第3話 少女の警告
ギルドで依頼を受けた俺はダンジョン行きの馬車が止まっている停留所へ向かった。俺はいつものように馬たちに声をかける。
「よう、元気か?」
『ああ、元気だぜ!! 今日も乗っけてやるから今度、ニンジンをくれよな』
『俺はニンジンじゃない方がいいなぁ……飽きてきたんだよね……もっと牧草が食いたいって言っといてくれない?』
「ああ、わかった、伝えておくわ」
これが俺のギフト『万物の翻訳者』の力である。俺は馬から聞いたことを御者に伝えてから乗り込む。御者のおっさんには「いつもありがとう」と言われたが、馬の言っていることを伝える事で格安で乗せてもらっているのだ。そのくらいは恩を返したいと思う。それに馬が機嫌良い方が早く目的地に着くしな。
馬車に乗った俺は乗客を確認する。よかった。イアソンたちはいないようだ。さすがに昨日の今日で会ったら気まずいからな……まあ、俺が今向かっているダンジョンはあまり強い魔物はいない。あいつらが来ることはないだろう。
乗客は俺のほかには二パーティーの様だ。四人パーティーが一つ、あとは、俺と同じソロらしき女性冒険者だ。炎のように真っ赤な髪の美しい少女である。人間離れした美貌の少女は、退屈そうに窓を眺めている。
「おい、ねーちゃん。一人で行くのか? よかったら俺たちに混ぜてやろうか? 分け前もやるぞ。その代わり、夜も俺たちに混じってくれよ。ぎゃははは」
下品な声が少女にかけられる。残念なことだが、冒険者の中にはこういう輩もいる。特に彼らは万年Cランクの素行の悪い冒険者たちだ。時々イアソンと喧嘩をしていたので覚えている。こいつらは実力もそこそこなうえに、プライドは高く、関わるとめんどくさいので、あまり関わりたくはない。こういうやつらを上手にあしらうのも冒険者に必要なスキルである。とはいえ彼女が困っていたら助けるかなと思い、俺は様子をみる。
「ごめんなさい、私は自分より弱い人とパーティーを組む気はないのよ。あとナンパだったらもっと上手にやりなさい。ゴブリンの方が上手に女の子を誘うわよ」
「なんだとてめえ!!」
少女の言葉に男たちが凍り付く。そして顔を真っ赤にして怒り狂う。確かに男がクソなのは事実だが、もっと穏便に済ます言い方もあるだろうに……俺が仲裁に入ろうとすると、いつの間にかに彼女の腰から得物が抜かれ、男の首元に突きつけられる。すさまじい早業だった。Bクラスの冒険者か……俺では目で追うのが精いっぱいだった。おそらくだが、イアソンよりも速い。
「ごめんなさい、息が臭いのよ。これ以上しゃべるなら、もう臭い息を吐かないようにしてあげるけどどうされたいかしら?」
「冗談だよ、冗談……くそが、いつかぶっ殺してやる」
一蹴された男たちは、馬車の隅っこでぶつぶつと言っていた。俺がちらちらとみているのに気づいた彼女が不審げにこちらを見つめるが、信じられないものを見たかのように目を見開いた。そんなに俺の顔変かな? 俺が不思議に思っていると、神妙な顔をして彼女は俺に言った。
「ねぇ……あなた、他の冒険者に祝福されるわよ」『ねえ……あなた他の冒険者に襲われるわよ』
「はぁ……肝に銘じておきます」
いきなり何言ってんだこの人? やはり冒険者には変わった人多いのだろう。せっかく綺麗な顔や髪をしているというのに……
いや、ちょっと待て。今なんで彼女の声が二重に聞こえたのだろう? しかも正反対の意味で……まるでギフトを使って、動物や魔物と話しているときの様だった。この少女は一体何者なんだ? 俺は心の中の動揺を隠しながらも彼女に返答するのであった。
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