第3話
翌日から一週間かけて、騎士団の本部がある中央区へ行く準備をした。準備と言っても大した事ではなく、騎士団へのお詫びの用意だ。間接的とはいえ騎士団の名誉を傷つける結果となったのだから、せめてもの気持ちを用意する事にしたのだ。
お詫びの品は、畑に新しく生えた薬草で作ったポーションにした。魔力回復に効くが、騎士団には魔剣を使う人もいると聞いているので役に立つだろう。
病み上がりの身体にとって、薬草の収穫とポーションの精製は重労働だった。そのため想定よりも時間がかかったが、なんとか用意できた。父さんと母さんには仕事があるし、私一人で用意しなければお詫びにならないものね。
マークが追放される当日、騎士団本部に着くと団長のコリンが出迎えてくれた。コリンはマークの同期で、何度か三人で食事をしたことがある。マークと違って誠実で、皆からの信頼も厚い人だ。
「レイチェル、目が覚めたんだね。眠り姫になってしまったって聞いて心配していたんだよ」
どうやら騎士団にも私が眠っていたことが知れ渡っているらしい。というより眠り姫って……周りにそんな風に呼ばれていたとは。恥ずかしすぎる。
「お気遣いいただき、ありがとうございます。本日はマークの件でお詫びに伺いました。こちらをお受け取り下さい。」
深々とお辞儀をしてポーションの入った箱を渡す。コリンは驚いた様子で、首を振った、
「レイチェルが謝ることじゃないよ。君こそアイツのせいで大変だったろうに……これ高価なポーションじゃないか!こんなの貰えないよ」
「いいえ、詳しくは申せませんが、マークの行動は私の所為でもあるのです。どうか受け取ってください。それに私が精製したので、費用ゼロですよ。だから気になさらず」
「どうぞどうぞ」「いやいや」と二人で箱を押し付けあっていると、背後から叫び声が聞こえてきた。
「レイチェル!君のせいで僕はっ……!」
振り向くと、恐ろしい顔でこちらに走ってくる男がいた。マークだわ。この三年間で随分と顔が変わったようね。昔の方が良い男だったわ。
「あらマーク、まだいらしたんですか。そろそろ国を出るお時間では?」
少し挑発してみると、面白いくらいに顔を真っ赤にして暴れ出した。
「君こそ何故ここにいるんだ?!き、君、僕から魔石を奪ったんだろう?!返せよ!あれがないと僕は、僕は!!」
後半は叫び過ぎていて何を言っているのかよく分からなかったけれど、魔石のお守りがない事に気づいたのね。
「何を言っているのかよく分からないわ。私は今日、元婚約者がかけた迷惑をお詫びするために、ここに来たのよ。最後の尻拭いってこと」
そう言って笑って見せると、マークが叫びながら殴りかかってきた。
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