第2話 Cから始める冒険者生活

 一晩中自分の部屋で思い出に浸りながら酒を飲んでいた俺は途中で力尽きたのだろう、いつの間にか寝ていたようだ。ああ、冒険者ギルドに行って、預かっていた軍資金を返さないと……あとは、これからの身の振り方だな……これまではBランクの冒険者として生活していたが、あれはパーティーでの実力だ。そもそも俺にはソロではBランクの実力はない。しばらくはCランクか、下手したらDランクのソロ冒険者として生きていくのだろう。俺が身支度を整えていると冒険者カードが目に入った。


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Bランク 


シオン

ギフト『万物の翻訳者』


いかなる生き物、魔物とも意思疎通可能。


スキル


中級剣技 剣を使用したときのステータスアップ。

中級魔術 火、水、風、土の魔術が使用可能。威力の向上。熟練度によって、制御力に補正がかかる。

中級法術 傷の回復、身体能力の向上などの法術を使用可能。効果の向上。熟練度によって、制御力に補正がかかる。


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 俺は自分の冒険者カードを見ながら自虐的な笑みを浮かべる。なんでもっと戦闘向けのギフトではなかったのだろう。これが例えば『剣聖』などならば何の努力もしないで、上級剣術を覚えることができるらしい。ギフトが手に入ったときは嬉しかったが、結局戦闘向けのギフトに目覚めたイアソン達の成長には付いていけなかった。


 ちなみにギフトとは、突如目覚める才能のようなものだ。全員が目覚めるわけではなく、ある分野で、すさまじい鍛錬をしたり、死にかけるような体験をしたり、かといえば、ボーっとしているときにいきなり、目覚めたりもする。まあ、ようは気まぐれな神様の贈り物のようなものだ。


 そして、ギフトに目覚めた人間はたいていがそのギフトに沿った人生を歩むものだ。俺ももっと動物といるような職業についていれば、人生は変わったのだろうか?


 そして、スキルとはそれまでの鍛錬や経験によって手に入る力の事である。死ぬ気でがんばっても俺は中級が限度だった……ほかの三人は上級以上のスキルをもっているのに、だ。


 でもさ、俺はあきらめたくなかったんだよ。俺は……昔聞いた英雄譚の登場人物のようになりたかったんだ。子どものころに、みんなで話して一緒に目指そうって言っていた英雄になりたかったんだよ。





 酔い覚ましに冷たい水を飲んだ俺は、冒険者ギルドに来ていた。俺が入ると喧騒が一瞬止まり馬鹿にするような目で見るもの、憐みの視線を向けるものなど、さまざまな視線が俺を突き刺す。おおかた昨日の話が伝わったんだろう。俺が所属していたアルゴーノーツは期待のエースとして良くも悪くも有名だったから……


 すべてのメンバーがギフト持ちということもあり、期待されていたのだ。リーダーのイアソンは『??の英雄』いまだ何の英雄かは判明していなかったが、目覚めればすさまじい能力を得ることができる戦闘系最高峰のギフトである。メディアは『大魔導士』魔術師系の最高峰のギフトである。そして、あの場にはいなかったが、アスは『医神の申し子』回復法術の最高峰のギフトである。



「ほらみろよ、あいつ。ついにパーティーを追放されたってよ」

「ぎゃははは、ギフト持ちって言っても『翻訳者』だもんなぁ」

「そこの方々、冒険者同士での喧嘩は駄目ですよ!!」



 悪意に満ちた言葉を注意してくれたのは受付嬢のアンジェリーナさんだ。俺より二つか三つ年上で、可愛らしい女性である。彼女には新人の頃から世話になっている。注意された冒険者達は舌打ちをしたりしながらも押し黙る。ギルドに逆らったら資格をはく奪になるからな。あと単純にアンジェリーナさんは可愛いので、冒険者たちから人気があるのだ。敵に回したら後が怖い。

 俺は視線を気にしないふりをしてアンジェリーナさんに声をかける。彼女は俺と目があうと、まるで慰めるかのように優しく微笑んでくれた。ダメだって、童貞の俺はただでさえ惚れっぽいのに、こんな弱った時に優しくされたら惚れちゃうよ。



「すいません、アルゴーノーツにこのお金を渡しておいて欲しいのですが……あと、パーティーを脱退したのでソロでのランク判定をしていただきたいのですが……やっぱりDランクですかね?」

「お疲れ様です、シオンさん。その……話は聞いていますよ、よかったらパーティーを紹介しましょうか? 私の見立てですが、シオンさんならソロでもCランクですし、アルゴーノーツと同ランクのBクラスのパーティーを紹介できますよ」



 彼女の優しい言葉に甘えたくなるが、それでは駄目だろう。彼女の善意で身の丈のあわないパーティーに入っても、また追放されるのは耐えられない。まずはソロで活動をして、自分の実力を客観的に見つめなおすのだ。



「ありがとうございます。でもしばらくはソロで戦って自分の実力を見つめ直したいんです。ちょうどいいクエストはないでしょうか?」

「わかりました。では近くのダンジョンにオークが大量発生しているという話があるので、何匹か退治しておいていただけませんか? 耳を持ってきてくだされば金貨と換金いたしますので。あと例の方法でダンジョンの調査をしていただけると嬉しいです。もちろん調査内容によって、追加料金は支払いしますからね。あと……」



 一瞬間をおいて、彼女は俺の手を握りしめた。暖かいなぁって気持ちと、女性の手の柔らかい感触に体が固まり、思わず顔が真っ赤になる。



「私はあなたが、頑張っていたのを知っています。あなたがパーティーの……そしてギルドのためにどれだけ頑張っていてくれていたかを知っています。今はつらくても、あなたには絶対いいことがおきますよ。受付嬢として何人もの冒険者をみてきた私が言うんだから信じてください」

「あ、はい……ありがとうございます。でもいい事ってなんでしょうね……例えばアンジェリーナさんが俺とのご飯に付き合ってくれるとか……」

「うーん……」



 俺の調子にのった冗談に彼女は眉をひそめる。確か、冒険者の中では「鉄壁のアンジェリーナ」とか呼ばれてて、みんなデートのお誘いをあしらわれているんだっけ。普段も優しいからって調子に乗りすぎたかなと思っていると、彼女は小悪魔のような笑顔に表情を変化させていった。



「二つだけ条件があります。一つは無事に帰ってくること、もう一つは美味しいお店に案内してくれること、ですね」

「え……?」

「ではいってらっしゃい。次の方どうぞー」



 後ろにほかの冒険者が来たこともあって会話が終わってしまった。でもさ、なんだこれ。胸がむっちゃどきどきしてるんだけど……彼女なりの慰め方だろうか? そりゃあ人気も出るだろうなと思う。まあ、彼女の場合年下の弟をなぐさめているような感じなんだろうけど。



「アンジェリーナさん、なんで、ガッツポーズしてるんですか?」

「なんでもないです!! 用件はなんでしょうか?」



 何か後ろで声が聞こえたが盗み聞きは失礼だろう。なんか意識をしてしまって恥ずかしい俺は足早にギルドを去るのであった。


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