第30話 イアソンと緊急ミッション
俺たちはギルドの命令でダンジョンの中へと進む。だがその進みは遅い。先遣隊が主力の場所を掴んだという話があり出撃の命令が下りたのだ。しかし、いざ進もうとしたところ、新しい情報が入った。オークたちがダンジョンの壁に穴をあけて不意打ちをしてくることもあるらしい。魔物如きがそんな小細工を使うのも煩わしいが、それを知らせてきたのがシオンの息のかかった人間だというのも、またイラつかせる原因になっていた。
「おい、いつまでもやってるんだ!! 他の奴等はもう、とっくに進んでいるんだぞ」
「無茶ですよ、どこに穴があるかわからないんですよ。また奇襲を受けてしまいます!!」
「くっそ、ならば蝙蝠にでも話を聞けばいいんじゃないか? お前ら狩人は動物を使えるんだろう?」
「蝙蝠ってダンジョンに巣食っているやつですよね? 私達狩人はずっと育ってきた動物となら意思疎通できますが、そんなの無理ですよ」
先導しているのは今回のために臨時でパーティーを組んだ狩人の少女だ。罠を警戒しながら進んでいるのだが、進みが遅くてイライラする。俺は思わず舌打ちをしてしまう。このままでは他のパーティーに手柄を取られてしまうではないか。
シオンだったら蝙蝠の声を聴いてすぐなのに……何回か壁から穴を開けたオークたちに強襲されたせいか、少女の歩みはより慎重になっている。先遣隊たちが調べてくれた安全と思われていたルートもオークたちの奇襲によって無駄になってしまっているのだ。
「イアソン様落ち着いてください」
「わかっているよ! 俺が冷静じゃないって言うのか? だいたいお前がシオンを追放しようって言うから……」
「すいません……ですが、彼は不要でした。それにそれの件に関してはイアソン様も了承したはずでは?」
「うるさいなぁ。じゃあ、俺が悪いって言うのかよ!! だいたいシオンの奴がもっとしっかりしていれば追放しようって話になんかならなかったんだぞ」
俺の声にメディアが頭を下げ、それを見た他の二人が困惑をした顔をしている。それをみて俺はさらにイライラする。俺は……俺たち『アルゴーノーツ』はBクラス期待のエースなのだ。ここで手柄を立てて、Aクラスに昇進をしなければいけないのだ。そのためには誰よりも活躍をしなければいけない。特にシオンに負けるのだけは許せない。あいつのことだ、どうせ、この洞窟にいたスライムあたりから情報を得たのだろう。
情報戦は負けたが、戦闘力ならば、俺達『アルゴーノーツ』は負けていない。そう、戦闘能力ならば負けていないのだ。だから早くオーク達の元へ向かい、俺達で、オークのリーダーを殺してしまえばよい。
英雄である俺と、すさまじい魔力をもつ『大魔導士』メディア、Cクラスのソロ狩人でありで『俊足の狩人』アタランテ、最近Bクラスに昇進した聖騎士で牛や豚などの獣系の魔物に対して圧倒的な力を持つ『獣殺し』テセウスである。俺を含めてすべてギフト持ちである。
シオンもカサンドラとかいう女とパーティーを組んでいたが、勝負にもならないだろう。一騎打ちでは負けたが、あれも不意打ちのようなものである。真正面からやりあえば俺が負けるはずがないのだ。
少し進むと、奥から怒号と共に、剣と剣のぶつかり合う音や、悲鳴が聞こえた。ようやく着いたようだ。そこはもはや、戦場だった。高台からはオークたちが弓を構え近づこうとする冒険者を射抜く。遠距離攻撃が得意な冒険者たちが応戦しているが高低差のためか苦戦をしているようだ。そして中央にはオークの集団がいる。そこはもう乱戦状態であった。おそらくオークたちは自分達が有利な所で待ち伏せをしていたのだろう。オークが戦略を考えるとはな、生意気な……
「状況はどうだ?」
「小競り合いが続いています、敵のリーダーの元には何人かが奥に辿り着いたのですが…」
俺が近くにいる冒険者に声をかけると彼は奥にいるひときわ巨大なオークを指さす。そのオークはバカでかい錆付いた大剣を持っており、その刃には血と肉がこびり付いている。今もまた、冒険者が大剣を叩き付けられてぺちゃんこになっていた。そしてその側にはまるで、奴隷のように一際小さいオークがいやらしい笑顔を浮かべて立っていた。
大きいオークはおそらくオークロード。このダンジョンのオークのリーダーと噂をされていた存在だろう。強さはBクラスの上位である。俺は興奮に体を震わせる。これは運命だ。英雄には試練が必要だという。新しいパーティーの門出にふさわしい試練、これこそまさにチャンスである。
「皆の者聞け!! この戦場は『アルゴーノーツ』任せろ!!」
俺は剣を掲げて宣誓する。あの馬鹿でかいオークを倒して俺は英雄になるのだ。おれが英雄になるのを見て悔しがるがいいシオン。俺は剣を構えながら笑みを浮かべるのであった。
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