第20話 元カップルと文化祭①

 ※優希※


 俺に二人目の彼女が出来た高一の夏は過ぎ去り、季節は秋へ、二学期へと突入した。

 椿高校の二学期では、体育祭に文化祭と、学校を代表するイベントが目白押しだ。

 二学期始業式のその日、うちのクラスの学級委員こと俺の彼女こと如月真昼は、教卓にバンと手をついて言った。


「じゃあ、文化祭委員を決めようか!」


 本来四月に決めるはずだった生徒の役職。しかし何故か回り回って今になった。

 オリエンテーション合宿はどうやら学級委員がオリエン委員として活動したらしい。

 文化祭は十一月。クラスの有志を準備し始める頃合としてはちょうどいいだろう。


「委員は三人やってほしいな!誰かやってくれる人ー?」


 昔の俺だったら絶対挙げなかっただろうなぁ……と、しみじみ思いつつ俺は手を挙げた。


「俺やるよ」

「……じゃあ私もやるわ」


 俺が挙げてすぐ、俺の前の席の笹川も手を挙げた。

 こ、こいつ……!

 俺から真昼に事情は話していないので、真昼が俺が笹川に告白されたことを知っているかわからないが、ここで拒否するのはクラスメイトからも疑問の声が上がるだろう…………。

 となると自然に……


「じゃあまず佐々木くんと笹川さんは決定だね!あと一人頼みたいんだけど……」

「あ、じゃあ私やってもいいかな?」

「いいの……?!ありがとう!」


 予想外の人が手を挙げた。恐らく笹川にとっても予想外だろう。

 真昼は他に手を挙げる人がいないのを確認してから「じゃあこの三人に決定ね!」と言う。


「よろしくね!佐々木くん笹川さん津川さん!」


 そう、手を挙げたのは意外にも津川杏奈だった。



 ※萌結※


 放課後、私たちは二ヶ月後に控える文化祭に向けどんな出店をするか話し合うため教室に残っていた。

 津川さんが立候補するのは意外だったけど、中村くんとこういう会議が増えるとなると気まづいのは目に見えていたので、ある意味救われたのかもしれない。


「じゃあ何もするかだけど……何か案ある?」


 私はとりあえず二人に問い掛ける。

 そういえば、さっき佐々木と津川さんは仲睦まじげに話していたけど……。二人の接点といえば四月のカラオケくらいだと思っていたので、実は仲が良かったことには意外だった。

 流石に実は元カノ……なんてことはないと思うけど。


「喫茶店とかかな……。流石に高校生で学習展示とか中途なアトラクションは……」

「そうだな、ここはメイド喫茶にしようか!」

「欲望に忠実だね佐々木くん」


 馬鹿なことを言った佐々木に冷静なトーンでツッコミを入れる津川さん。

 やっぱり仲良いよね?私の知らないところで一体何が起こってたのよ?!


「二人ってあんまり話してるの見たことないけど、仲良いの?」

「どうだろう、悪くはないと思うけど。普段私は放課後はバイトでほとんど遊びに行かないからね」

「確かに遊びに行ったことはないな」


 遊びに行ったことがないくらいなのに、なんで仲良いのか逆に気になるんですけど!

 まさかこんな所に新たな敵が隠れていたとは……。


「佐々木くんには借りがあるけどね」

「気にすんなってあれくらい」


 気になるー!!!

 何その思わせぶりな態度ー!


「ギリッ…………話を戻しましょうか」

「今歯ぎしりしなかった?」

「してない」

「したよな」

「してないって言ってるでしょ。喫茶店という発想はいいかも、でもメイド喫茶って言うのはありきたりだし、女子は嫌がるかもよ?」

「それもそうだな……」


 考え込む三人。

 すると津川さんが言った。


「男女逆転、というのはどう?」

「悪くないわね」

「えっ」


 メイド喫茶はありきたりだけど、男女逆転メイド喫茶というのはあまり見かけない。

 それに佐々木のメイド服……ふふ。


「それじゃ男女逆転メイド喫茶に決定ね!」

「俺の意見は?」

「民主主義よ」

「デスヨネ」


 佐々木は「知ってた……知ってたよ……」とボヤく。


「じゃあこれからよろしくね津川さん」

「杏奈でいいよ、私も萌結って呼ぶから」

「分かった。よろしく杏奈!」


 こうして、私たちの文化祭準備が始まった────



 ※優希※


「どうして立候補しなかったんだ?距離を詰める最高の機会じゃないか」

「それは俺も思ったけどよ……」


 次の日の朝、俺は何気なく昴に疑問をぶつけた。

 文化祭とは、学生たちにとって異性と距離を縮める絶好の機会。所謂文化祭マジックが起きやすい。


 ……おっと、授業中に先生にあてられただけでクラス中の注目を浴びてしまいテンパって大して面白くもない回答をしてしまうような陰キャな君たちには高次元な話だったかな?


 文化祭マジック!

 同じ目的を持って協力して作業するという日々を通して、男女の仲は深まり、やがては恋仲へと発展するという学校行事ならではの恋愛イベントだ。


「俺がいると笹川、気まづいだろ?」

「……」


 少し自嘲するかのような昴の口ぶりに俺は何も言うことができない。


「確かに恋愛は大事だけど、高校生の魅力ってそれだけじゃねぇだろ?」

「……そうだな」

「それに、好きな人には気兼ねなく楽しんで欲しいだろ」

「……そうか」


 俺に掛けられる言葉はあるだろうか……。

 昴の好きな笹川の好意は俺に向いている。そんな俺から掛けられる言葉は、何を取っても慰めにはならない気がする。


「諦めるのか?」

「……諦めたいところだがあいにくこっちが許してくれねぇ」


 と言って、昴は己の左胸をトントンと叩く。


「だからもうちょい頑張ってみるわ。俺流で」

「……おう」


 これ以上この話を広げる必要はないだろう。

 俺が言うのも変だが、昴には報われて欲しい。正直、今の笹川には勿体ないとしか思えないが、きっとこいつらなら上手くいく。


 あ、そうだった…………。



 俺────僕と笹川が付き合い始めたきっかけは文化祭だった。

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