第8話 シオンと少女
ダンジョンを出た俺たちは近くの平地で休息をする。俺がダンジョンでのお礼を兼ねてライムに薬草を与えると美味しそうに吸収している。少女の問いへの解答はダンジョン内はいつ魔物に襲われるかわからなかったため、脱出を優先したのだ。
「なんか色々あったわね……それであなたに聞きたいことがあるのだけれど大丈夫かしら?」
「ああ、なんでも聞いてくれ。助けてもらったお礼もあるし、馬車でも助言をしてくれたしね……」
俺は困惑をしながら礼を言う。彼女とは馬車が初対面なはずだ。たまたま、ピンチをみかけたらというならばともかく、わざわざ助けに来る理由がわからなかった。聞きたい事ってなんだろう。やはり俺のギフトについてだろうか?
そういえば魔物とばっかり話していたから、魔族と勘違いとかされていないよな? ちなみに魔族とは強力な身体能力に、リスクはあるが、強力なギフトを持っている種族だ。動物と魔物、人族と魔族のように別の種族である。かつて、Sクラスの冒険者に『魔王』という魔族がいたのだ。その冒険者は魔物を従える力をもっていたというが、俺のギフトは翻訳であり、魔王のギフトよりはるかに弱い。だが、似ているので、勘違いされたら面倒である。だって俺あんまり強くないし、魔族でもないしな。
「そう……あなたにはちゃんと助言に聞こえたのね……」
だが、その心配は不要なようだった。彼女は俺の言葉を聞くと何やら目を輝かせながら俺を見つめてくる。それはまるで……ダンジョンではぐれた仲間に再会したような希望に満ちた目のように感じた。
「あの……あなたに聞きたいのだけど、あなたに私の声はどう聞こえたの?」
「ん? どういうことだ?」
俺は彼女の質問の意図が分からずに聞き返す。一体どうしたというのだろうか? 俺の顔をみて彼女は何かを感じ取ったのか、言葉を紡ぐ。
「あの……私の予言が、あなたにはどう聞こえたのか聞きたいの。馬車の時と、オークに襲われた時にあなたにはなんて聞こえたの?」
「予言? ああ、やっぱり君は、そういうギフトを持っているのか。冒険者に襲われるっていう事と右によけろって言ってた時だよね。ありがとう、おかげで俺はオークの攻撃をよけることができたよ」
「そう……私の言葉は。あなたにはちゃんと届いたのね……私は、ようやく、私のメシアにやっと出会えたのね……」
そういうと彼女は涙を流しながら俺に抱き着いた。え? なにこれ。俺は突然の柔らかい感触と甘い香りに困惑をする。え、この状況はなんなの?
もしかしたら実は俺はオークの攻撃で致命傷をおって夢でもみているのだろうか? てかこういう時どうすればいいんだ? 俺はとりあえず彼女のなすがままにされる。彼女はしばらく俺の胸元で泣いていたが、正気に戻ったのか、顔を真っ赤にして俺から離れた。
「ごめんなさい、私ったら……その……色々あって混乱しちゃって……」
「ああ、冒険者やってると色々あるよな、そろそろ馬車来るし、街に戻ろう」
色々って何があるんですかね、まあ、よくわからないけど色々あったんだろう、そこらへんの話もあとでしてもらえるだろう。俺は動揺しながら答えた。
てか女の子ってなんでこんないいにおいがするの? いや、オークの血の匂いもしたけどさ。あとなんか柔らかいよね。スライムのほうがやわらかいけど、なんか違う。こっちのほうが気持ちいいし、嬉しい。俺がくだらないことを考えていると彼女はちょっと顔を赤くしたまま言った。ライムは空気を読んだのかいつの間にか姿を消していた。
「カサンドラよ、私の名前はカサンドラ……あなたの名前は何て言うの?」
「シオンだ、改めてお礼を言うよ、カサンドラ。いい名前だな」
「どういたしまして……その、あなたはソロで活動しているの?」
「ああ……まあな」
まあ、ソロの冒険者は少ないからな……俺は追放された時の古傷が、痛むのを感じながらも答える。すると彼女は緊張したような顔で言った。
「あの……私もソロなんだけど、もしも、あなたがいやじゃなかったら、私とパーティーを組んでくれないかしら?」
「え? 俺と君がか?」
この子はおそらくイアソンよりも強いだろう。なのになぜ俺なんかとパーティーを組むのだろう。ソロの人間は、たいていがソロでいる理由があるものだ。例えばギフトが団体行動に向いていなかったり、性格的にソロの方が楽だとか……もしかして新手の美人局だろうか?
疑惑の目で見るが先ほどの彼女の何かに救われたかのような目を見る限り、とてもじゃないがこちらを騙そうという風にはみえなかった。
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