第10話 元カップルは取り戻す
※優希※
五月も中旬。笹川とデートしてから二週間。
最近は俺と笹川もお互いの今の関係に慣れてきて、危ない面や無駄な駆け引きなどはしなくなった。
それはそれでどこか寂しいと思う俺だが、安心な学校生活を送れることに越したことはない。
そう────例えば俺が宿題を忘れた日。
「なあ、宿題見せてくんね?」
「あなたやって来なかったの?全くしょうがないわね……」
ぶつぶつと文句を言いながらも「はいこれ」とノートを見せてくれる笹川。
俺は「さんきゅー」と言いつつノートを受け取り、急いで書き写す。
「先生が来るまでに写し終えてよね。私まで怒られる」
「はいはい、急ぎますよ」
適当に相槌を打つ。
────例えば少し先に控えた文化祭の準備中。
「ねぇ、あれとって」
「あいよ」
俺は言われるがままに養生テープを渡す。
笹川は小さく「ありがと」と呟くといくつかテープを切ってストックを作り俺に戻す。
「ねぇ……」
「新品の養生テープなら教卓のダンボール。ペンキは下駄箱のロッカー。マスキングテープは外装班が使ってるはずだ」
「そう、了解」
────ある日の昼休み。
普段通り、俺、笹川、真昼、昴で談笑をしていると、真昼がふと言った。
「最近の二人って、熟年カップルみたいだね」
…………………………………………………は?
「「え"っ」」
バレた……?
思ってたんだよ、最近ちょっと仲良くしすぎだなって!別にクラスメイトとして仲良くするのは当たり前のことなので目をつぶっていたが…………。
「ど、どうして?」
動揺を隠しきれていない笹川が真昼に問う。
真昼は「どうしてって言われてもなぁ……なんとなく?」と答える。
おいおい!なんとなくってなんだ!!!
やはり仲良くしすぎたのが原因か…………?!
「二人ってもしかして付き合ってる?」
「「付き合ってない!」」
※萌結※
不覚だわ。
最近は佐々木といることが当たり前になっていたせいか、大分気が緩んでいたみたいね。
まさか真昼に悟られるなんて……。
一応否定はしておいたけど大丈夫かしら…………?
「会議よ」
「…………おう」
放課後、私たちはお昼の件により緊急で会議を開くことにした。
議題はもちろん『最近警戒心が無さすぎたのでは問題』について。
会場はファミレス。もちろん椿高校からも、私たちの中学からも遠い場所だ。
「最近、私たちには警戒心が欠けていると思うの」
「それな」
「あげく真昼に勘づかれかけたわ。もっと私たちは互いに気を張らなければいけない気がするの」
「それな」
それなしか言わないのこの男は!
もっと事態の重さを考えなさいよ!そういう所が警戒心が欠けているってとこなのよ!
はーん、さては……。
「あなた、私と恋仲だって誤解されて喜んでるのね?」
「いいや全く。これからの俺の華やかな高校生活がお前によって脅かされてるんだからな。さっきから吐き気が止まらん」
相変わらずの減らず口ね。
でもあなたもそういう認識なら安心ね。
…………私としては少し言いたいことがあるけれど……。
「そこで、よ。当初の緊張感を思い出すの。今みたいななあなあな関係はよくないわ」
「そうだな」
「なら────」
「だが断る」
は?
この男、さっきも言ったが自分が今どんな立ち位置なのかわかってるの?
すると、彼は深くため息をついてから……。
「お前バカだな」
はぁ?!なにそれバカって!何がバカなのよ!言ってみなさいよこのっ!…………スットコドッコイ!
「考えてもみろ、昨日まで仲良かった俺らがいきなり険悪になったらどうなる?」
「そりゃあ何かあったのかなって…………」
「その通りだ。だとしたら、ただでさえ不名誉な噂がたっている今、それを掻き立てる行為は悪手でしかない」
「…………確かに……」
彼の意見は確かに正しいかもしれない。
いきなり私たちの仲が険悪になれば、付き合っていたが喧嘩別れした、と捉えられかねない。それだけはごめんよ。
というか、さり気なく不名誉って言ったわよね、あの男。
「ここは変にことを荒立てず、『それが彼らの普通』と周りに認識されるのを待つべきだ」
「…………うん」
なんだろ……釈然としない。
彼が言っていることは理解できるし、彼の言い分はもっともだ。
でも、言葉に気持ちが入っていない。
オシャレな服を着せたマネキンのような感覚。
「……わかったわ、確かにあなたの言う通りね」
「あぁ」
ズズっと水を喉に流し込む佐々木。
でもどうしたものか。このまま誤解を解かなければ、更なる誤解を生み出さざるおえない気もする。
かといって慌てて訂正するのも余計怪しい。
「はぁ……」
「ため息つくと運気が下がるらしいぞー」
私の悩みも知らない彼は、呑気にいらない情報を伝えてくる。
誤解を解かないのもダメ。解くのもダメ。他に打つ手は思い浮かばない。
八方塞がりとはまさにこのことね……。
「そういえば俺バイト始めたんだよ」
「……え、そうなの?」
唐突に始まった話題。
悩んでいる私を見かねてだろうか?
「まあ短期間だけだけど、夏前まではやる予定なんだ。だから今度来てくれよ」
「う、うん」
まさかあの陰キャオタクだった佐々木がバイトだなんて……。
中学の彼からは考えられないことに、私は更なる驚きを覚える。
見てくれも、仕草も、話し方も、全部が今や一流陽キャ男子と言っていいほど。
それは全て、彼の努力の結晶。
「…………頑張ったのね」
「……なんか言ったか?」
………っっっ///
「なんでもないわ」
「あ、そ」
危ない危ない。心の声が零れてしまった。
あいつが鈍感系で助かったわ……。
※優希※
バッチリ聞こえてしまいました。
とはいえ、俺は陽キャ。相手の気持ちを汲み取り、今のを聞いてなかったことにするのが吉と判断。
「なんか言ったか?」
「……なんでもないわ」
ふぅ、これにて一件落着。
心の声が漏れて相手に聞こえてしまうとか、ラブコメの中だけの話だと思ってたぜ……!
すると、正面に座っていた笹川が立ち上がる。
「まぁいいわ、とりあえず今日はお開きということで」
「そうするか、じゃあな」
「お支払いよろしく」
そう言って笹川は店を出ていく。
俺も、特に店内に用事があるわけでもないので少し遅れて店を出る。
辺りを見渡すと、とっくに笹川は駅へ向かって歩いていた。
こいつには人を待つという精神がないのだろうか……?
すると、ふと俺の視界に怪しげな格好をした人が入ってきた。
フードを深く被り、長袖長ズボン。背格好からすると男性だろう。
夜の六時とはいえ、夏前だからまだ明るいしそれなりに暑い。
なのにそんな格好をするなんて……なかなか変わった趣味の持ち主なのかもな。
すると男は怪しげな行動を開始する。
電柱などの物陰に隠れたり、少し走ったり止まったり。
これは…………。
「……ストーカー」
ラブコメによくあるやつだ。
ストーカー被害にあったヒロインを主人公が守り、そこから恋愛に発展する。
もはやテンプレと言っていいほど珍しくない話、
ただ、これも現実で起こるとは……。
駅までの一本道。老婆や遊び帰りの小学生はいるが、男はピクリとも反応しない。
となると…………笹川しかいない。
まぁ恐らく自分で蒔いた種だろう。それくらいの処理は自分でやって欲しい。なにより、今更笹川と恋愛に発展するなんて御免だ。
「…………っ!」
次の瞬間、男は右手に光る物────ハサミを取り出す!
そして笹川に向かって駆けていき…………。
グサッ
────────。
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