第300話「謎多きアイドル」

「あの…マジで男……なんすか?」




「え、まだ信じられないの?今一応地声だよ。地声は普通に男でしょ?」



「あー。確かにそんな風に話してると声は男の声っすね」



こうして落ち着いて話していると、確かに声は多少高めではあるが、男性の声であるとわかる。

しかし見た目とギャップがあるので、中々受け入れ難いものがある。



笹島は玄関口での衝撃的なやり取りを経て再びあのリビングへ通された。


ちなみに他のメンバーは今日はボーカルレッスンで留守にしているらしい。




「そうそう。仕事用に出してる声は高めで強めに張ってるけど、地声は普通に男だよ」



「なるほど。歌声もわからないくらいっすよね。スゴいっすよ。睦月ちゃん」



「それはありがと。それにさ、普通まだそんなに親しくない相手につく種類の嘘じゃないでしょ」



「ははは…。確かに。じゃ…じゃあこの件については了解しました」




「そんなカタくならなくていいよ。普通でいいから」




睦月はコロコロと表情豊かに笑いかける。

それだけで究極に可愛くて、わかっていてもやっぱり女の子にしか見えない。




「でも、そうか。笹島くんが新しいマネージャーなんだね。笹島くんがいてくれて良かったよ。今後ともよろしく。色々ね」



「はい。俺も睦月ちゃんいてくれてマジありがたいっす」



それは心から思った。

はっきり言って司馬のえるの対応で半分心が折れていただけに、睦月の存在は笹島にとっても救いのようなものだ。



「そういえば他のメンバーには会ったの?」



「司馬のえるさんだけっす」



すると睦月はやや顔を顰めた。



「あー、のえるか…。面倒な子だ」



「はははは……。あ、睦月ちゃんはもう全員と会ったんすか?」



笹島は初対面時の司馬のえるを思い出し、苦笑いを浮かべた。



「うん。先月ね。あ、そうそう。僕の秘密は四人全員ではなく、その中の三人なんだ」



「え。じゃあ一人は睦月ちゃんの秘密を知ってんすか?」



「そうなるね。だって妹だもん」



「そっかー。いもう……とぉ?はぁ!?睦月ちゃん、妹いんの?」



またもや衝撃発言である。

もう笹島には一体どれに驚いていいのかわからない。



「いるよー。でも兄妹ってのも内緒だよ。事務所が僕の素性に抵触する情報にはうるさいんだ。ごめんね。それに妹っていっても親の再婚でそうなっただけで、血縁関係はないし、その頃には僕は家を出ていたから、家族として一緒に暮らした事もないよ」



「へ…へぇ。そうなんすか。なんか複雑っすね」



「うん。秋月鳴あきづきめいっていうんだ。まぁ、性格は……良いといえないけど、悪いともいえない…かな」



「それ、どう受け取ればいいんすか」



睦月はさも楽しそうに笑っている。



「ま、部屋は別々だからここでは大丈夫だと思うけど、問題はスタジオや楽屋内での着替えかな」



「あー、そっすね。何か衝立とか用意してもらうとか考えますか」



「そうだね。ま、それは追々決めようよ。で、引っ越しはいつ?」



「来週っす。それまでに全員と顔を合わせておきたいですが」



改めて笹島はぐるりと部屋を見渡す。

これからここで始まるアイドルとの生活。


夢に見るような最高のシチュエーションではあるのだが、手放しで喜べる状況ではないのが辛いところだ。



「じゃあさ、これから彼女たちのボーカルレッスン見に行かない?」



「え、今からっすか?」



睦月は名案だと、手を叩いて立ち上がる。




「そーそー。全員と一気に顔合わせ出来るし、支倉センセにも会える」




「もしかして蓮さんがボーカルレッスンを?」




「うん。そうだよ。センセの指導、中々厳しいらしいよ。ふふふっ。じゃあ行こ」




睦月は笹島の手をギュッと握ると部屋から連れ出した。




「一体、どんな子たちなんだろう…」




今の所判明してるのは司馬のえると睦月の妹の秋月鳴の二名。

残り二名はどんな子たちなのだろうか。

笹島は不安げに天井を仰いだ。










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