3.-竜の宮廷-

Tokyo gamer's night(1)

「その前にマイハウスのシステムについて一寸説明するわ、マイハウスには段階というかレベルみたいのがあるんだけど……」


「詰まりこのマイハウスの様に手入れされレベルが上昇しているという事か?」


「その通りよ、それがある一定以上になると配置そのものを変えることができるの、例えばわたしのマイハウスはjane_doe同様最初はランダム配置だったのよ、それがこの場所に移動させたというわけ」


「それがソヒツギさnのsanityとなんお関連が?」


「あいつのマイハウスって城の地下なのよね、マジ正気疑う」


――城の地下? 何故アオヒツギはそんなところにマイハウスを移動させたのだろうか?


「成程ねー、城の地下はIDでもわからない限り直接行くルートがない、アオヒツギには人には見せたくない何かをマイハウスに隠蔽してるってことよ?」


 本当に? 本当にそれだけだろうか、あの狡猾なアオヒツギのことだ。他に目的があるのではないだろうか……


「今、行ったら鉢合わせかしら?」


「その可能性も否定できないでう、組んん氏危うきにちかよらず」


 君子――そうだ、孔丘が夢見た理想の君子が周公旦。あの女、女教皇は私に彼を夢枕に立たせると言ったのだ、まるで荒肝を拉ぐ(ひしぐ)かのように?

 私の、私の周公は誰だ?


「どしたのjane_doe、3D酔いでもした?」


「いや、酒を飲みながら、プレイしていたら少しぼんやりしていたようだ。悪い」


 その発言が暖かいうちに、私は冷蔵庫から急いで先ほどコンビニで購入したチューハイを取り出すと、プルタブを開けて安酒を呷った。

 それはゲーム内のエール同様飲んでも酔えないエチルアルコールでしかなかった。飲むなら――日本酒の良いものが欲しい。


「飲酒はほどほどにね、まあ今あいつと遭うのはよろしくないわね」


「青櫃後さんとあわないところってどこなんでうs?」


「今までのアオヒツギの立ち寄り場所を総合すると……街の外の砂漠、下町の酒場なんかはレベル上げに使ってるようね? 逆に行きそうもないのは――」


「聖堂騎士団……」


 私はぽつりと呟いた。そうなのだ、あいつの足跡を聖堂騎士団で見たことがないのだ。


「言われてみればそうね……今晩は折角三人居るし、チーズたらのレベル上げも兼ねてどこかで稼ごうと思ってたけど、案外あそこは良いかもしれない?」


「わすれてないでうsか? 以前せんnっゆうしたときわたしたち僧兵をころしてるんうd」


「そうでした……ってアーシュベック卿にいきなり取り次いでもらうことは出来るんじゃないの?」


「私は、二度も命を助けられた彼は友好的なNPCなのか?」


 一度はjohn_doeから二度はジラルディンから。しかし彼は本当に――


「NPCは所詮プログラム通りにしか動いてない木偶よ、友好的かどうかはこちらのアライメント次第。らしいわ」


「何だ、私のアライメントが彼にそう判断させていただけなのか」


「そうじゃないって噂もあるけどね、あくまで推量の域を出ない事よ」


 結局、あやのの提案した通り私たちは聖堂騎士団へと向かうこととした。

 今日も『がらくたの都』は雨模様であった、気候変動だろうか? 原作に依ればここは元来乾燥した風土のはずなのに。

 あやののマイハウスから、都の中心街の聖堂騎士団本拠地はほど近かった。

 すれ違うNPCも上級市民や貴族然とした品の良い手合いで、これを殺したら間違いなくアライメントは低下していくだろう。下町に居た連中とは訳が違う。


 そうして一行は初めて聖堂騎士団の本拠である大聖堂の正面入り口下と辿り着いた。尤もあやのは初めてではないかもしれないが。


「たのもー!」


「まるちゃん、わかりやすいわね……」


「本当に取り次いで呉れるのか?」


 門番に僧兵LV8と表示された男が二人立っている。彼らは口々にこう言った。


「なにやつ」


「ここを聖堂騎士団の聖なる地と知っての狼藉か」


 三人は顔を見合わせた。


「やっぱ駄目じゃない?」


「きいてみrましょう?」


 私がするのか……


「僧兵諸君、お勤めご苦労。それがし、jane_doeと申す冒険者のはしくれ虎を追う者。先だって御恩のあるアーシュベック卿に取り次いで頂きたく参りました」


「じぇーんさんすごいでうs、どうしてそまに上手く喋れるんですか?」


 わたしはまるこめXを無視して話を進めることにした。


「何? アーシュベック様に……?」


 僧兵たちは何やら思案している様子であったが――その間にも内部ではアライメントの上下による計算が、行われているに相違ないであろう。


「アーシュベック様に会ってなんとする? 今は礼拝堂にて祈りを捧げている最中。特別な客人であってもここは通すわけにはいかぬ」


「困ったなあ。システム側に弾かれた形だわ、これは」


「そうなのか、あやの」


 僧兵たちに拒まれ、アーシュベックも今はシステム的に会えない状態だというとここは駄目なのか……


「あれっつ、なんっかA見たことのある人がいるんですけど。。。。」


 往来の向こうに黒衣の少年が立っていた、それも身分の高そうな。

 右に佩刀している、あれは……


「何か困りごとでもあるのか?」


 この冬は終わらない。

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