普遍化する魔に

書庫の鳥

プロローグ

「あの日、あの時に始まったあの地獄は全て、人が“魔”を手にしたその時、既に決まっていた未来だったのかもしれない」

          ーーーーとある手記より抜粋




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 ーーーーー統一歴1010年、1月5日。天候、雪。

 

 「逃げろ! 走れ!! 」

 「魔導職員は足止めだ! 兵器は効かん、今すぐ捨てろ!! 」

 「いいか、一斉に撃つんだ! 少しでも威力を上げて供物を減らすんだ!! 」

 


『混沌』の2文字がこれほど似合う状況はあるだろうか。

 

 逃げ惑う人々。反対に進む魔導師たち、彼らを止めようとする子どもたち。襲いかかる化け物と釣られて興奮した獣たち。人々の悲鳴、指示の怒号、化け物の鳴き声、獣の鳴き声、銃声、金属音。

 

 迎撃に向かう魔導師たちは恐怖に戦きながらも堪え、迎え撃つ為にそれぞれの魔導の準備を進める。

 パニックに陥り銃器を振り回す市民と、それを止めようと叫ぶ別の市民。無理に止めようと近寄り撃たれる者もいる。

 

 そして、あたり一面あちこちに転がる、死体、死体、死体。

 

 どこに目を向けても、いや、目を向けなくても。匂いで、音で、気配で、脳裏に焼き付いた映像で、あらゆる方法で『死体』というものの存在を焼き付けられる。

 

 

 そんな中、2人だけ、他の二集団とは全く違う動きをする者がいた。

 

 1人は、すぐ近くの大きな建物へ駆け込もうと、仲間を引っ張り走る。

 もう1人は、化け物たちの奥でひたすらに儀式を進める。

 

 片や元凶、片や解決を目指す両極端な2人。

 

 

 「ーーーおい、おい! しっかりしろ!! お前の仕事はなんだ!!! 」

 「···でも」

 「でもじゃない、それがお前の役割のはずだ! 」

 「ーーーだ」

 「あ? 」

 「ーーー無理だ」

 

 解決を目指す1人、引き連れる仲間の顔は既に絶望で染まっている。

 

 「ーーー無理だろう!? 既にここは化け物の巣窟だ!! 魔導しか攻撃手段が無い俺たちに、ここから状況を覆す要因がどこにあるってんだよ!!! 」

 「ーーーある」

 「はァ!? 」

 「ーーーあるんだよ、覆す要因は!! 」

 

 でも、それは圧倒的に薄い確率。針の穴を通すような成功を、いくつも、いくつも繰り返し積み上げた先の僅かな可能性。

 

 「そこへ辿り着くには、まずここを脱さないといけない」

 「···ならここじゃ」

 「いや、ここだ。ここでお前が奴を撃ち抜く。その隙に転移をする」

 「撃ち抜く···? いや、それよりお前、今ーーー」

 「転移だ」

 

 転移。それは魔術ではない。

 それはーーー

 「魔法、あるいはそれ以上の奇跡の類だ」

 「ああ、そうだ。でもそれをやらないと俺たちに未来は無い」

 

 あの化け物に襲われて殺される。それで終わり。そこで敗北と、この星、いや、この世界の侵略は確定的になる。それこそ、今、針の穴を通し続けるよりも遥かに難しい難題となってしまう。

 

 「いいか、転移は俺がどうにかする。だから、お前は奴を撃ち抜くことだけ考えろ」

 

 有無を言わせず準備に入る。

 




 

 「ーーーこれで、やっと

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