第50話 サムエルさん、危機一髪?
ここ数日、町の西側の森で活動しているが、中々順調だ。
アナグマの魔獣とか、狼の魔獣の「ボーンウルフ」なんかを狩って結構稼げた。
薬草採集の方もそこそこ稼げているが、レアキノコは採れてない。まあ、レアだからなあ。
今日は、この辺で狩猟をしている連中がいる。
邪魔をしない様に近付かずに、薬草採集だけをしている。
まあまあ薬草も採れたし、ちょっと早いかもしれないけど帰るか。
冒険者の使う小道に沿って町に戻る途中、道の脇の開けた所に荷車があるのに気が付いた。近くに人も居る。
あれ?サムエルさんだな?町の中で仕事してるって言ってた様な気がするが?
「こんにちは、サムエルさん」
「よう、オーマか。お前も狩猟か?」
「いや、今日は薬草採集だよ。サムエルさんこそこんな所で何やってるの?」
「見ての通り、荷車の番だ。たまに狩猟の獲物の運搬の手伝いもやってるんでな」
「こんな所で一人で居て、魔獣とかが来たら危ないんじゃないの?」
「なーに、この辺はまだ町に近いし、小道から離れなければそれほど危険じゃない。
それに、弱い魔獣程度なら、俺でも追い払う事くらいは出来るからな」
サムエルさんはそう言って、腰に着けた大きな木の棍棒を手で叩いた。
そう言えば、革の胸当ても着けているな。一応、大丈夫なのかな?
「お前の方は今帰りか?」
「ああ、この辺で採れそうな薬草は概ね採集したからね」
サムエルさんは少し考えてから返して来た・
「薬草だけでやっていけるのか?」
「大丈夫だ。獲物が居れば狩猟もするし。今日は他の連中も居るから薬草採集だけにしたけど」
「そうか。お前はCランクだものな。余計な心配だったな」
「はは、まあ、程々にやってるよ」
「うむ、それは何よりだ」
サムエルさんはうんうんと頷いている。微妙に心配されてしまったかな。
、、あれ?なんか森の奥の方で木に何かがぶつかる様な重い音がする。
木も揺れている様だ。
「ん?なんか騒がしくないか?」
サムエルさんが言う。
俺は探査魔法を発動した。
人間らしいのが五人ほど、こちらに走って来る様だ。
その後ろから、魔獣らしいのが一体、前の集団を追っている?らしい。
魔獣?の反応の強さはまあまあだ。シルエット的にはスパイクボアっぽいな?
「サムエルさん、魔獣が来た!門まで逃げてくれ」
「え?わ、わかった!」
すぐに、サムエルさんは門に向かって走り出した。
俺の方は、防御魔法を発動してから、攻撃の準備をする。
近頃狩っている魔獣よりは強い反応だが、脅威を感じるほどでもない。
攻撃は、定番のマジックミサイルでいいな。
「おいっ!オーマ!何してんだ。お前も早く逃げろ!」
サムエルさんの叫び声が聞こえた。結構近いよ?
慌てて振り向くと、思った以上に近くに居た。
「ちょ!早く逃げて!」
「いや、しかし、、」
「俺がここで食い止めるから!いや、仕留めるから大丈夫!」
なんかフラグっぽい言い方になったので、言い直しておいた。(重要)
「おいっ!魔獣がこっちに来る!早く逃げろ!」
こちらに走って来ていた冒険者が俺たちに気付いて叫んだ。
「いや、仕留めるよ?いいよね?」
「お前は何を言っているんだ!逃げろ!門番に任せるしかねえ!」
その後ろで、魔獣が姿が見える距離まで来た。
うん。スパイクボアだね。中々の大物だ。
「ちっ!警告はしたからな!後は勝手にしろ!サム!お前も早く!」
冒険者たちは走って行ってしまった。
「オーマ!お前も早く!」
サムエルさん逃げてなかったの!?
さっきよりは遠いけど、まだ逃げてなかった様で、心配顔でこっちを見ていた。
仕方ない。魔獣を一撃で倒せば済む事だ。
まだ少し距離があるが問題は無い。
俺はマジックミサイルの魔法を発動した。
念のため、大き目で出しといた。成仏せえよ。
マジックミサイルは突進してくるスパイクボアに向かって一直線に飛んで行く。
だが、距離があるせいで、突進の向きをずらされてしまった。
「オーマ!」
後ろでサムエルさんの悲鳴じみた声が上がった。
「大丈夫だって!」
俺のマジックミサイルは誘導機能付きだ。躱そうとしても無駄だ。
マジックミサイルは、すいと軌道を変え、スパイクボアの頭に吸い込まれるように突き刺さった。
スパイクボアは、ガクンと前のめりに地面に突っ込み、しばらくスライドして止まった。
そのまま、ピクリとも動かない。
やったか?
いや、いかん。また、フラグっぽい事を。
とりあえず、近づかずに探査魔法で確認する。
よし、反応が消えてる。死亡確認。
近くには、他に魔獣は居ない様だ。
獲物を確認するか。
うわ、牙で地面が耕されたみたいになってるな。
「お、おい!仕留めたのか?」
サムエルさんもこちらに来た。
「ああ。大丈夫だって言ったでしょ」
「しかも、なんか余裕だったみたいだな。一発とは」
流石に驚いているご様子。
「まあ、結構慣れたからね」
「中々大したもんだぜ。腕前も獲物もな。しかし、こいつを運ぶのは骨だぞ。もっと大きな荷車と人手が要るな」
「いや、俺は収納魔法使えるから、自分でギルドに持って行くよ」
「おいおい、収納魔法にこんなでかいもんが、、って、入ったーー!?」
うん。異世界にももノリ突っ込みってあるんだなあ。
「全く、たまげた奴だな、お前は。容量の大きい奴でも向こうにある荷車に乗る量程度だってのによ」
「えーと、容量はちょっと多い方かな?」
アカン、なんか普通の容量じゃないらしい。色々聞かれるかも。ヤバイ。
召喚者とか、いろいろあるからな。
俺が焦っていると、町の方から、さっきの冒険者達と衛兵十人程が走ってきた。
「おいっ!オーマ!無事だったか!」
衛兵のザックさんもいるね。
「ああ、二人とも全くの無傷だよ」
「サム、お前こっちに居たのかよ。逃げてこないから、二人ともやられたのかと思ったぜ」
ザックさんが安心したように言った。
「スパイクボアはどうした?追い払ったのか?」
さっきの冒険者の一人が尋ねてきた。
「仕留めたよ。俺が貰っていいんだろ?」
「お前が?仕留めたのか?死体がないぞ?」
冒険者はあからさまに疑っている様子だ。
そこでサムエルさんが割って入った。
「オーマが仕留めたってのは本当だ。魔法一発でな!」
「あれを一発でか?大体、死体は何処に有るんだよ!」
なんか怒り出した。嘘言ってるわけじゃないんやで?
「オーマ。さっきの奴、ここに出したれや」
「はいよ」
冒険者と衛兵達は驚きで固まっている。
しばらくして、ザックさんが、俺が出したスパイクボアの見分を始めた。
「なるほど一発だった様だな。頭蓋骨がぶちぬかれている。確かに急所ではあるがな。
スパイクボアの頭蓋骨は頑丈なことで有名でな。大物なら尚更だ。
なんの魔法を使ったんだ?」
「マジックミサイルだけど、、?」
「マジックミサイルねえ。痕跡は合ってるが、、威力がな。
まあ、この大物が収納魔法に入るって時点でアレか」
ザックさんの目付きが鋭くなった。
やべーよ。怪しまれてる。
さっきサムエルさんにも怪しまれたばかりだったのに何やってるんだ、俺は。
しばらく俺を探る様な目で見ていたが、ふっと表情を和らげた。
「まあ、いいさ。おかげで大事にならなくて済んだ。助かったぜ、オーマ。
こんな大物が町の近くに居たら事だからな。
仕留めるか、完全に居なくなったか確認するまで、森の捜索任務になるところだった」
「はは、どういたしまして」
と、とりあえず、許された?焦った。
今度はさっき怒り出した冒険者が気まずそうに話しかけてきた。
「、、疑って悪かったな。それと迷惑をかけて済まなかった」。
「いいって。冒険者は助け合いが必要って言われてるしな」
「そ、そうか。ありがとう。お前には借りが出来たな。
俺は、このパーティのリーダーのマイヤーだ。なにか力になれる事があったら言ってくれよ」
「オーマだ。俺も冒険者だよ。よろしく。何かあったらたのむかもな」
俺はそう返しておいた。
とりあえず、一件落着かな。
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