第25話 ポルクス
私はついていると思う。なぜなら、今日はあこがれの冒険者であるシオンさんにお話を聞くことができたばかりか、仲良くなれたからだ。あの人は覚えていないかもしれないけれど、私が新人だった時に色々教えてくれ、私に希望をくれたのがあの人だった。
私は別に、冒険者にはなりたくてなったわけではない。ゴブリンに村が滅ぼされて、双子の兄以外の家族や知り合いを失った私達には冒険者になって食い扶持を稼ぐくらいしか生きる道はなかった。幸い私も、兄もギフトには恵まれていたのでそこまでの苦労はなかったが、私は生きる意味を失っていた。
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Cランク
ポルクス
ギフト
『魔けん士』
本能的に魔術、剣術、拳術を理解することが可能。それぞれのスキルを使う時に熟練度の上昇率及び、魔術の詠唱までの速さがあがる。魔剣と魔拳が使用可能。
スキル
中級魔術 火、水、風、土の魔術が使用可能。威力の向上。熟練度によって、制御力に補正がかかる。
連射魔術 魔術の本質を理解したものがたどり着くスキル。威力が少し劣るが連続で魔術を放つことができる。
初級剣術 剣を使用したときにステータスアップ。
初級拳術 拳を使用したときにステータスアップ。
双子共感(シンパシー) 兄の思考及び、次の行動、視界の共有が可能。
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私のギフトはそこまで強力なものではないけれど、冒険者の人達にはうらやましいとよく言われたものだ。確かに生きるのにはとても役に立った。でも私が前向きになれたのはシオンさんのおかげだった。
冒険者の新人研修で、依頼を受けて講師をしていた彼に冒険者になった理由を話すと、彼は気まずそうに顔をゆがめた。ああ、同じだ。私がこの話をしたほかの人と同じ顔をする。この顔をしたあとにみんなは決まってこういうのだ。「生き残れて運がよかった、なら精一杯いきるんだ」とか「君の力は君のような境遇の子供をふやさないためにあるのかもしれない」とか……申し訳ないがそんなことはどうでもいいのだ。
だって私は私だ。家族や知り合いを失った私は新たな目標がほしかったのだ。運がよかった、確かにそうかもしれない。でも、私は平穏がすぐに壊れることを知ってしまった。
私と同じような人間を増やさないようにする? なるほど確かにそれは素敵なことだと思う。でも私が救いたいのは私だ。わたしのようになる人間ではない。私自身を救いたいのだ。今思えば余裕がなかったのだろうと思う。ありきたりな言葉に聞き飽きていたのだろう。だから彼の言葉を聞いたときは驚いた。
「ごめん、俺さ、孤児だったから両親を亡くすってことがどれだけつらいかわからないんだ……でもさ、知り合いがいないんだったら、知り合いを作ろう。冒険者になってうまいものを食べたり、いろんなところに行ってみようよ。人生は楽しいこともあるからさ」
「なんですかそれ……でもそんな日常も簡単に壊れるんですよ!! 何を信じればいいんですか?」
「そうだね、日常は壊れるさ、だから守れるために力をつけよう。自分の日常を守るために強くなるんだ。自分のために強くなって、自分のためにお金をたっぷり稼いで、おいしいものを食べて、人生を謳歌するためにいきればいいんじゃないのかな?」
「自分の事ばかりじゃないですか、そんなのでいいんですか? 私と兄だけが生き延びたんです。それなのに、そんな自分のためだけに生きていいものなんですか?」
「いいに決まってるよ、だって君は運よく生き延びただけなんだからさ。運がよかっただけだよ。ならその運に感謝して、人生を楽しもうよ。それでさ、将来余裕ができたら他人の事も考えてもいいかもね。とりあえずは君は自分が幸せになってから考えよう。せっかく可愛いんだからさ、そんな沈んだ顔をしていたらもったいないよ」
私は適当な彼の言葉に思わず笑ってしまった。初めてだった。こんな風に言われたのは……でも、彼は私を適当な慰めではなく、憐みでもなくちゃんと一人の個人として扱ってくれているのだということがわかった。ゴブリンの襲撃に生き残った可哀そうな女の子でもなく、悲しみを糧に努力する女の子でもなく、ただの冒険者のポルクスとしてみてくれていることがわかった。そして、彼が「内緒だよ」と連れて行ってくれた夜景が見えるレストランのご飯はとてもおいしくて、久々に、生きているんだなって実感がわいたものだ。
それから私は時々ギルドで、彼を見つけては挨拶をするようになった。教習が終わってしまったので会う機会は減ってしまったけれど、彼にあうと胸がポカポカするのであった。そしていつか……もう少し強くなったら言おうと思う。イアソンさん達と楽しそうに口論をしているあの人をみて、「臨時でもいいので一回パーティーを組んでもらえませんか?」といってみようと思う。彼がみている冒険者の世界が知りたいから
「何をボーっとしている!! もうダンジョンの中だぞ、ポルクス」
兄の言葉で私は目の前に集中する。私たちの任務は、入り口付近の弱い魔物の退治、及び、侵攻ルートの確保だ。さきほどから、ゴブリンなどの魔物と何度か戦っているがうまくいっているからか、少し油断してしまったようだ。
「どうせ、あの男の事を考えていたのだろう? まったく、あんな男のどこがいいのやら……もっと強いやつはたくさんいるというのに……」
「兄さんにはわかりませんよーだ」
わたしは顔が真っ赤になるのを自覚しながらも、兄を睨みつける。スキルの双子共感(シンパシー)のおかげでお互いの考えていることが、だいたいわかってしまうのは便利なのだが、こういう時は不便である。ちなみに兄さんがシオンさんに強く当たるのは、このスキルで私の想いを知ってからだ。まったく応援してくれればいいのにと思う。
「ポルクス」
「ええ、兄さん」
通路の奥に敵の気配を察した私たちは、戦闘モードに意識を切り替える。ゴブリンなどならばいいが……
「水よ。敵はオークが3体ですね」
魔術によって通路にできた水たまりを利用して奥を見た私は兄に報告をした。オークはCクラスの魔物だ。ギルドではCクラスで対応できると認定している。Cクラスとはいえ私たちは昇進したばかりである。だけど……
「シオンの言っていたギフト持ちはいないんだな、行くぞ」
「はい、普通のオークですね。では、援護します」
「神の加護よ」
兄の法術によって、私は身体能力があがるのを感じる。兄の『守護騎士』の力である。兄の『守護騎士』のギフトは法術を使えるだけではなく、守ると決めた者と自分自身のステータスを上げることができる。
ソロならともかく、パーティーを組んだ私達の力は自分で言うのもかなりのものだ。そして慎重な兄がいけると判断をしたならば、問題はないだろう。そうして私たちは戦いを仕掛けるのであった。少しでも減らしておけばシオンさんたち決戦組の負担も少なくなりますしね。そうして私たちはオークと戦う準備をするのだった。
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