第96話 まるで本当に魔法のような
近くの村に戻り、宿屋を1部屋借りてオーウェンを寝かせた。
オーウェンの体調はどこも悪いところは無く、寧ろ相当健康体になったようだ。
もしかして、俺の
それを考えると、回復魔法と神聖魔法は少し似ているのかもしれないな。
しかし、悪魔王…か。
フェルによれば1000年は生きている正真正銘の化け物だ、なんて言っていたよな。
しかし、俺が見た姿は魔浄の聖域で弱り果てて、フェルの
フェルも普通に傷1つ無かったから、フェルの読みが甘くて数百年くらいしか生きていない悪魔だったのかもしれないな。
「ん…うぅ」
お、ようやっとオーウェンが起きたようだ。
「よっ、元気か?」
「あぁ…、ってなんで俺は宿屋なんかに?」
「あー、そっか記憶が無いのか?なら説明してやるよ」
取り敢えず、どこから記憶が無いのか分からないので俺とフェルとエマで疑っていたところまで全て話した。
「悪魔を、浄化…?」
「あぁ、神聖国に忍び込んでちょっと神聖魔法を盗んできた」
「そう、だったのか」
その言葉の後に数瞬の沈黙が続く。
そして、オーウェンが言葉を続けた。
「俺の中にいた悪魔、なんだが…」
そう言うと、オーウェンはゆっくりと語り始めた。
「俺の母親は俺が生まれてから直ぐに死んでしまって、父親が男手ひとつで俺を育ててくれていた。だが、ある日父親が不治の病にかかってしまった。病院に行くための金もなかったから病名は正確には分からないが、当時俺の故郷で流行っていた不治の病と似ていたからそう思った。そして、俺は弟と共にその病気を治す方法を故郷の図書館にて探し始めた。子供だったからそんなところで探しても見つからないってことに気づけなかった。そして、無駄に時間だけが過ぎていく中で、俺は黒づくめの男と出会った。その男は本を渡してきて、この儀式をすれば助かる、とだけ言い放って一瞬にして姿を消した。俺は藁にもすがる思いでその儀式を行った。だが、結果はその儀式は悪魔を呼び出すための儀式だった。そして、悪魔は弟に取り付いて俺の故郷で暴れ回った。そして弟の体は乗っ取られて限界を迎えていたのか、死んでしまった。そして、次にその悪魔は俺に目を付けた。こうして俺は悪魔に取り憑かれたんだ」
オーウェンから語られたのは過去の自分の行いへの後悔だった。
その語気には憎悪が混じっており、相当憎かったのだろうと察する。
「そんなことがあったのか…。だが、なんであの時にいきなり悪魔が暴走したんだ?」
「それは、さっきの話の続きになるんだが…。俺は暴れ回って疲弊したまま乗っ取られた。しかし、体力が回復すると悪魔を抑え付けられたんだ。その悪魔によると俺の精神力は格が違う、とそう言われた。そして、あの日から5年。俺は何とか悪魔を抑えていたが、魔人が攻め込んで来た時の気絶やオスカーの攻撃にて、気を失った俺の体を悪魔は蝕んで、制御が効かなくなったという訳だ」
なるほどな。
しかし、オーウェンは相当悲惨な過去を背負っているんだな。
家族や友達を全員、悪魔が乗っ取っていたとはいえ、実の弟の手によって殺されているのだから。
「…すまないな。俺は気にしていない。兎に角…」
「…悪魔は浄化されると再び生まれ変わるしか方法が無くなる。記憶が保持されようとも力は保持されず、彼奴は産まれたての悪魔になるしかない。1000年も生きたプライドが邪魔をして、魔界では生き残れないだろう」
「…そうか。ありがとう」
フェルめ、意外と気を使えるところもあるじゃないか。
「あ、そうだ。ちょっと弄ってみたんだが、先生に魔法を使ってもいいか?」
「ん?なんじゃ?まぁ良いが…」
オーウェンが起きるまで、やることが無かったので神聖魔法の派生乃至強化をしていたのだ。
複雑な神聖魔法も慣れてしまえば、他の魔法のようにちょちょいと強くすることが出来る。
そう、このように…。
「
フェルの右腕に神々しい光が集まり始める。
その光はフェルの無かった左腕を型どり始める。
そして、光る左腕が完成するとその光は霧散していく。
そして、そこにあったのは紛れもなく左腕であった。
「なっ!?」
「はぁっ!?」
いつかフェルが神聖国にある魔法に無い腕を復元させる魔法があるという話をしていた。
俺は神聖魔法を強化して、蘇生や欠損部位を復元させる魔法へと昇華させたのだ。
「…ノアが異常だと分かっていたつもりだったのに…」
「………」
フェルは復元された自分の左腕を動かしながら、ブツブツと何か独り言を言い始めて、オーウェンは口を開けたまま動かなくなった。
「「復活したー!?」」
急に我に返った2人が叫び始めた。
忙しいな、この2人。
「い、異常じゃな…」
「俺は夢でも見ているのかと思った」
そこまで驚いてくれたのなら俺も強化したかいがあったって言うもんだな。
さて、フェルの腕も復活したことだし、王国に帰るとするか。
「ノア」
「ん?なんだ?」
「…あ、ありがとうなのじゃ」
「おう、また斬られたら治してやるよ」
「もうそんなヘマはしない…、多分」
夜が明けたらころ、俺たちは王国に帰るために歩き始めたのだった。
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