1.Cast a cold eye On life, on death.Horseman, pass by!

承前-凍てつく荒野のカダス-

count off

「それで、この奥に?」


 一行は都の地下に広がる茫漠とした地下空間をもう3時間ほど彷徨っていた。


「今日中にこのクエスト終わるかね~」


「終わるだろ、そんな複雑な依頼でもない、終わるだろ?」


 男は振り返った。

 茶色の髪に暗い緑色の眸、涼やかな顔立ちは絵のようだし、山吹色のマントと背中に背負った巨大な太刀が印象的だ。


「分からない、ただ気を引き締めていった方が良いだろうな」


 パーティーメンバーは三人。あとの二人は別に彼の友人でも何でもない、ゲーム内での行きずりだった。

 男の他は女性アバターを使用している――それもお色気たっぷりの。


「失われた時代……ねえ、この小説の設定っていまいちわかんねえな」


「いいんじゃね? 設定楽しむタイプのゲームじゃないっしょ」


 残りの二人はさっきからお喋りに興じているが何が楽しいのだろう、目的を失念しているのではないのであろうか? そんなのはまっぴら御免だ。


 歩いていると失われた時代の遺構、まるで荘厳な宮殿じみた体裁を取り始めた。


「お、隠しダンジョンに到達したかな?」


「……注意した方が良いぞ、急に周囲の雰囲気が変わった。何かあるというのが」

 男は尤もなことを指摘したが、残りの二人は気に留める様子はなく奥へと進もうとする。


「いやいや、考えすぎっしょ、さっさと剥ぎ取りタイムしてえし、どんなレアアイテム落とすかな~楽しみこ」


 もう一人のお色気メンバーはそう言い放った。


「ええと探知スキル、おい何かいるわ、ちょっと行って先見てくる」


「本当に一人で大丈夫か?」 

 男は忠告した。何か見てはいけない物の気配がする――


「んじゃ、待ってる間にもうひと稼ぎしようや?」


 いい加減時が過ぎたが、待てど暮らせどたった一人の先遣隊は戻ってこなかった。


「遅いな、あいつ」


「見に、行くか? いくらなんでも遅すぎるな、やはり一人で行かせるべきではなかった」


「あいつ何やってんだろうな」


 壁面の宮殿のような装飾は次第に、骸骨寺院のようなおそろしい美しさを増し (ゲーム内にも拘らず)怖気の立つような、壮麗さを見せつけていた。

 しばし歩くと「それ」が嫌でも煤けた臙脂の絨毯の上に目に入った。


 二人は息を飲む。

 口から臓腑を引きずり出されてこと切れている、先に行くといった男 (アバターは女だが)の無惨な亡骸とそれに集る名状し難い生き物。


 それには翼があり、鳥のカリカチュアと言えなくもなかった。

 だがそれはどう考えても悪夢の想像を超えた産物でしかなく、言うなれば腐った、ハゲタカのような、かぎ爪のある、カラスでもなく、昆虫のような、薄い毛の生えた、何らかの乗用動物であろう何かであった。


「ぎゃああああああ……ッ」


 メンバーの女性アバターは悲鳴を上げて逃げ出そうとしたが、それは逆効果でその生き物に気づかれる結果になった。

 生き物は物凄い速度で彼女の内臓を啜り上げるように吸血を始めた。


 それを横目に見ながら男は必死に奥へと走り始めた。

 こいつらは虚仮だ。恐らく首魁は先にいる、それを仕留めれば――そう思いながら彼はかりそめの仲間を犠牲にして駆け出した。


 増々周囲の風景は悍ましく、美しく、恐怖に溢れ――どれだけ走ったことか、 

 遂に玉座に辿り着くとそこに居たのは長身で、黄色っぽい襤褸を纏った青白い仮面の人物であった。


「誰だ!? お前は!」



 それ以来彼の、男の姿を見た者はなかった。


 終わらない冬の始まりを……

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