パラノーマル・ケース 警視庁超常犯罪対策班

雨谷結子

Case1 スーサイド・オブ・ザ・ロビン

第1話 或る梅雨の日

 朝から小ぬか雨の降る、六月の明け方。

 この時期、百々ももは普段の寝覚めの悪さが嘘のように早朝に目を覚ます。

 肌に纏わりつくのは、湿気と生ぬるい大気。その淀みに沈み込んでいくように、まだ少女だった頃の記憶が蘇る。それはちょうどこんな雨の降りしきる日で、パトランプの灯りがくるくると水たまりの上を踊っていた。


 百々は深く息を吐きだすと、重たい身体を引きずってリビングに向かった。本の山の崩れたテーブルからテレビのリモコンを引きずりだして電源を入れる。たちまち秩序のない音の洪水が室内に流れだし、頭のなかで響いていた雨音が遠のいていく。

 液晶のなかでは、気象予報士が週間天気を諳んじていて、傘マークと曇りマークが入り乱れた憂鬱な空模様が画面いっぱいに表示されていた。

 東京は、梅雨入りして三日が経っていた。


 すぐ脇のカレンダーを見れば、本日の日付に黒いボールペンで丸くマークが付けられている。

 いつもより少し念入りに化粧でもしようか。柄でもないのに、そんなことを思いながら洗面所へと向かう。

 今日は、百々の職場に新人が異動してくる日だ。

 ほんの少し特別で、けれどいつも通り退屈にちがいない一日の始まりを、蛇口から溢れでた流水が押し流していった。

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