第29話 魔人 後編

「流石は、魔人と言ったところか。首を斬られただけじゃ死なないか」


 そういうダーグは、首筋に冷や汗を浮かべる。

 そりゃぁ、魔人がこんなに簡単にやられるはずはないよな。


「グガギィィ!ガガガガガ」


 突然魔人が、震え出す。

 俺は咄嗟に後ろへ跳躍する。

 魔人はその場を動かない。だが、なにか様子がおかしい。

 何が起きる?させちゃいけないか?

 俺はそう思い、2連アクアバーストを放つ。

 だが、そのアクアバーストは魔人に当たることなく、して消えた。


「相殺させただと?ということは…」


 アクアバーストが相殺して水しぶきが上がる。そして、その水しぶきが重力に負けて落ちてくる時に、魔人は姿を表す。


 顔が、3つ付いた魔人が。


「ダーグ、避けろ!」


 すぐにダーグに指示して俺も避ける。

 俺たちがいたところには、さっきとは比べ物にならないくらいの黒色の炎が燃え盛る。


 フェルの言っていた、複製して二重詠唱を可能にする人外ってのは魔人のことだったのか!


「ダーグ!兎に角動き回れ!あいつは座標を指定して黒炎を放ってる!」


 くそ、二重詠唱…、というか三重詠唱は予想外だった。

 あの黒炎の数が増えるのがヤバい。

 俺たちがいるところを正確に狙ってくるから、動き続ければ当たらないが…、止まったら最後、燃え尽きるだろう。


 2つの顔を、俺とダーグに割いてもう1つの顔で攻撃か。

 中々やるな、魔人っていうのは。


「5連圧力水銃プレッシャーガン


 俺の周りに浮かび上がった小さい弾丸は、魔人へと飛びかかる。

 だが、2発は魔素の操作で、残り3発は腕で弾き返して、魔人はこちらにファイアショットを放つ。

 チッ、対処は余裕ってか。

 圧力水銃はアクアバーストの貫通性能を高めた派生武器だが、さっきとは違って、あれを素手で弾くとはあの魔人、身体強化の魔法も使ってるな?


 どうしたものか。


「ノア!住民の避難終わりました!!」


 悩んでいたところにノルザさんが来た。

 …いいタイミングで!


 結局は、あの魔人の倒し方は顔が増えたところで変わらないのだ。

 だから、魔法でごり押す。


「ノルザさん!ありったけの魔法を魔人にぶち込んでください!」


「はい、わかりました!!」


 よし、伝わった。


「ダーグ!俺たちがまた魔法で攻撃するからまたアレやってくれ!」


「承知した!!」


 よし!じゃあやるか!

 その名も魔法ごり押し作戦を!


「8連ウィンドバースト」


 は、8連!?

 あの人、俺の魔法を凄いと言ってたが、ノルザさんも大概ですよ…。

 よし、俺も行くぞ!


「5連追尾水銃ホーミングガン、5連圧力水銃プレッシャーガン、5連アクアバースト!」


 よし!

 合計23の上級魔法の大殺到だ!


「纏うは闇、晦冥の一撃アサシン・スレイド


 今度こそ、倒せる!


 計23個もの魔法は魔人に無慈悲な破壊を齎した。そして、最後の追い打ちとして、晦冥の一撃を受けた魔人は、苦しみ出す。


 だが、それだけだった。


 再び、魔人は再生しようと首をねじ込む動作を始める。


「くそ、あいつ無限に再生しやがるのか?」


 くそ、どうすればいい?

 もう既に魔力は尽きかけている。

 万事休すか。


「魔人はの、こうやって力任せに殴れば死ぬのじゃ」


 そう言って、突然現れたのは銀髪の少女、フェルだった。

 殴られた魔人は、力なく地面に倒れる。


「グガ…、ギィ…」


 まじかよ…、あんな苦戦した魔人をまじでグーパンで倒したよ。


「まぁ、こんなもんかの」


 まぁ、確かに助かったけど。


「なんか、横槍入れられた気分だなぁ」


「あ!確かに!」


 ダーグは俺の言葉に、笑ってノルザさんもその光景を見て笑うのだった。

 フェルはなんとも言えない表情をしていた。


 ―――


「厄災は討たれ、平穏が訪れるであろう。再び厄災は眠りにつくであろう」


 再び占った結果がこれ。

 もしかしてこの杖、壊れてんじゃないかと疑いたくなるが、今までもちゃんと予言してくれたので、それはないと思う。

 だとすると、誰かによってその厄災は倒されたのか。それとも、厄災に似た力を持つ何かが倒したのか。

 それはいくら考えても分からないが、マリスはただ、厄災を討ち取った者に心から感謝するのだった。


 ―――


 魔人を倒して、王国に帰ってきた。

 魔人はボロボロの粒子になって死んだし、誰かにお願いされてやった訳じゃないので、なにか貰えることも無いが、それでもいいことをすると、心が晴れやかになる。

 しかし、ダーグの判断は懸命だったな。

 フェルがいなかったのが少しやばかったが、結果良ければ全てよしだ。


「けど、先生は確か、俺でも倒せるとか言ってたけど全然そんなこと無かったぞ?」


「ん?あぁ。あれは特殊な個体だったからの。普通の魔人はもっと弱い」


 特殊な個体?

 普通の魔人を知らないから比較が出来ないな。


「まぁ、恐らく魔人と魔人が合成された個体だな。合体した影響で喋ることが不可能になり、その代わり魔法の練度がさらに向上し、三重魔法が出来るようになってたってところかな」


 いやいやいや、普通の魔人とは全然違うじゃん。

 ん?てゆうか。


「俺たちの戦い見てたの?」


「あぁ、少しな」


 そう言うと、フェルはお菓子を食べ始めた。

 ならもうちょっと早く助けてくれても良かったんじゃないか?と思う俺であった。


―――


「あの失敗作が死んだ」


小さな灯りが点る部屋に向かい合わせで椅子に座り話し合う者がいる。


「ほう?知能が無いとはいえ、力だけは本物だったはずだが…。仕方ない、次の実験へと移るか」


失敗作がやられた、ということはあれを倒せることが出来る者が人の世にいるということだ。

そう言った者は、内心は焦りつつも、今後の作戦へとシフト変更する。


「あぁ、そうだな。人の世はいずれ俺たちの物になる」


そう言って笑い合う2人は、更なる悪意を作り出さんとしていた。








 ―――――――――

 ノアは15連使ってるじゃんって思ったかも知れませんが、ノアは5連を3回使っているのです。まだノルザの方が魔法に関しては上です。

それと、複重詠唱の定義は「1度の詠唱でどれほど撃てるか」を指します。

同じ魔法ならば比較的簡単に出すことが出来ます。

ノアは統合が苦手なだけであって、現在五重詠唱が可能です。ノルザは八重詠唱ですね。

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