第6話 ゲーム発覚・凛子視点

 すっかりヨウハンの虜になってしまった。


 ついつい夜更かししていまい、眠っていてもゲームをプレイしている夢を見ていた。あくびを何度もしていると、ちゃんと眠れていないの? と雪さんに心配されてしまった。雪さんは恋の悩みがあると思っていたみたいだけど、見当違いもいいとこだった。

 拓郎くんに、『学校でもゲームをしたいね』と冗談で言うと、顔色を悪くし静かに頷くだけだった。あの時、体調でも悪かったのだろうか?


 そうして数日が経ち、事件が起こった。


 朝、沢口くんは陽気な挨拶をしながら教室に入ってきた。足の爪先が床に引っかかり、沢口くんは体勢を崩し前へ倒れ込んでしまった。どてーと綺麗にこけ、しかもカバンのチャックが開いており中の物が散乱した。

 わたしは起こしてやろうと近づき、そこで筆箱などに交じってゲーム機が飛び出しているのを発見した。


 プレニンエックスだ。ヨウハンをプレイするには必要なアイテム――。


 沢口くんは軽く悲鳴を上げ、急いで隠そうとしたがすでに手遅れだった。


 当然、ゲーム機は没収となり、お昼休みに風紀委員室に呼ばれることになった。


 沢口くんは背中を丸め小さく椅子に座り、青い顔をうつむかせていた。郷田先輩は太い腕を力ませて組み、額に青筋を立て沢口くんを見下ろしていた。あんなに近くに立たれ睨まれたら、顔を伏せるのも無理はない。

 プレッシャーを与え尋問するのは郷田先輩の役目だった。郷田先輩以上の適任者はそういない。


「沢口よ、正直に答えたら許してやろう」

「正直に答えなければどうなるんです……?」


 郷田先輩は答えない変わりに腕の筋肉をモニモニと動かした。まるで生物である。沢口くんは青い顔をより青くした。


「さあ、答えろ。学校に持ってきているってことは、学校でやるつもりだったんだな」

「違いますぅ……。家に帰ってから友達の家に向かわなくていいように、持ってきていただけだから……学校で電源をつけたこともありませんよ……」

「お前だけじゃなく、他にも持ってきてるやつがいるんじゃないのか?」

「い、いません」

「本当か? 伊藤たちも持ってきてるんだろ」

「――関係ありません……! 友達は関係ない、そんなことより僕を罰すればどうですか! さあ!」

 沢口くんは顔を上げ熱いセリフを吐いた。少々演技がかっていた。そして郷田先輩は思ったことを容赦なく言うタイプだった。


「お前、友達を庇っている自分に酔ってるだろ?」


 沢口くんはたちまち顔を赤くした。黄色から始まり青くなったと思うと赤くしたり、まるで信号機だった。


 自分に酔っていたけど、言葉通り何も吐くことはなかった。ゲームは一週間の没収となった。せめてもの慈悲として先生には報告しなことにした。

 沢口くんが部屋を出ていくと、わたしたちは緊急ミーティングを始めた。みな前のめりになっていた。


「どう、他の人たちも持ってきてると思う?」

 と雪さんはわたしと郷田先輩を見ながら言った。

「わたしはそう思いますね」

「俺も同感だ」

「だよね……ってなると――」

 雪さんの言いたいことがわかった。その続きの言葉はわたしが引き継ぐことにした。

「別棟の教室を借りたのも、勉強のためではなくゲームをするため……」

「やっぱりそうなるよねぇ」

 雪さんは頬に手を添えた。


 勉強をするため、という理由に疑念を持っていたわたしが正しかった。ゲームをするとは流石に考えていなかったけど、学園のモリアーティという異名があるくらいなのだから、もう少し警戒するべきだった。


「凛子ちゃんは、一回だけ教室を覗きに行ったんだよね。怪しい点はなかった?」

「廊下に拓郎くんが立ていたんですが、今にして思えばあれは見張りだったのかもしれませんね。誰か来たら教室にいる仲間に知らせるために」

「なるほどね」

「ずいぶんと歓迎してくれましたし、妙に機嫌も取ってきてたんですよね……」


 お嬢様のような扱いも、拓郎くんが歓迎してくれたのもすべて嘘だったのか……。ふふん、わたしも捨てたものじゃないわね、と得意げになっていたのに……恥ずかしい。


「そういえば、家に帰ってから一緒にゲームした時、ゲーム機を充電してたんですよね。学校で遊んでいたから、きっと充電が減っていたんでしょうね」

「これは間違いないかもね……。よし、目を瞑っておくわけにもいかないし、調査をしなくちゃね」


 風紀委員長の提案に、誰も異議はなかった。


 わたしを騙した罪は重い。待っていろよ、拓郎くん……。

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