第81話
朝の光が燦々と降り注ぐ中、スマホのアラームが鳴り響く。
寝ぼけ眼の笹島はスマホを操作し、アラームを解除すると、モソモソと動き出す。
「ん?」
すると自分の腰に誰かの腕が回されている事に気付いた。
「え…、もしかしてナユタとか?」
そう考えると、途端に胸がドキドキ早鐘を打つ。
腰に回された腕は結構力強く、少し腰を捻ったくらいでは緩まない。
どうやら相当な力でホールドされているらしい。
「もう、ナユタのヤツ、そんなにガッチリしがみつかなくても俺はどこにも行かないのに♡」
幸せな気分で笹島は後ろを振り返った。
そこにはナユタではなく、長い金髪の美人が眠っていた。
「うほぉっ?」
予想外の事態に飛び上がりそうになるが、腕の拘束が強く、全く身動きが出来ない。笹島は謎の美女から逃れようと必死で身じろぎする。
「……何だよ。うっせーなぁ」
「はひ?」
すると耳元で低音のハスキーボイスが響いた。
多分後ろから腕を回す金髪美女の発した声だと思うが、それにしては低すぎる気がする。
「ちょっと待ってな。真奈…」
「☆♪$#ーーーー!!」
耳元に軽くキスされ、腕の拘束が緩んだ。
その隙に腕から抜け出した笹島は背後を確認し、その正体を見て飛び上がった。
「ななななななな…何であんたが俺のベッドにいるんだよ!それも半裸で」
思わず鳥肌が立ち、笹島は自分の両腕を摩る。
「んぁ?誰かと思ったらお前かよ…。何か顔がチクチクすると思ったらテメェのアフロじゃねーか」
のそりと起き出したのは、ナユタの兄であり、森さらさの義弟、
薔薇は金の糸のようにキラキラ輝く髪を後ろで束ねると、大きな欠伸をした。
笹島は恨めしげに、ベッド下に敷かれた客用の布団を見下ろす。
「何でそっちで寝ないんだよ…」
「オレ、床が硬いと寝れねーんだわ」
「……ちぇっ。気位の高いネコめ。何で俺を拉致ったヤツにこんな事されんだか」
「何だよ。それならナユタだって同罪だぞ?」
「ナユタは……ナユタは……いいんだよ!」
笹島はこれ以上何を言っても無駄と諦めて、仕事に出掛ける支度を始める事にした。
何となく彼には口で勝てる気がしない。
「それよりさっき、真奈って言ってたけど、それって彼女か?」
ネクタイを締めながら、笹島は先程寝ぼけた薔薇が呟いた女性の名前について尋ねてみた。
「は、オレそんな事言ってたか?いや真奈は別に彼女じゃねーよ。単なるトモダチ。オレ特定の彼女作る気ねーし」
そう言って薔薇は尻のポケットから喫煙セットを取り出す。
「おい、この部屋で吸うなよ。全く、そのトモダチが何人いるんだか」
「おおっ、興味あるのか?ちょっと見せてやんよ」
そう言うと、薔薇は嬉々として喫煙セットを放り出すし、自分のスマホを笹島へ差し出した。
そこには肌色率の高い、中々にエロい女性たちの写真で埋め尽くされた画面が広がっていた。
「なっ…、何だよこの破廉恥なギャラリーはっ!」
「けけけっ。お前やっぱ童貞だろ。反応見たらすぐわかった」
「うるさいな。別にいいだろ。そんな事」
耳を赤くして笹島はジャケットを着込む。
「おらおら、後学の為、もっとよく見てみろよ」
「いいって……ん?」
その破廉恥な写真の中に、笹島はある一枚の写真を見つけ、タップしてみる。
「これ森さら?すごい可愛いんだけど…」
「わっ、それはダメだ!」
それは今より少し幼い印象の森さらさが写っていた。
麦わら帽子に白いワンピース。
ひまわり畑に一人佇み、満面の笑顔を向けた少女。
商業的な笑顔ではない、素の笑顔を晒している。
それを撮った人物の想いが滲み出るような、そんな素敵な写真だった。
薔薇は慌ててスマホをポケットに仕舞うとベッドから立ち上がる。
「さっきの写真の事は忘れろ。いいな?」
「別にそんなの一々言わなくてもわかってるよ。大体俺、森さら推してねーし」
「てめぇ…」
薔薇はまた何か言いたげな目で睨んできたが、すぐに目を逸らした。
「そういえばあんた、仕事は?」
「オレは午後からゆるっと行くわ。シフト変えたから」
「はいはい。んじゃ、俺は行くな」
そう言って笹島は階下の洗面所へ降りていった。
残された薔薇は窓辺に立ち、唇を噛み締める。
「藤森薔薇、お前、本当にそれでいいのかよ?」
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