4章 誕生①

時は進んで深夜0時を迎えようとしていた。事情聴取に疲れた奈津子はその後仮眠を取ったために睡魔が訪れずに暇を持て余してぼんやりと窓の外を眺めていた。木々が秋風に揺れ、虫の鳴く声だけが聞こえてくるそんな情緒を楽しんでいると無人とかした廊下から足音が聞こえてきた。

「コツン・・・コツン・・・コツン・・・コツン・・・」

深夜の病院に似つかわしくない踵の高い靴を踏み鳴らす甲高い音がゆっくりと移動している。

「・・・『こんな時間に誰だろう』」

などと思っていると足音は少しずつ大きくなってこの病室に近づいている。怖くなった奈津子は布団を頭から被り、ベッドを倒して横になった。その間にも足音は更に近づき、足音はドアの前で止まった。背筋が凍りつくような感覚を覚えた奈津子は布団の隙間から覗き見ることにした。

「トントントン・・・・・スーッ」

扉をノックする音が聞こえ、暫くするとスライド式の扉が開いた。

「コツン・・・コツン・・・コツン・・・コツン・・・」

足音の人物は再び甲高い靴音を踏み鳴らしながら室内へと侵入してきた。奈津子の位置からは脚から下だけが見え、真っ赤なハイヒールを優雅に履きこなしていた。1つ不思議なことがあって侵入者は自らの足よりも大きい、指1本分ぐらい大きなサイズの靴を履いている。

「???『どうして自分のサイズと合わない靴を履いているのだろう』」

などと思っている間にベッドの前まで歩み進んで再び立ち止まった。誰とも知れない人物と2人きりの状況は恐怖以外の何ものでもなく、事件のことを思い出した奈津子は全身が震えだして自分では抑えることができなくなってしまった。

「狸寝入りを決め込んでやり過ごそうとしてもそんなに震えてちゃバレバレなのよ」

そう言うとベッドの前の人物は布団をめくり上げて奈津子の姿を顕にした。

「元気そうねぇ、体調も良さそうで安心したわ」

奈津子が恐る恐る見上げるとそこには足に真っ赤なハイヒールを履き,全身に真っ赤なワンピースとトレンチコートを装い,髪は黒光りして長いストレートのスーパーロングヘア,顔は口元を白いマスクで覆い隠している、例の通り魔が立っていた。

「別にお見舞いに来た訳じゃないのよ。先日交わした約束を果たすためにワザワザ来てあげたんだからね」

「約束、それって何なんですか」

「アラ、忘れちゃったの。命乞いした時に[あたしそのモノに成り代わる]って言ったでしょう。だ・か・ら、これから口だけじゃなく全身をあたしそのモノへと作り替えてあげちゃう」

奈津子に再び恐怖の宴が始まろうとしていた。

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