた。

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