第4話 拓郎発見!!・凛子視点

 美術室をあとにし、下駄箱の前を歩いていると、拓郎くんは自分の靴を弄くっていた。勉強では決して見せないような真剣な表情をしていた。

 くすりと笑った。思いがけず拓郎くんと会えて嬉しかったし、いつ会っても拓郎くんは拓郎くんだなと思った。


「何してるの?」

 立ち止まりわたしは尋ねた。拓郎くんはこちらに向くと、

「お、凛子か。いやちょっとな、学から靴紐を外すファッションもあるって聞いて、実践しててん」

「実践しなくても……歩きづらいだろうし……」

「アホ、ファッションのためや。女の子が寒くてもスカートをはくとの一緒の理論や!」

「で、どうだったの?」

「ぶかぶかでめっちゃ歩きづらかったわ!」

「ふふ、だろうね」

「やから紐を通し直していたんや。凛子はどこ行ってたんや?」


 紐を通し終わったらしく、拓郎くんは手を止めわたしを見た。


「風紀委員の集まりと違うん? あ、わかった。サボりやなぁ」

「違うよ! 今から行くとこ。さっきまで美術室に行ってたの」

「え……」

 目を丸くし口も少し開けた。驚いているふうだ。妙な反応だ。意外な要素は別段なかったように思うけど……。

「美術室に……?」

「課題だった絵を提出しに行っていたんだ」

 将来わたしたちの子供に見せるね! と心の中で付け加えておいた。


「ああ、凛子って絵がめっっっちゃ下手やもんな!」

「溜めて言わなくていいの!」

「まあ、言ってるおれも下手やねんけどな」

 そういえばそうだった。これぞ似たもの夫婦。

「龍一ら待たせてるからそろそろ行くわ」

「あ、うん」


 名残惜しかったけど、わたしもそろそろ風紀委員室に向かわなければ。キミと離れたくないと、手を引き拓郎くんがどこかにつれて行ってくれたらいいのに……。

 靴を履くと、拓郎くんはくるりと背を向けた。


 その時、額に一粒の汗が伝っているのが見えた。冷や汗? どうして冷や汗をかく必要がある――。

「ねえ」

 呼び止めると、拓郎くんは振り返った。笑っていたが、ひきつっているようにも見えた。


「な、なんや?」

「今帰るとこみたいだけど、さっきまでどこにいたの?」

「どこって図書室やけど」

 あれ? じゃあアリバイがあるってこと? わたしの考えすぎかな……。

「じゃあな」

 拓郎くんは前を向き歩き出したが、手と足が一緒に出てロボットみたいになっていた。


 やっぱり怪しい……。今時のロボットの方がもっとちゃんと歩くだろう。

 わたしは遠ざかる拓郎ロボを存分に眺め、風紀委員室に向かった。

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