#85 指輪交換と誓いのキス






 フッと意識が戻ると、目の前に2つの指輪があった。


 ヨシムネさんが1つ取り、私の左手薬指にそっと通してくれた。


 じっとその様子を眺めて、数秒の間ぼ~っとしてしまう。


 ヨシムネさんが「んんっ」と咳払いをし、ハッ!として慌てて私も指輪を受け取り、ヨシムネさんの左手薬指に通す。



 顔を上げると、ヨシムネさんが満面の笑顔。


 客席を見ると、みんなスマホを私達に向けて撮影していた。


 一番前の通路側の席で遺影を持つコトネさんが、ハンカチで目頭を押えているのが見えた。



 ああ、チロルもここに連れてきてあげたかったな


 そんなことを考えていると、神父さんに誓いのキスを促された。



 向かい合っているヨシムネさんが『ヒマワリさん、凄く綺麗だよ』と言って両肩を優しく掴まれたので、目を閉じて顔を少し寄せた。


 一瞬だけ唇に触れて離れたので目を開けると、会場が拍手や歓声に包まれた。




 その後、恙なく式は終わり、出席者全員での記念撮影をした。


 漸く緊張から解放されて、脱力していると、専務が声を掛けて下さり「お忙しい中、出席して頂いてありがとうございます! 乾杯の挨拶、よろしくお願いします!」と慌てて挨拶をした。









 控室に戻ると、コトネさんがやって来て

「ヒマワリちゃん、すっごい良かったよ! 感動して泣いちゃった!」


「ええ、ボスが泣いてるの見えました。 準備色々手伝ってくださって、ありがとうございました」


「実際どうだった? 結婚式やってみて良かったでしょ?」


「う~ん、実は緊張しすぎて、あんまり覚えてないんですよねぇ」


「まぁそうだよね。人いっぱい居たしね。うふふ」


 コトネさんとお喋りしていると、スマホで撮影した先ほどの式の写真を見せてくれた。



 入場の時の私の表情が思ってたよりも堂々としてて、思わず「コレ本当に私です?」と聞いてしまった。


「もちろんだよ! いつもよりも凄く堂々としてて、綺麗で格好良かったよ?」


「そうっすか。テレますねぇ、えへへへ」






 披露宴の時間が近づきコトネさんは会場の方へ移動。


 私達は開場の入り口で待機し、今度はヨシムネさんと腕を組んで入場。



 先ほどの式よりも更に多くのゲストに迎えられて、でも今度は緊張はあまりしなかった。


 披露宴には式に呼べなかった会社関係の人が多く来て下さり、入場の時もノリの良い掛け声が沢山聞こえた。



 ヨシムネさんの挨拶から始まり、専務による乾杯の音頭、ケーキ入刀にお色直し、と滞りなく進む。



 コトネさんが選んでくれたワインレッドのど派手なドレスに着替え、再入場。


 各テーブルを周ると、営業部の元同僚たちから

「ヒマワリさん、めっちゃ綺麗ですよ!真っ赤なドレスがこんなに似合うなんて、流石クールビューティですね!」と言われ


「え?クール?わたしが?」ってなった。


 高砂に戻ってからヨシムネさんが教えてくれた話では、わたしがコミュ障であまり愛想振りまいたりしないし、大人しくて喋る方じゃないから、入社当時は根が暗い子と思われてたけど、1~2年して綺麗になると社内ではクールな美人さんだと言われてたらしい。


『いや、だから前からそう言ってたでしょ! ヒマワリさん、そういう自覚ないからいつも冷や冷やしてたんだよ?』と。


「いやいやいや、小学生のときはボストロールと呼ばれ、中学高校じゃジャバダハットって呼ばれてたんすよ? クールっていうよりグール(アンデッドのモンスター)じゃないっすか?」


『ほら、いつもそうやって自分のことブスだと思ってる。 お世辞じゃなくみんな綺麗だって言ってるんだよ』


「・・・・」


 ブス人生まっしぐらだと思ってたのに、私のこと可愛いとか言う物好きはヨシムネさんだけだと思ってたし、会社で男性社員にたまに言われるのも下心からのお世辞だとおもってたのに、ここに来て私のアイデンティティが脅かされているような不安に襲われた。


 いや、どう考えてもブスって思われるよりも美人って思われてた方のが良いんだけどね。 なんだか、ここまで言われても、みんなにからかわれてるんじゃないかって思えてね。




 その後は、余興やヨシムネさんの同級生や私の同僚からのスピーチ、そして私からの両親への手紙へと進んだ。




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