第31話 新学期

 新学期がスタートした。後期は本当にイベント盛りだくさんで忙しい。まずは剣術大会からだな。これはその名の通り、剣の腕を競うものである。


 しかし、剣術大会はあるのだが、魔法大会はない。なぜか? もちろんそれは危険だからである。その昔、魔法大会をやって多数の死傷者を出したことがあるらしい。それ以来、魔法大会は中止。だれも口に出さなくなったそうだ。


「魔法大会があればフェル様が絶対に優勝しますのに。残念ですわ」

「リア嬢は私をデストロイヤーにしたいのですか?」

「そんなことはありませんが……フェル様のかっこいいところを見たかったですわ」

「リア嬢……」

「フェル様……」


 見つめ合ったところでパンパンと柏手がなった。殿下である。生徒会室が静まり返っていたのか、その音が良く響いた。


「ハイハイ、お前らいつもいつもこりないな。いい加減に空気を読め。みんな動きが止まっているだろうが」


 確かに、少し注目を集めすぎたようである。コホンと一つ咳をすると、話を元に戻した。


「参加者についてですが、生徒会役員は剣術大会の運営があるので、全員不参加にさせていただきます。我々の主な任務は雇い入れた兵士たちの指揮になります」

「いきなり戻って来たな。まあ、妥当な処置だな」


 王立学園の剣術大会は国内はもちろんのこと、国外からもお偉方が見学にくるのだ。万が一のことがあってはならない。そのため生徒会役員はこれからしっかりと兵士の動かし方を学ぶことになっている。


 もちろんマニュアルはあるし、先生方も手伝うので恐れる必要はない。それに今の生徒会役員には優秀な生徒がそろっているので問題ない。


「今から学習すれば大会当日までには十分に間に合いますわ。皆様、どうか生徒会長に力を貸して下さいませ」


 マリーナ様の言葉に生徒会役員の全員が拍手で了承した。これで生徒会の士気も上がることだろう。


 剣術大会はトーナメント戦である。参加は自由。まずは参加者を募集してから、試合の日程を決めることになる。すでに参加を決めている生徒たちは、新学期が始まってから早々に屋外訓練場で模擬戦をやっていた。


 その中には攻略対象の二人の姿もあった。騎士団長の息子、アレクと魔法ギルド長の息子、ギルバートである。剣術大会では攻撃魔法を使ってはならない決まりになっているが、防御魔法や補助魔法は使っても良いことになっている。


 そうでなければ、圧倒的に武闘派の貴族が有利になってしまうからである。魔法大会がない代わりに、それでバランスを取っているようだ。

 それにしてもあの二人、仲が悪くなったのかな? 確か、二人つるんでヒロインの周りをちょろちょろしてたと思うんだけど。


 どうも離れた場所でそれぞれ違う生徒たちと打ち合いをやっているように見えた。まるでライバル……そうか、あいつらヒロインを取り合っているのか。それはそれでこちらとしてはありがたいぞ。

 どうかそのままヒロインをゲットして、ゴールインしてもらいたいところである。


「どうなされたのですか? 何やらニヤニヤと……まさか、いやらしいことを考えておりませんわよね!?」

「違いますよ! ちょっと三角関係がドロドロしてきたので、ワクワクしてきただけですよ」

「……それはそれでどうかと思いますわ」


 リアからの賛同は得られなかった。



 兵士の雇用は、お金はかかるが国の正規兵を雇うことにした。これまでは冒険者ギルドを通じて、冒険者を兵士として期間雇用していたのだが、前回のこともあり、より信頼性の高い方を採用した。冒険者に他国の工作員が紛れ込んでいるとも限らないからね。


 冒険者ギルドとさらに関係が悪化するかも知れないが、背に腹はかえられない。だが、冒険者ギルドとしても王立学園とあからさまに対立することはないだろう。冒険者ギルドにとっての貴重な収入源であることは間違いないだろうからね。


 冒険者ギルドにとって、今年は「王立学園実戦訓練」が開催されず、金銭的には散々だったかも知れないが来年も同じとは限らないのだから。


 そんなわけで警備体制についての問題はほぼなくなった。あとはあらかじめ予選を行って、決勝トーナメントに進む者を絞り込むだけである。さすがに当日だけですべての試合を行うことはできない。


 剣術大会への参加は自由である。もちろん女性も参加することができる。だがそうは言ったものの、多くてもクラスの半分が参加する程度の人数である。チェスとダーツの大会に比べたら、試合数は少ない。


「例年と同じく、トーナメント戦にしようと思います」

「それで問題ない。こじれると厄介だからな」


 アレクとギルバートがいるクラスの生徒は残念なことになりそうだが仕方がない。運が悪かったと持って来年に向けて頑張って欲しい。来年は違うクラスになるように取り計らっておくから。


「参加人数は全校生徒の半分程度でしょうか?」


 リアがくびをかしげながらマリーナ様に尋ねた。


「そうなると思いますわ。それでも今年はクラスが多いですから、予選だけでも大変な試合数と仕事になると思いますわ」

「それなら、早い時期から予選を始めなければなりませんわね」


 リアとマリーナ様が早くも予選の期間を探り始めた。確かに今年は人数が多くなりそうだ。新学期が始まったばかりだからと言って、のんびりしている時間はそれほどなさそうである。


「殿下、試合会場と審判を増やす必要があるかと思います。場所は試合会場だけでなく、屋外訓練場も利用しましょう。審判はどういたしますか?」

「そうだな、資金はかかるが、騎士団からそれなりの人を借りるとしよう。城に戻ったら俺が伝えておこう」

「ありがとうございます。それでは私は屋外訓練場の手配をしてきます」


 深々と殿下に頭を下げた。よろしく頼む、と殿下の声がかかった。すぐにリアを連れて職員室へと向かった。



 予選大会はすぐに開始された。予選会場は連日、熱気に包まれている。今も裂帛の気合いと共に振り下ろされた剣が相手の剣をはじき、そのまま肩を激しくたたかれていた。ゴキュッという嫌な音がした。すぐに勝負ありの声がかかる。


「衛生兵、すぐに治療を開始してくれ」

「ハッ! かしこまりました」


 気合いが入っているのは良いことかも知れないが、けが人が絶えない。それだけお互いに本気でやっているということである。この場にリアがいなくて良かった。さすがに血なまぐさい場所に連れていくわけにはいかないからね。


「決勝戦が思いやられるな」

「はい。死人が出なければいいのですが……」

「さすがに理性が残っているのではないか?」


 殿下が肩をすくめた。俺もそうだといいなとは思っている。


「ビラリーニョ嬢を取り合っている二人がぶつかると、そうも言っていられないかも知れません」

「ああ、なるほど。最近二人が険悪な雰囲気になっているのはそのせいか。一人の女性を取り合っているとはな。……本戦の審判は騎士団長に頼んでおこう」

「よろしくお願いします。さすがに死人が出れば、剣術大会の無期限中止もあり得ますからね」

「長きに渡って受け継がれてきた王立学園の伝統を、俺たちの代で終わらせたくはないからな」


 俺たちはお互いにうなずきを返した。今からすでに頭が痛いわ。

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