第11話 救世主ではなく相棒がいい。

魔族、それは魔物と同じように強力な力を持った存在である。彼らはかつて、この世界の支配権を神と争い敗けて堕ちた神の血筋を引くものとも言われる。今では少数しかいないものの、そのあまりの強さから、存在は伝説のようなものになっている。実際に存在するのだが、ほとんど世捨て人のようになっているやつが多く、俺も実際にみたことはない。



「魔族との混血か……」

「ええ……そうよ」



 俺は彼女の姿を再度見る。確かに人間離れした美貌に、炎のように赤い髪、そして、『予言者』という非戦闘用ギフトでありながらギフト持ちのオークと渡り合う身体能力。彼女の強さにもこれで納得である。強力な力や、人とは似て非なる存在は畏怖の対象になるものだ。でも、日ごろから魔物や動物と会話している俺からしたらそんなものは気にならない。

 正直言おう。無茶苦茶うらやましい、ギフトも未来予知という戦闘に応用しやすい能力に、前衛として理想的な身体的な能力。あと、むっちゃ美人である。こんな人とパーティーを組むことができたらきっと幸せだろう。



「そしてもう一つは私のギフトよ。私のギフトの能力は二つ、数秒後の未来をみる力と、神託のように遠い未来がみえるの」

「へぇー、すごい便利だな」

「ええ、そうね、私のギフトには弱点なんてないわ。だから私は今まで生き残ってこれたのよ」

『ええ、そうね、でも、それには一つだけ致命的な弱点があるのよ。私の神託は私以外の人間には間違って伝わってしまうのよ。例えば『津波が来る』と誰かに助言をしても、その人には『今日も平和だね』みたいにね……』



 そういうと彼女は何かを思い出すかのように悔しそうな顔をした。その顔はクールな彼女には似つかわしくなかったけれど、なぜか俺の心に響いたのだ。それはまるでいくら努力をしてあいつらにおいてかれて悔しがっていた俺の様で……

 


「だから俺には、さっきも、今も二重に声が聞こえたのか……そして、俺のギフトが君の言葉を正しく翻訳してくれていたんだな……」

「ええ、あなたなら……誰でもないあなたなら、私の予言を正しく聞くことができるの。そしてそれを他の人に伝えることができるのよ!! そうすれば今まで救えなかった命だって救えるようになるかもしれないのよ」


 彼女は興奮したように言葉を紡ぐ。それにしても本当に質が悪いリスクである。彼女が本当に伝えたいことは何一つ伝わっていない。そして、彼女が俺をみる目はまるで救いの手を求める信者の様で……なにか切なかった。


 

「それで……さっきの話はどうかしら? 正直、私のギフトは使い勝手が悪いし、この外見のせいで不当な評価も受けるかもしれないわ……でも、身体能力なら自信があるし、あなたとなら私は前へ進めると思うの、あなたとならパーティを組んでもうまくやっていけると思うの!! それにあなたが私と組んでくれるならなんでもするわ。クエストだってあなたが選んでいいし、報酬の分け前だって9対1でもいいわ。私にとってあなたは救世主(メシア)なのよ」



 今この子なんでもっていったよね? なんでもってやっぱりなんでもなのかな? デートとかしてくれるかな? ああ、でもデートって言ってダンジョンとか連れていかれそうだよな。いきなりの事に俺は現実逃避をしかけるが、今はそん時ではないと思いなおす。彼女の真剣な想いに答えるべきだし、彼女の間違いを正さなければいけない。だって俺は救世主(メシア)ではないし、そんなものにはなれないのだから……




「パーティーを組むならば一つだけ条件をいいかな?」

「ええ、何でも言って。あなたが気持ち悪いっていうならその……この赤い髪を染めてもいいわ」



 彼女は何やら意を決したように言った。でもさ、何を言ってるの? せっかく綺麗なのに染めるなんて言うなよな。俺は思わず口を開いていた。



「何を言っているんだよ、俺はカサンドラの髪は炎みたいで綺麗で好きだよ。助けてもらった時だって綺麗に舞っていて思わず見惚れたんだ」

「え……好き? 今あなた……私の髪を好きって言ったの?」



 俺の言葉に顔を真っ赤にするカサンドラ。え、まって、口説いてると思われた? 違うんだって、いや、確かにきれいな髪だとは思うけどさ。酔いも手伝って思わず本音を口走ってしまった。



「その……この髪が不気味じゃないの? 人ではありえない色なのよ……私が魔族との混血の証ですもの……」

「だから綺麗だって言ってるだろ。俺はスライムとパーティー組んだりしているような奴だよ。そもそも魔族との混血とか気にしないよ。ギフトのおかげで魔物にもいいやつはいるって知ってるんだ。大事なのは種族や見た目じゃなくて個人がどんなやつかだろ」

「でも……だったら余計私は駄目じゃない……あなただって聞いているんでしょう? ギルドでの私の評判を……」

「災厄のカサンドラか……」



 そういって彼女は顔を曇らせた。ああ、確かにさ、アンジェリーナさんも言っていたけど彼女のギルドでの評判はあまり良くない。



「でもさ、それはギフトのせいで勘違いをされていただけだろう? 俺は君がこれまでどんな人生を送ってきたかは知らない。でも俺は知っている、君が馬車でまた勘違いされるかもしれないのに助言をしてくれたということを!! 俺を救うためにオークと戦ってくれたことを!! そして今も俺を騙そうとせずに素直に自分に不利になることを言ってくれたんだ。俺は君を信頼できると思うよ」

「シオン……」

「それにさ、やっぱりカサンドラはいいやつだよ。俺のギフトで予言がみんなにも伝えることができるってわかったときにさ、君は言ったんだ『今まで救えなかった命だって救えるようになるかもしれないのよ』ってさ、自分の誤解が解ける事よりも、誰かを救えることを喜んだ。俺にはまるで君が英雄譚の登場人物のようにみえたよ」 



 俺はさきほど彼女をうらやましいと思ったことを反省する。彼女の苦労を想像して反省する。彼女はそのギフトのせいで救えたかもしれない命も救えなかったのだろう。 誰かに信頼されることも難しかったのだろう。そしてついたあだ名が「災厄のカサンドラ」でも、俺となら……俺となら組める、俺となら彼女は英雄になれる。ならば俺は彼女の力になってあげようと思う。外れギフトでもできることがあるのならば助けてあげたいし、俺を必要と言ってくれた彼女の力になりたいのだ。ああ、素直に言おう。俺は今彼女をかっこいいと思ってしまったのだ。憧れてしまったのだ。



「褒めすぎよ……バカ……私はそんないい人間じゃないわよ……でも、ありがとう。そういえば、さっき条件があるっていってたけどそれってなんなのかしら? これだけおだてておいてやっぱり組めないとか言ったら本気で泣くわよ」



 俺の言葉に彼女は涙で目を潤ませながら言った。その声には俺への信頼がある気がする。もちろん俺だって彼女とはもうパーティーを組むつもりだ。でも絶対譲れないことがある。俺がパーティーを組む条件はただ一つだ……



「君は俺を救世主(メシア)といったけれど、残念ながら俺は君の救世主(メシア)にはなれない。だってさ、パーティーを組むならば俺たちは対等の立場だろ。報酬だって半々でいいし、受けるクエストも一緒に相談して決めたい、それにどちらかが間違いを犯しそうだったらちゃんと注意をしていきたい。どちらかが一方的に信じるんではなくて共に信じあいたいんだ。だから俺はメシアにはなれない。けど相棒にならなりたい」



 これは俺がずっと思っていたことだった。イアソンたちと組んでいた時がそうだった。最初は対等だった立場も、実力が離れていくうちにどんどん俺は意見を言えなくなっていった。たぶんそこから始まってしまったのだろう、俺たちの歪みは……

 だから思うのだ、今度パーティーを組むのは時はいつまでも対等でありたいと、これだけが俺の願いだった。



「それでいいの……? そんなことでいいの?」

「それが大事なんだよ、カサンドラ。俺にとってはそれが何よりも大事なんだ。まあ、俺の方が弱いから、雑用とかは俺の方が多くやるけどさ」

「だったら私があなたを強くしてあげるわよ。魔術はわからないけど、剣なら教えれると思うし」

「いいのか? 俺は中々上達しないぞ」

「いいのよ、だって私たちは相棒なんでしょう? そのかわり私の修業は厳しいわよ。絶対逃がさないからね」



 そういって彼女は本当にうれしそうに笑った。その笑顔は赤いきれいな髪もあいまって本当に太陽みたいで綺麗だなって思ったんだ。



「じゃあ、改めて……パーティーを組んでくれないか?」

「ええ、こちらこそお願いするわ」

「新しいパーティーに乾杯!!」



 そうして俺たちはパーティーを組むことになった。二人で飲む酒は追放された時の酒よりも何倍もうまかった。そうして俺たちはお互いの自己紹介もかねてこれまでの冒険話で盛り上がるのだった。


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