第82話 天丼屋


 恐る恐る店に入る。

 店の外観は微妙に和風感ある木目調?だったが、、、


 、、店内は普通ですね?和風的な意味で。いや、俺にとっての普通か。

 角ばった木製のテーブルと椅子が並び、地味で落ち着いた雰囲気だ。ちょっと時代劇風?

 あ、塗り箸の入った橋立もある!

  

「いらっしゃいませー!お席にどうぞー!」

 店員の威勢のいい声が響く。

 ノーラは慣れた感じで席につく、俺もそれに倣った。


「もう少し後になると混むから、この時間に来て正解ね」

「なるほどな」

 俺は店内を見回す。すでに結構客が居るな。

 晩飯には微妙に早いが、正解か。


 テーブルに備え付けのメニューを見る。

 えーと?、、並、大盛、小盛?って、それだけかい!

 特に天ぷらの内容は選べない様だ。


 とりあえず、並を頼んだ。

 ノーラも並を頼んでいるな?てっきり大盛を頼むかと思ったが。


 しばらくして、天丼が来た。

 、、なんか、デカくね?

 見た目は丼物の器だ。蓋も付いてる。でも、ラーメンどんぶり並みにデカい。

 大丈夫か?これ。

 ちょっと心配になったが、思い切って蓋を取る。

 普通に天丼だ!それに米の飯だ!


 箸立てから箸を取り、早速、食べてみる。

 白身魚と野菜の天ぷらだな。ちょっと塩辛いし、妙にサクサクしてるが確かに天ぷらだ。

 甘辛の醬油味だ。そう、醤油だよ!

 米の飯も微妙に食感が違うが、許容範囲内だ。

 全く、この世界ときたら!ピンポイントで似せて来るからな!、、はは。


「どう?テンドンのお味の方は?」

 米の飯に感動している俺に、ノーラが声を掛けてきた。

「ああ、確かに天丼だよ。ありがとう」

「そう。良かった」

 ノーラはニコニコしている。


 なんとなく気恥ずかしくなって、天丼を掻き込む。


 が、段々ペースが落ちて来た。

 、、御飯がなかなか減らないんじゃい!ラーメンどんぶりサイズだからな!


 一息ついて目を上げると、ノーラの方に空のどんぶりがある?

 いつの間にか二杯目に突入しているらしい。


 俺が思わず目を泳がせると、ノーラの向こうの方のテーブルで天丼を掻き込む男と目が合った。

 黒目黒髪、ちょんまげ頭、和服っぽい服。どう見てもヤマト国人。腰には刀。

 侍、いや、サムライですね?また、似たものを見てしまった。


 なんとなく、俺が目礼すると、向こうも目礼を返した。

 、、あいつも何杯も食べてるな。

 まあ、俺は一杯で十分ですよ。


「どうしたの?」

 俺の目線に気付いたノーラに聞かれた。

「いや、なんでもない」

「そう?」

「それより、内陸の王都で魚介類の天ぷらが食べられるのが不思議だよ。収納魔法か何かで運んでるのか?」

 その割には、手ごろな値段に感じる。

「南の港町のヤーデンから川伝いに船で運んでるのよ。冷蔵船便は安くて大量に運べるもの」

「へー、冷蔵船なんてあるのか」

 、、ん?ヤーデン?そうだ。それがあったな。


「えーと、ヤーデンで思い出したんだけど、ちょっと相談したい事があるんだが」

「何かしら?」


 俺は貴族街のヤーデン伯の屋敷に招かれていることをノーラに話した。

 Aランク冒険者なら貴族への対応も知っているかもしれんからな。


 一通り話を聞いたノーラは大きく頷く。

「よーし、私に任せなさいよ。付き添いで一緒に行ってあげるわ」

「お、おう?そこまでしてくれなくても、アドバイスだけでいいんだけど」

「ダメよ。お上りさんの有望な冒険者が丸め込まれて、貴族に取り込まれるのはギルドの方でも困るわ」

「えー」

 そう言うのもあるのか。おっかねえな。


「冒険者を辞めて貴族の家臣になりたいなら、まあ、しょうがないかもしれないけど」

「それは遠慮したい」

 元の世界に帰る方法を探すには、自由に動けた方がいいからな。


「ヤーデン伯は寛大な方みたいだけど、念のためAランクの職員が居た方がいいでしょ?」

「確かに。じゃあ、付き添いをお願いしようかな」

「任せなさいよ!」

 ノーラは張り切っているご様子。


「ところで、あなた、ちゃんとした服は持っているの?」

「ちゃんとした服?」

「貴族街に行くならそれなりの身なりじゃないとね」

「うーん。高級な服は持ってないな」

 ミドウッドで買ったワイシャツっぽいのと普通のズボンしかない。

 みすぼらしくはないが、田舎町の一般人といった感じだからな。


「じゃあ、まずは服ね。幸い時間はあるから、明日にでも買いに行きましょう」

「う?高い服?」

「もちろんよ。早速、中心街に縁が出来たじゃない。お金が無いならギルドで肩代わりするわ」

「そんな事もしてくれるのか」

「冒険者と貴族の間のトラブルを予防するのもギルドの仕事よ。私が付き添うのもその一環ね」

「そ、そうなのか」

「後輩の面倒を見るのは先輩の仕事ってわけ」

 ノーラはふんぞり返って、ドヤ顔だ。

「よし、服が仕上がったら、ヤーデン伯の御屋敷を訪問するわよ!」

「う、うん、よろしくお願いします」

 え、えらい気合いだ。大丈夫かな。



 そんな事を話しているうちに食事も終わった。

 結局、ノーラはいつの間にか天丼三杯を平らげていた。

 普通に箸を使いこなし手、上品な感じでたべていたんだが、、

 それに、、どこにしまい込んだのか体型が全く変わってない。謎だ。


 支払いを済ませて、店から出る。

「ご馳走さま。ノーラ」

「うん。でも、遠慮しないで、もっと食べてもよかったのよ?」

「いや、そんなに食べられないって、俺は」

 どんぶりがでかいんじゃい。


「えー。本当にオーマは小食ねえ」

 ノーラが大食いなだけだろうとも思ったが、まあ、言わないけどな。

 ともあれ、日本食があるのはありがたい。また来よう。白飯や醤油単体で売ってもらえないかな?(重要)



「もし。貴殿、ヤマト国人とお見受けするが」

 うん?なにやら声を掛けられた?

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