第290話「幕間*破局の真相*」

「笹島さん、新しいお仕事今日からだよね。でもまさかこっちの業界に来るとは思わなかったわ〜」



昼のバラエティー番組の収録を終え、楽屋に戻ってきた喜多浦陽菜と乙女乃怜、森さらさの三人。

真っ先に衣装のロングブーツを脱ぎ捨てた陽菜は、スマホ片手に早速お喋りを開始する。


今日は笹島耕平がタレントのマネジメントに就く初日らしい。



「あぁ、確かそうだったわね。でも公私混同さえしなければあの仕事、彼には向いてるんじゃない?私はいいと思うけど。で、怜。あなたとしてはどうなの?」



「は、あたし?」



「あたし?じゃないでしょ。ねぇねぇ、マジで何で二人は別れちゃったの?一時はあんなにウザいくらいラブラブだったのに」



陽菜は興味津々でこちらを振り返る。

しかし怜はクールな顔で手を伸ばし、軽く陽菜の鼻を弾く。



「ウザいって何よ。…まぁそうよ。別れたの。だから今は彼とは何でもないの」



「痛っ!もう。ちょっとは教えてよ。蓮に聞いても全然教えてくれないし」



陽菜は不満げに唇を尖らせる。

彼女は蓮…支倉翔と現在交際している。

お互い多忙な中、交際は順調らしい。


笹島はその翔が新たに設立した個人事務所に拾われた形になったのだ。



「こら。あまり踏み込むべきじゃないわ。いつまでも学生のノリは通用しないのよ」



さらさだけは大人な態度を崩さない。

彼女は結婚してから大分雰囲気が変わった。

その変化は二人も気付いていた。

だからこそ安心してグループを委ねられるというものだ。


それを感じた怜はコンパクトをパチンと閉じ、二人に向き直った。



「そうね。じゃ二人には言っておこうかな。彼の事は今でも好きよ。気持ちは少しも変わってない」



「えー、だったらどうして?」



「それだけじゃダメだって気付いたから」



怜はにっこり笑った。

そして肩に落ちる緩く巻いた髪を優しく搔き上げる。



「あの日、初めて彼と結ばれた日にね。気付いたのよ。あの人、自分みたいな男が私の相手で申し訳ないってずっと言ってた。あたしはそんなの全然構わないし気にしないって言ったけどダメだった。その時にね、あぁ、この人はこのままだと、この先ずっとあたしに申し訳ない、自分なんかがって思い続けるんだろうなって」



「………怜」




「そういうのってお互い辛いじゃない?だから一度彼を自由に……手放す事にしたの」



「どうして?」



陽菜はまだ困惑した顔で眉を寄せている。

そんな陽菜の肩にさらさは手を置いた。



「自分に自信をつけてもらいたかったの。彼は自分に自信を持てない人だから。本当はもっとすごい人なのにそれに気付いてないだけ。だからこれだけは譲れないってものがあればきっと、もう負い目のようなものは感じないはず」



「怜、あなた…そこまで」



さらさは内心驚いていた。

二人が別れを選んだのは、決して軽い気持ちではなかった。

それだけにこの決断は切なすぎた。


さらさと陽菜は揃って怜を抱きしめた。



「二人とも、そんな顔しないで。あたしなら大丈夫だから。でも、ありがとう」



怜は柔らかな笑みを浮かべ、二人を抱きしめ返した。



「今はね、心から彼の活躍を応援したいの。だから本当に大丈夫」



「あー、もう何てカッコイイの!怜サマ、惚れちゃうよ」



「陽菜っ。もう離れなさいって」



この後、出番を知らせに来たスタッフがこの様子を見てしまい、どうにも気まずい空気が流れた。




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