第24話 元カップルと文化祭③
※優希※
『それってさ、真昼ちゃん以上に萌結のことが────』
杏奈はそれ以上言わなかった。でも、その先に続くだろう言葉は推測できる。
文化祭まであと一週間となった日の放課後、帰路に立っていた俺は脳内で思考を巡らせる。
同時に真昼と付き合い始めた夏祭りの翌日、俺の家を訪れた昴が言っていた言葉を思い出す。
『お前、あんまりフラフラすんなよ?』
あの時の言葉は、今の俺にぴったりだ。だからこそ、そうなってはいけないと改めて思う。
陽キャであっても、チャラ男ではない。
ちゃんと二人と、俺の気持ちと向き合って、自分なりの答えを見つけなきゃいけないんだ。
今の笹川の行動は、杏奈が言った通り昴が引き金を引いたものだろう。
昴はとっくに立ち直って向き合っている。
「…………っ!」
自分に昴のような思いきりがないことが悔しい。
同じくらいの陽キャなのに、行動にこうも歴然と差が出てくる。
理由は単純、俺の陰キャは完全に抜けていない。
だから関係が壊れるのが怖く、今の環境を崩したくないと動き出せないでいる。
まるで呪縛のように俺の心を締めつけている。
「はぁ……」
こんなこと、俺のバイブルには描いてなかったぞ……。いつから俺はフィクションを越える主人公になったんだよ。
「……よし」
考えているだけじゃダメだ。動き出さなきゃ何も始まらない。
動いて、動いて、動いて、俺は変わらなきゃいけない。
ちゃんとケリをつけないといけない。
恋にも、未練にも。
※萌結※
『俺を見てほしい』と中村くんに言われ、私がそれに答えてから二ヶ月が経った。
その間私は、嘘偽りなく中村くんのことを見ていた。
中村くんは出来た人だ。
容姿がイケメンと呼ばれる部類なのは言うまでもないが、人の良さ、運動神経、クラスでの立ち居振る舞い。
どれを取っても素晴らしいものばかりで文句の付けようがない。
きっと彼のような恋人がいる女子は、とても羨ましがられるだろう。
そんな人が私に好意を寄せてくれている。私はそれをとても有難いと思っているし、蔑ろにしてはいけないとも思っている。
だけど同時に私は、中村くんと付き合うという未来を想像できなかった。
どうして彼じゃだめなんだろう…………。
考えても考えても分かっていることは一つだけ。
私が好きなのは佐々木という事実、だけだった。
文化祭まであと三日に迫ったその日、私は明日から始まる文化祭準備日についての話し合いの後、一人教室に残っていた。
佐々木は会議が終わるのを待っていた真昼とすでに帰宅した。杏奈はこの後すぐにバイトが詰まっているらしい。
「いつまでもってわけにはいかないもんね……」
中村くんとの約束には期限が決まっていない。
だから、今の関係のままなあなあに過ごすことも可能だろう。
だけどそれはあまりにも自分勝手すぎじゃないだろうか。
やはり期限を自ら設けるべきだろう。
「イベントに頼らなきゃいけないって……」
相変わらずの自分の弱さに飽き飽きする。
昔から私は、イベントに乗じないと何もできない。
そうそれは、私と彼が付き合い始めたきっかけになる文化祭でも同じことで────
※萌結※
中学三年生九月。この時期学校中が活気立っていた。
それもそのはず、すぐ二日後には大目玉の学校行事、文化祭が迫っているのだから。
クラス中がわーぎゃーと騒いでいる中、私の視線はただ一人、黙々と窓際の自分の席で作業を行う佐々木優希に注がれていた。
中学生の男子というのはふざけがちで、作業を邪魔したり、作業しなかったり。そんな人達の中で、彼はちゃんと課せられたノルマを達成し、下校可能時刻と同時に帰宅する。
「萌結何見てるの?…………って佐々木?」
「えっ?!ち、違う違う!外眺めてただけ!」
「だよねー!萌結が佐々木なんか見るわけないかー!」
きっと少しイジりたくて言っただけだったのだろう。私と仲の良いその女子は「そりゃそっかー」と明るげに話し別の話を始めた。
だよねー……か、やっぱりそうなのかな……。私の佐々木への気持ちは間違いなのかな…………しちゃいけない恋なのかな……?
好きな人がいて恋をすることはとても喜ばしいことのはずなのに…………。
徐々にクラスの女子が集まり始め話の詳細を聞きたがる。私はその隙に集団を抜け、一人作業する彼に声を掛けた。
「佐々木くん一人で大丈夫?」
「……笹川さん……えーと……大丈夫です」
「そっ」
「…………」
あれ、会話終わっちゃったぞ?
今のは「手伝ってあげるよ」という流れのつもりだったのだけれど……私はなんて返した?
『そっ』って返してるじゃんんんん!!!!!私のバカバカバカ!すごい素っ気ない感じが出ちゃってるし!
もう一回、もう一回やり直させて!
と、私は彼がちらちらと私に目をやっていることに気付いた。
「えーと、どうしたの?」
「いや……っ……あの、向こうの会話入らないんですか?」
「一人で頑張ってる人をほっとけないでしょ?」
「…………」
そう、一人で頑張って人を放っておかず作業を手伝う!これなら誰にも揶揄されないだろう。
私は椅子と机を寄せて「手伝うよ」と言って半ば強引に作業分けてもらう。
「……ありがとう」
「どういたしまして。それでさ、お願いがあるんだけど────」
※優希※
遊ばれているだけなんだ。きっとどこかで誰かが見て笑っているに違いない。
僕の脳裏でそう囁くもう一人の僕。
人を疑い、裏があるのではないかと探り、人の嫌な面ばかり考えてしまう卑屈な部分。
「……」
笹川さんのお願い。それは文化祭最終日の後、後夜祭と称して行われるキャンプファイヤーの間に体育館裏に来て欲しいということだった。
作業を手伝ってもらった手前断るに断りきれなかった僕は、なくなく体育館裏にやってきたのだが、そこには誰もいなかった。
やはり遊ばれていただけだったのだろう。
少しだけ笹川から告白されるというのを想像していたが、普通に考えて僕のような陰キャがクラスのアイドルから告白されるわけがないのだ。
少しでも期待してしまった自分が恥ずかしい。
「帰ろ」
帰って惨めな己を呪い、明日から始まる辱めに耐える心の準備をしよう。
そう思った時、僕の耳に声が届いた。
「よかった……!まだいてくれた……!はぁ……はぁ……呼び出したのに遅くなってごめんね」
「いや別に……」
笹川さんは本気で走ってここまで来たらしい。
そしてそのまま流れるように、
「佐々木くんが好き。私と付き合って」
そこから先は、みんな知っての通りだろう────
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