第4話 巣へ誘う・凛子視点

 林先輩から話を聞き終えると、次に雪さんは浅田先輩を呼んできた。


「よろしくお願いします、先輩」

 わたしは軽く頭を下げ言った。

「お、おう……」

 浅田先輩は体をそわそわとさせ落ち着きがなく、挙動が不審だった。わたしたちを怖がっているようにも見えた。

「浅田先輩がラブレターのことを聞き回っていると聞いたんですけど、何か理由があるんですか?」

「いやぁ別に……」

「方法がわかるかとも聞いたみたいですね」

「俺も気になってな、特別な理由はねぇさ」

「奇妙なことですし、気になるのもわかりますよ」

「だろ」

「でもどうして嬉しそうにしていたんですか?」

「嬉しそうになんて……」

「みんながわからないのが嬉しかったんですか?」

「いや、そんなことは……」


 浅田先輩は困ったように目をきょろきょろと動かした。答えに窮している。ますます怪しい。

 わたしたちの後ろを首を伸ばし見ると、表情を輝かせた。この状況を覆してくれる救世主でも現れたのか?


 後ろを振り返るってみると、拓郎くんがこちらに近づいてきていた。

 わたしは目を大きくし驚いたのだが、拓郎くんもぎょっとしていた。

 どうして拓郎くんが? 浅田先輩と接点があるのか? 浅田先輩が黒だとすれば、今回の一件にも拓郎くんが関わっている可能性はかなり高まった。


「あれ、なにしてんの」

 と拓郎くんは表情を戻すと言った。

「浅田先輩にちょっと話を聞いていてね。拓郎くんこそ何をしているの?」

「おれも大貴さんと話がしたいと思ってやな。あっ、わかった! ラブレターの調査してるんやろ!? そうですよね。ね?」

 拓郎くんは、雪さんと郷田先輩にも尋ねた。二人の先輩は顔を見合わせた。普通に答えればいいのだが、勢いに調子を崩されたのだろう。

「やっぱりそうか! いやあ、だって凄い話題になってんもんな凛子!」

「まあね」

「なんや、元気ないなぁ~解けるんか~おいおい~」

 拓郎くんのテンションは上がっていた。単純に密室の謎に心躍らしているのか、何もわかっていないわたしたちを見てはしゃいでいるのか。後者だとすれば今にみていろよ……。


「拓郎くんは何か知ってる?」

「いや~わからんなぁ~。鍵のかかったロッカーにラブレターが入ってたんやろ~? そんなん不可能やんか~おいおい~」

「その喋り方なんなの。イラっとするんだけど」

「解けへんからっておれに当たらんといてやぁ~。まあ、天下の風紀委員さまなら、お茶の子さいさいで解決してしまうんやろけどな~ハハッ!」

 拓郎くんは鼻の穴を膨らなし、にやにやと笑い煽ってきた。


 カチンときた。上等である。後悔してももう遅い!


「拓郎くんはこの一件に関わってないんだよね」

「あ、当たり前やん。関わってへんよ」

「だったらさ、拓郎くんも風紀委員の会議に参加しない?」

「へ?」

「ラブレターのことで放課後に風紀委員室で話し合うんだ。関係してないならいいよね。力を貸してよ」

「それは……」

「普段からイタズラを仕掛ける拓郎くんだからこそ、わかることがあると思うんだ」

「け、けど……」


 雪さんと郷田先輩は悪魔のような笑みを浮かべていた。拓郎くんはひっと声に出し、自分の体を抱き締め怯えた。

 助けを求め浅田先輩を見たが、顔を背けられてしまった。味方はどこにもいないのだ。


「おれ、用事があるから……」

「ないよね」

「用事が……」

「な、い、よ、ね!」

「はい、ないです……」

 拓郎くんは大人しく下を向いた。


 その姿を見て、わたしは腹の底からゾクゾクとした。やっぱり拓郎くんは可愛いなぁ……。

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