第287話「彼女がボクを好きになってくれたらいいのに」
「好きかもしれない…好きじゃねー…好きかもしれ………はぁ…怠い」
「あれ、木屋町さんじゃないですか。もしかして草むしりっすか?」
金子はコンビニからの帰り、アパートの階段周りで何故か草花を引きちぎっている広い背中を発見した。
体格だけですぐに木屋町隼だとわかる。
すると隼は気怠げに顔を上げた。
俳優だけあって、何も手入れをしていない素っぴん状態でも肌の肌理は細かく、光り輝いて見える。
「んぁ?別に違うけど。あんたは…隣の佐藤…鈴木……だっけ。俺になんか用?」
彼の足元にはバラバラになった花びらが散らばっていて、見るからに草むしりや掃除をしていない事がわかった。
「いや金子ですって。日本人に多い名字適当に流せば当たる的な考えで呼ばないでくださいよ。それで何してたんですか?」
「……あのさ、鈴木くん。自分よりハイスペな女落とすにはどうしたらいいと思う?」
「あの、俺は金子ですから。それからその質問なんですけど、何で明らかに圧倒的底辺男子な俺にそれ聞きます?逆に俺が聞きたいくらいですよ。だって木屋町さんの方が圧倒的にハイスペじゃないですか。なのにそれ以上の女性って一体…ハリウッド女優とか、社長クラスですか?」
「いや…年とか学歴とかだけど」
金子はそこで唸った。
「もしかして木屋町さん、好きな人でも出来たんですか?」
するとわかりやすいくらい隼の顔色が変わっていった。
「いやそんなワケねーよ。好きなんかじゃねーし。ちょっとそいつの事が頭から離れなかったり、気付けばずっとそいつの事ばっか考えたりしてるだけだから」
「いや、それもう絶対好きでしょう」
「いいや違うね!そんなんじゃない。…と思いたい。今は」
「?」
すると今度はまた階段に座り込み、頭を抱えだした。
「木屋町さん?」
再び声をかけてみると、抱えた膝の間から潜もった声が聞こえてきた。
「俺さー、いつもこのガキっぽさでフラれてんだよな。慣れてきてから喋ると全然違うって」
「あぁ。確かに落差ありますよね。甲子園で注目されだした時から寡黙でクールなイメージでしたよね。で、俳優に転向してからは更に誠実でデキる大人って感じで俺らから見ても憧れではありましたよ」
あの当時の木屋町隼は何をしてもカッコ良いと女性ファンをキュンキュンさせていた。
金子の母や姉たちもそんな隼のファンだったし、金子自身も当時野球をしていた頃、地元で一番有名な選手だった隼は神のような存在だった。
それが今、話してみると全く違った印象で正直本当に本人かと疑ってしまう程違っていた。
「俺昔からカメラがあると緊張して、あまり上手く話せなくなるんだよ。予め台本があるとちゃんと出来るんだけど、アドリブでは全く自分が出せないんだよなぁ。それを周りのヤツは勝手に自分の都合のいいように誤解していくんだよ」
「そうだったんですか。それって難しいですね。まぁ、よく芸能人って裏表があるっていいますけど、木屋町さんは作り物じゃない裏表って事ですね」
「なんだよそれ」
「あはは。スミマセン。俺もよくわかりません」
金子は困った顔で笑った。
するといつの間にか隼までつられて笑っていた。
「……はぁ。自信ねぇなー」
「きっと大丈夫ですよ。あ、そんなに悩むなら思い切って告ってみたらどうなんです?」
一般人の自分にまで相談してくるくらいだ。
相当悩んでいるのだろう。
ここは隣人の誼で背中を押してやるべきだと察した金子は柄にもなく力強く呼びかけた。
「告る?何で俺があんな女に。いや、別に好きじゃねーから。なんであんなゴリラ女を好きになんてなるんだよ」
隼は立ち上がり、真っ赤になって否定する。
その姿は思春期真っ只中の中学生のようで少々イタいものがある。
それに重度の照れ屋なのも更に拍車をかける。
「あー、そうか。告る以前にまずはそれを認めるところからじゃないですか?」
一体隼はどんな女性を好きになったのだろうか。
それが少し気になる金子だった。
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