九、

 枕元には写真がある。セーター姿で嬉しそうに赤ん坊の辰起を抱くマユミちゃん、不自然に体を反らした辰起、そしてその隣には、一体どこから持ってきたのかピンクの花がついた笠を被り、椅子につかまり立ちをして得意げな表情を浮かべたおれ。辰起はおれと花笠に気を取られて、体を伸ばしているのだ。

 花笠は、ばあちゃんが町内会の人からもらった旅行のお土産かも知れない。ばあちゃんは近所付き合いのいい人だったから。おれは子供を育てた経験がないから、写真のおれたちが生後何ヶ月ぐらいなのかはわからない。マユミちゃんが着ている薄手のセーターからして、秋かなとは思う。だがともかく母親によるとおれは、這うのも立つのも歩き出すのも、辰起よりずっと早かったそうだ。

 マユミちゃんが亡くなって家の整理をしていたら出てきたこの写真を、おれはどうしようか少し悩んだ。辰起にも見せたかったが、三人一緒のこの場面を、あいつはおれほど喜ばないだろうと思った。そこで、写真屋でデジタル処理をしてもらい、一部だけ切り取った。昔の写真なので画像は粗いが、最新の素晴らしい技術のお陰で、あたかもその場に二人だけがいたかのような写真が出来上がった。そして辰起に渡したら、案の定困惑したような顔をされた。「時々マユミちゃんのことは思い出してくれよ」と言ったら、返事はなかった。

 そして今、枕元のスマホには、見たくもない情報が次から次へと入ってくる――「軽症」と診断されても、油断は禁物であるらしい。ということは、考えたくもないが、ここでおれに万一に万一のことがあったら、写真に三人揃って写っていたことは、誰からも永遠に忘れ去られてしまうのだろうか?

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