第2話 伝説の獣
バン!!!ドン!ドン!ドン!
フリーレット夫妻の優雅なお茶会は物騒な騒音にて終了となった。
この魔力は異常だと、瞬時にエリーゼは判断し、グライドと目配せをした瞬間に家を飛び出した。
エリーゼは音のした方へ全速力で向かった。
その理由は魔物が出現したかもしれないという不安もあるが、1番は心配しているのは我が子ー、ノアがまだ外に出たままだったことだ。
もし魔物に襲われていたら…。
そんな縁起でもない考えを頭の中からとっぱらってエリーゼは走る。
グライドは走りながら考える。
グライドは魔力を感知出来ないため、エリーゼがなぜそれほど焦っているのか分からないが、確かにあの爆音は異常だったと。
そして、我が子を思う母というのはこうも強くなるものだなと。
だって、剣士の俺より走るスピードが早いんだもん。と物理的に強くなった我が妻を見ながら全速力で走るのだった。
―――
ノアはアクアバーストの軌道上をひた走る。
アクアバーストの軌道上は綺麗に木々が抉られて、丸い形の森のトンネルのようになっている。
しかし、時間経過と共に中途半端に抉られた木々が重力に逆らえなくなり、倒れる。
「チッ」
邪魔な倒木を不快に思い、身体強化の魔法を行使する。
この魔法はその名の通り、体の能力を上げてくれる非常に便利な魔法だ。
小さい頃に、一番最初に教えて貰ったっけ。
そんなことを考えながらアクアバーストの軌道上を走っていると、終点が見えた。
終点は、何かに当たって霧散した、もしくは魔力の供給が無くなり霧散したアクアバーストだった水で地面が湿っている。
殺気は気の所為だったのか…。
「…!?」
安心しかけた瞬間、不意打ちのどす黒い殺気が全身を縛り付ける。
これは…、体が恐怖で動かない…。
『小僧か、この魔法を撃った者は』
そこに居たのは、穢れを知らない白い体毛に身を包んだ、赤眼の獣だ。
そして、殺気が更に暗く黒く変色していく。
「ノア!!!」
その声の主を確認する前に、俺と獣の間に割り込んだグライドが剣を構える。
それと同時にエリーゼは途轍もない魔力を掌に収束させ、魔法を撃つ準備を完了させていた。
『お前らは、家族か』
「あ、あぁ!そうだよ!」
グライドが、己の恐怖を押さえつけるかのように叫ぶ。
数瞬の沈黙の後、白い獣が殺気を解いた。
一気に体が脱力して、立つ気力すら無くなった体は地面とぶつかる。
『なかなかいいアクアバーストであったな』
…?
いきなりのことで理解が出来なかったが、俺の魔法が褒められたのか?
『制御は出来ておらぬが、威力は並の魔法使いを凌ぐだろうな』
殺気を放っていた獣が、今度は魔法を褒めてくるこの状況が理解出来なかった。
この白い獣は、話が通じるのか。
「そ、そうか。お気に召したか?」
『ふは!あぁ!気に入ったぞ!』
………
『この我に謝りもせずに、お気に召したか?だと!最高だ!』
「うぅ…、すみません…」
『よい、謝るな』
『時に、人の子よ。我が魔法の真髄を教えてやろうか?』
テンションが上がったのか、白い獣は唐突にそんなことを口走り始めた。
しかし、魔法の真髄…。
気になる…。
「ぜ、是非お願いします」
『ふむ、いいだろう!』
そういうと、白い獣は魔法の詠唱を始めた。
な…!今度こそ殺されるか!?
そう思った瞬間、白い光が放たれて目を伏せる。
そして、白い獣の方を再び見ると俺と同じくらいの白い髪の女の子が立っていた。
「は?」
『ふむ。久しぶりにしてはなかなか上出来じゃないか』
「な、なぜ女の子に?」
『ロリコン…?じゃったか。人間はこの見た目が好きでは無いのか?』
ロリコン…?
明らかにこの世界の言葉ではないだろ!
つまり、俺と同じようにこの世界に来た人間がいるっていうことか。
覚えていて損は無さそうだ。
『我を、先生と呼びたまえー!』
白い獣、改めて白髪の女の子が腰に手を当てて、そう高らかに叫ぶのだった。
―――――――――
因みにエリーゼがグライドより足が早かったのはギャグではなく、ノアと同じで身体強化の魔法を使っていたからなんですよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます