第8話 本当にあった話

 


「はいお茶。いっぱい飲むんだよ?」


「うん、分かった」


 ミホにそう言われたのでゴクゴクとお茶を飲む。

 飲み干すと、お腹はタポタポ。


「さて……これは本当にあった話でね、今日みたいな雨が降っている日に起きた事なんだって」


 寝る前にミホがお話をしてくれるみたい。

 今日はどんなお話かな?

 楽しいお話だといいな。


「夜中に雨音で目が覚めた女の子は、その後なかなか寝つけずにいたんだって。ふと、トイレに行きたくなってトイレのドアを開けようと思ったんだけど……トイレからピチャピチャと音がした。雨音ではないみたいだけど……気になってドアを開けると、音は止んだ。気のせいだったのかな? そう思って便座に座ると、トイレットペーパーに色が付いていた。不思議に思い、少し巻いてみると……真っ赤な文字で‘’見ているぞ‘’という文字がズラーッと書かれていた。恐怖を感じた女の子は急いでトイレから出ようとした。その時、ピチャ……ピチャ……あの音だ。見てはいけないと分かりつつ、つい好奇心から便器を覗いてしまう。そこには鬼の形相をした血塗れの顔があって……女の子にこう言ったんだって……見ているぞ!!!」


「わっ!!? ミ、ミホ……怖いよ……」


「以上、本当にあったお話でした。じゃ、寝るよ」


 えっ?そのまま……?

 ミホがそう言うので、恐怖を抱えたまま目を瞑る。


 ◇  ◇  ◇


 ウトウトとし始めた頃、雨音は強さを増し始めた。

 寝る前に飲んだお茶のせいかトイレに行きたくなる。

 あれっ?これってあのお話と一緒……


 外からか中からか、どちらか分からないけどピチャピチャと音がする。


 ミホが言っていた。本当にあった話だって。

 つまりこの音は……

 

「ミホ、ミホ……」


「ん……? どうしたの?」


「その……怖くてトイレに行けないの」


「ふふっ、さっきの話思い出しちゃった?」


「うん……その……もう我慢できない……」


「よしよし。じゃあアキには2つ選択肢をあげるね。一つはコップ、これを使う。もう一つはここ」


 そう言ってミホは口を開けた。

 そんなの……無理だよ……


 でもコップに収まらなかったらどうしよう……

 

「ミホ……」


 不安と焦りで涙が止まらない。


「ほら、決めて。じゃないと漏らしちゃうよ?」 



 ◇  ◇  ◇



「っ……うっ……ひっく……っぅ……」


「ごめんねアキ……そんなに泣かないで」


「ごっ……ごめんなさぃ……っ……ぅっ……」


「私が悪いんだから謝らないで? ほら、お風呂行こう。シーツは洗濯して……マットは朝干そっか。ね?」


「っ……うん……ひっく……ぅっ……」


「……そうだ!! 泡風呂にしよっか」


「泡……風呂……?」


 ミホがお風呂の準備をしてくれる。

 不思議な液体を入れると、浴槽が泡で満たされていく。

 入ったらふわふわしてるのかな?


「ほら、一緒に入ろ」


「うん…………わぁ、泡がいっぱい。すごいねミホ!! 泡のお風呂だよ?」


「ふふっ、そうだね……アキ、さっきは意地悪しちゃってごめんね」


「ううん、私が悪いの……ごめんなさい。今度は一人でトイレに行くから……」


「ホントは飲みたかったんだから。今度は口にして、ね?」


「……はい」


 ミホに頭を撫でられる。

 夜中だった事を思い出し、急に眠くなってきた。

 ミホといると、安心できる…………


「アキ? 泣き疲れて寝ちゃったか。ちょっとやりすぎちゃったかな、ごめんねアキ。でも、そんなアキも……大好きだよ」


 泡とミホに包まれながら眠る。

 私には、贅沢な話。

 明日は晴れるといいな。

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