彼が先生にばれないようにトリックを仕掛けるけど、風紀委員で幼馴染のわたしがすべて暴いちゃいます! だって彼のことが大大大好きだから!! すべてを見透かしたいの……
第5話 風紀委員のライバル、生徒会登場・凛子視点
第5話 風紀委員のライバル、生徒会登場・凛子視点
先輩たちはすでに風紀委員室に到着していた。早速、先刻の花瓶が割れた件を伝えた。
すると珍客があった。意外な三人が、ノックの返事も聞かず入ってきた。
「お邪魔するわね」
自信に満ちた溌溂とした声だった。生徒会長の佐久間(さくま)光(ひかり)先輩である。厄介な人が登場したものだ……。邪魔するなら帰ってと言ったら、帰ってくれるだろうか?
雪さんや郷田先輩と同じく二年生で、背が高くすらっとした細身な体型が羨ましかった。長い黒髪をなびかせ、前髪は切り揃えられていた。非常に生真面目で融通が利かなく、生徒からも畏怖されていた。目を合わせたら制服の乱れや規則などの叱責を浴びせられそうで、横を通る時は顔を伏せている生徒も多かった。
後ろには副会長の藤波(ふじなみ)心美(ここみ)先輩と、書記の田島浩太くんがいた。藤波先輩は両手を腰に当て得意げな顔をし、田島くんは申し訳なさそうにしていた。
生徒会が現れ、わたしたち風紀委員は身構えた。
用はいったい何だろうか。大したことでなければ、三人そろい踏みでやってくることないはずだ。面倒が起りそうな予感……。
「いったいどうしたの、光ちゃん」
と雪さんは言った。フレンドリーに振舞おうとしていたが、緊張しているのがありありとわかった。
「原田先生に聞いたんだけれど、美術室の花瓶が割れたそうね」
「そうだけど……」
「その件に生徒会も参加させてもらうわね。いいわね。ありがとう」
まだ何も言っていないのに話を進めるな。雪さんも困惑して目を泳がせていた。
「いや、でも……それは生徒会の仕事じゃないんじゃ……」
「いいじゃない、学校のためだもの」
「せ、生徒会のお仕事も忙しいだろうしさ……無理しなくても……」
「無理してないわ」
「手をわずらわすのも申し訳ないし……」
「なに、つまりは駄目ってことなのかしら」
ギロリと雪さんを睨んだ。雪さんは蛇に睨まれたカエル状態だった。さすが皆から畏怖されている生徒会長だ。凄みがある。わたしもカエルになりかけていた。
生徒会と風紀委員は犬猿の仲だった。
対立は昔から続いているらしい。仕事を取り合ったり、どちらが優れているかと競い合ってきた。伝統みたいなものだと郷田先輩は言っていた。お互い学校を良くしたいという考えで活動しているはずなのだから、協力すればいいのに。
今は学校の風紀はその名の通り風紀委員が、内政は生徒会が携わっている。これがどこの学校もそうしている本来の役割だろうけど……。
花瓶の捜査に参加させろということは、風紀委員の領分を生徒会が荒らすことになる。複雑な背景があるので、佐久間会長の言動は危うかった。対立構造がより苛烈なものになってしまうかもしれない。
おそらく最近、風紀委員が活躍――拓郎くんのおかげだけで――しているので、手柄を横取りしてやろうとしているのだろう。生徒会も学校に貢献しているのだと示したいのだ。
雪さんは同じ学年の会長に怯えていたけど、郷田先輩は鼻息を荒くしていた。
「俺たちの邪魔をしてないで、自分たちの仕事をしたらどうだ。ん?」
両手を広げ挑発した。こういった剣呑な場に郷田先輩がいてくれるのは、とても頼りになった。その鍛えている筋肉をふるう時がきたっ! 筋トレが無駄じゃないということを見せつけてやってください!
「お前はいつも偉そうな言い方だな!」
佐久間会長が答えるかと思ったが、藤波先輩が郷田先輩の前に立ち噛みついた。
おお、勇気のある。ゴリラと張り合おうとするとは……。ゴリラの握力は五〇〇キログラムもあるというのに……。
「わかったぞ! 漢字は違うがジャイアンと同じ名字だから偉そうなんだな!」
「ふん、何をわけのわからんことを! 藤波、お前は相変わらずちっこいくせにうるさいな!」
「なにおッ!」
一歩も引くことなく、藤波先輩は背伸びし郷田先輩を見上げ睨みつけた。田島くんは後ろであわあわと二人を交互に見ていた。
藤波先輩も二年生だった。髪の毛を後ろでしばりおでこを出している。健康的な印象だ。背は小さいが陸上部の短距離走のエースだった。風紀委員を敵視しているが、特に郷田先輩を目の敵にしていた。同じ学年で同じ運動を得意にしているため、ライバル視しているのかもしれない。
「郷田よ、あたしのことをちっこいと言うけどお前はゴリラだ!」
「そうか、ゴリラか……。ゴリラは俺にとって誉め言葉だ。礼を言う!」
「はあ? ゴリラが誉め言葉ァ?」
「ああ、そうだ。ゴリラに見えるということは、ゴリラ並みに鍛えているということだろう。伊藤もそう褒めてくれたからなぁ!」
郷田先輩は不敵に笑った。そういえば数学の課題の一件で、そんな調子のいいことを拓郎くんは言っていた。
「ゴリラと呼ばれ喜ぶなんてな。ならゴリラは檻に帰ってリンゴでも食べておくことだな!」
「いや、リンゴは嫌いなんだ……」
「嫌いなのかよ!」
藤波先輩はこけかけた。いいリアクションだった。
「まあいい……。郷田よ、お前に一ついい提案をしてやろう」
「なんだ」
「こんな風紀委員なんかにいても楽しくないだろう。ど、どうしてもと言うのなら、生徒会に入れてやらんこともないぞ……」
気丈に振舞おうとしていたが、藤波先輩は頬をほのかに赤らめ、ちらちらと郷田先輩の顔色を窺っていた。あれ? 恥ずかしがっているのか? 挑発で言ったわけじゃなく本気ってこと?
も、もしかして藤波先輩って、郷田先輩のこと……。キャァー! 罵っていたのは好きの裏返しなんだー! キャァー!
「生徒会に入れだと? 断る!」
郷田先輩は迷いなく言い切った。
「あっそ……」
藤波先輩はしゅんとし口をすぼめた。乙女の反応だ……。雪さんは駄目だけど、別に郷田先輩くらいなら……。
「お前もしつこい奴だな。俺は何度も断っているだろう」
しかも何度も誘っているんだ。
「心美ちゃんは郷田くんに好意を持ってるみたいなんだよね……」
雪さんがこしょこしょと耳打ちし教えてくれた。
「やっぱりそうなんですか……」
郷田先輩のなにがいいかわからないけど……。わたしはやっぱり拓郎推し。
ぐるんっと首を回し、藤波先輩が険しい顔をしてこちらを見た。
「コラ、そこ何をコソコソ話してんだ!」
「え、いえ……」
藤波先輩はつかつかとわたしの方へ近づいてきた。田島くんは慌てて藤波先輩の前に立ち、
「まあまあ、落ち着いてください。先輩もね?」
「おい、田島! お前はいったいどっちの味方なんだ!」
「ええ……」
田島くんが対応に困っていると、生徒会長が藤波先輩が止めた。
「やめなさい、心美」
「……わかった」
素直に引き下がり、田島くんはほっとしていた。
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