第29話 シュバインの話

俺とカサンドラは困惑しながらもシュバインに話を聞くことにした。ちなみにオークの言葉をわかるのは俺だけなので後で俺がカサンドラ達に伝える方式だ。少し面倒だがこちらの方が効率がいい。



『どうやら、俺が仲間を殺した上に、お前らを見逃したのを誰かががリーダーに言ったらしくてな……それがリーダーの逆鱗に触れたようだ。まあ、元々俺は地上侵攻に反対だったからな。追放するのにちょうどよかったんだろう』

「そうか……俺たちを見逃したせいで……なんか悪い」

『いや、たくさんの同族と戦うのは中々楽しかったぞ。殺しても殺しても襲ってくるからな、良い戦いだった。おかげで俺はさらに強くなれたよ』



 そういうとシュバインは豪快に笑った。こいつどんだけ戦うのが好きなんだよ。どうやらこいつにとっては仲間に裏切られたつらさよりも、戦えた方が楽しいらしい、バトルジャンキーめ。



「楽しかったって、お前は裏切られたんだろう? その……オークたちを恨んでないのか?」

『まあ、別に恨んでいないといえば嘘になるけどな、俺も強い奴と戦うために好き勝手やっていたし仕方ないさ。それに俺は負けたからな。文句を言う権利はない。それに、俺は強い奴と戦えればどうでもいいんだ。だから、お前らがオークを倒すっていうのなら手伝ってもいいぜ。兄貴のやり方はきにくわなかったしな。そのかわりすべてが終わったらそこの雌と一戦させてくれ』



 カサンドラをみながら豪快に笑うシュバイン。でも、今気になることを言っていたな。兄貴か……そういえばライムもオークのリーダーが変わったって言っていた。となると、シュバインの兄貴がオークのリーダーなのかもしれない。それならば、もしかしたらギフトについても知っているのでは?



「なあ、お前の兄貴がオークの群れのリーダーなのか? あと、お前の兄貴はお前と同様に特殊な力をもってるんじゃないか?」

『おお、さすがは人間だ、今の言葉でそこまでわかるのかよ。兄貴みたいに頭がいいな。よく見れば兄貴に似ていて性根が曲がってそうな顔してるもんな』



 え、なんで俺こいつに馬鹿にされてんの? 文句を言いたくなったが今は我慢だ。俺はシュバインの話を聞く。



『そうだよ、兄貴は特殊能力を持っている。兄貴は屈服させたやつに命令できるんだ、そして命令された奴は兄貴に絶対逆らえない。その力で兄貴はオークのリーダーになったんだ。兄貴はオークにしては変わっていてな、力は弱いけど頭は回るんだ。今頃やってくるだろう人間たちを倒す準備をしているんじゃないか? あえて逃がしたとか、なんか計画がどうのこうのっていってたからな』



 俺はそのセリフで嫌な予感がよぎる。たまたま一人だけ帰還できた冒険者。そして、まるで俺たちに不意を打つかのために壁に掘られた穴。これは……まさか、罠なのか? 俺たちは……人間はオークがそこまで頭が回るということを考えることを知らない。ならば前線部隊はやばいんじゃ……



「最後にもう一度聞くぞ、お前の兄貴と俺たちは戦うがいいんだな。場合によっては兄貴を目の前で殺すかもしれないが……」

『ああ、覚悟の上だ。兄貴は俺を粛清しようとしたんだ。今更、かばう義理はないだろう、それに俺達オークは強い奴が絶対だからな。負けたら殺されるのも仕方ないさ』



 俺の言葉にシュバインは当たり前のように答える。おそらくこれは人とオークの価値観の違いもあるのだろう。それでもシュバインの目に一瞬寂しそうな色が映った気がした。なんだかんだ色々考えて決めたのだろう。



「そうか……ほかには何か知らないか?」

『俺も全部の作戦を聞いたわけじゃないんだけどな……』



 シュバインの話に俺顔を真っ青にする。まずい、このままでは前線部隊が全滅するかもしれない。おそらく……前線部隊は致命的な勘違いをするだろう。俺はカサンドラ達に声をかける。

 


「カサンドラ、ライム行こう。みんながやばい」

「どうしたの? いろんな情報は聞けたみたいね」

「ああ、最高に最悪な情報だよ。事情は走りながら話す。一秒でも早く決戦部隊と合流をするんだ」



 そして俺たちは蝙蝠の力を借りて洞窟を探索してもらいつつ、一番人やオークがいるところに向かう。もちろんライムとシュバインも一緒だ。それはまるで一つのパーティーのようだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る