第26話 ポルクス2

「ブヒ? ブヒィィィ!!」



 強襲されたオークは兄に切り刻まれて、驚愕と共に悲鳴を上げた。何を言っているかわからないけど奇襲は成功したようだ。「しゃがむぞ」と兄の思考が私に流れてくるのを感じ、それに合わせて私は魔術をはなつ。



「風よ!!」



 私が放つ複数の風の刃がオークたちを襲う。絶妙なタイミングでしゃがんだ兄によって死角から現れた魔術に驚いているオークを兄が追撃する。これが私たちのスキル双子共感(シンパシー)である。声を、視線すら交わさずに、お互いの思考を読めるこのスキルは戦闘にとても役に立つ。時々兄さんが年上好きってのいうのが流れ込んできたりなど、余計な情報も手に入るが私はこのスキルに感謝をしている、これがあるからこそ私たちは短期間でCランクに昇格できたのだから。



「くらえ、ポルクススラッシュ!!」

 


 私の魔術で傷ついたオークを兄が剣で切り裂く。私たちの必殺のコンビネーションである。でも一言いう事がある。



「私の名前を技名にするのやめてくれませんか? 無茶苦茶恥ずかしいんですが!!」

「何を言っているのだ。かつての英雄は神の名を技につけたという。ならば世界一美しい女神のような妹の名前を技につけて何が悪いというのだ!!」

「私が悪いって言ってるんですよ!! あ、でも、これが流行ってシオンさんも私の名前を読んでたらやばいですね」



 その光景を想像して私は顔が赤くなってしまう。それをみた兄が不機嫌そうに顔をゆがめているがどうでもいい。



「それにしても、さすがです、兄さん……おもったより、スムーズにいきましたね」

「不意打ちだったからな、正面ではこううまくはいかなかっただろう。それよりも……傷よ癒えよ」



 兄が私の手の擦り傷に治癒をかける。おそらくダンジョンを走っている最中にけがをしてしまったのだろう。



「この程度の傷なんですから……精神力がもったいないですよ」

「もったいないはずがあるか、お前を傷つけるものは何人も許さんし、お前が傷ついているのをみているのはもっと許せん」

「ありがとうございます。ついでに、私の心が傷つかないために、どうシオンさんを落とせるかもかんがえてもらえませんか? アスさんがいない今がチャンスだと思っているのですが、最近アンジェリーナさんが怪しい気がするんですよね」

「ふん、俺はどうやったらあの軟弱男にお前が幻滅してくれるかだけを考えているよ」



 そういってカストロは不機嫌そうに鼻をならす。まったく、兄さんは本当にシスコンである、時々うっとおしいこともあるが嫌ではない。私は素直にお礼を言う。



「それにしても、まだ浅いのにオークに遭遇するなんて……どうします? 奥に行きますか?」

「いや、いったん引くぞ。ここにオークがいたということは勢力図が伸びているということだ。ギルドに報告すべきだろう。数が多ければ僕たちの手には余る」

「そうですね、わかりました」



 兄が討伐証明にオークの耳を切るのを見届けて私たちは入口へと戻ることを決める。なにがおきてもいいように通路への警戒は怠らない。兄が耳を袋にしまい、一息する。

 ちょうどその時だった。壁の一部がぼろりと崩れ、闇の中から二つの光がこちらを射抜くようにみる。そして、なにかが光ってこちらへと飛んでくる。どんっと押されると同時に兄の痛みの感情がながれてくる。



「ポルクス!!」



 何がおきたかと思うと壁からオークが何匹か出てきたのだ。先頭のオークは弓矢を持っていて、そいつの矢からの攻撃から、兄は私をかばって怪我をしたのだろう。肩をから血を流している兄をみて私は現状を理解する。



「火よ!!」




 私の魔術によって弓をもったオークが燃え盛る。でもそれだけだ。倒せたのは最初に出てきた一匹だけだ。



『リーダーのオークがどんなギフトをもっているかはわからないが、何をしでかしてくるかわからない。絶対油断をするな』



 シオンさんの言葉が思い出される。私だって油断をしたつもりではなかった。でもそれでも警戒が足りなかったという事だろう。だって、オークは知能が少なくて、こんな隠し通路を作るようなことはないはずだったから……



「ポルクス……早く逃げろ。ここは俺が食い止める」

「何を言ってるんですか、利き腕を怪我している兄さんに何ができるというんです? それに私の足ではすぐに追いつかれてしまいますよ、だから兄さんが逃げてください」

「何を言っている!! お前の『守護騎士』である僕がお前を置いて逃げるものかよ!! それにもう大事な人を失うのはまっぴらだ!!」

「そんなの私だって同じに決まってるじゃないですか!! でも、どっちかが囮にならないと……」



 その時、背後からも何者かの足跡が聞こえてきた。一瞬援軍を期待するが、その直後にゴブリンか何かだろう。あきらかに魔物であろう声が聞こえる。私は現実を知る。もしもこのタイミングで援軍が来たとしたらそれは英雄譚のようにできすぎている。そもそも、ここらへんの区画は私達しかいないはずだ。背後からの足跡が私には死神の足音に聞こえた。

 正面のオークたちがいやらしい笑みを浮かべて迫ってくるのをみて私は覚悟を決める。せめて一体でも多く倒すのだ。私は甘い期待をしたことを恥じる。だって私はもう知っているから、この世に英雄なんていないという事を、両親がゴブリンに襲われた時に誰も助けが来なかったときに知ったのだ。この世に英雄何ていないということを。ああ、こんなことだったら、想いを告げておけばよかったんなぁ……それだけが心残りだ。

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