第28話 銭湯?




 風呂屋の場所はすぐに分かった。大きい建物だし。

 下着や洗面用具の店もあったので早速入ってみた。

 幸い下着やタオルの布質はそこまで悪くない様だ。

 フワフワとまではいかないけどな。

 石鹸の方はマーサさんの忠告通りにちょっと良い奴を買う。

 驚いたことに、歯を磨く道具もあった。

 木製だが形なんかはそのまんま歯ブラシだ。

 ちなみに歯磨き粉はペースト状で瓶入りだ。


 とりあえず、一通り買い込んだ。レジが無いので不思議な感じがしたが、店員が計算した金額を払っておいた。

 値段はあまり高いとは感じないな?

 中世とかはこういう物は高かった気がするんだが、やはりこの世界は近代寄りなんだろうか。

 それにしても、古臭いデザインな事以外は、元の世界の物とほぼ同じ形の物ばかりだ。

 必要な機能が同じなら、同じ形になるって事なのかね?分からん。

 そんな事を考えながら買い物を終えた俺は風呂屋の方に入った。


 入り口から入ると内はホテルのロビーの様な造りだ。

 結構騒がしい。壁際に置かれたベンチに座っておしゃべりしたり、飲み物を飲んだりしている人が沢山いる。

 奥にカウンターがあり、その左右に入り口が分かれている。男女別に分かれている様だ。

 俺はカウンターで金を払い、男湯への通路を通って、ロッカールームの様な脱衣場に行く。

 収納魔法があるのでロッカーは借りなかった。

 おーし、準備良し!さて、風呂だが、、、

 うん、何か普通、、

 何と言うか、洋風のホテルの大浴場って感じだ。


 洗い場で体を洗っている人や、浅い湯船に寝転がって浸っている人達がいる。

 壁に注意書きの看板があるな。

 体を洗ってから湯船に入ることとか、洗濯禁止とか書いてある。

 その辺も同じなんだな。異世界感が薄れたぜ。

 俺は普通に体を洗い、普通に湯船に浸かる。

 ちょっと石鹸の泡立ちが悪かったかな?後は普通だ。

 風呂から上がって、ロッカールームで着替え、のんびりとロビーに戻る。

 さーて、何か飲もうかな?

 ふと、ロビーの窓から外を見ると、結構日が陰ってきている。いい時間になっている様だ。

 、、そこで気付いたのだが、、ロビーの中が明るい。

 上を見ると、地味なシャンデリアの様な物がぶら下がっていた。

 黄色く光る球が電球の様に幾つも取り付けられている。

 まあ、電球じゃないだろう。魔道具って奴かな。やっぱり異世界だったわ。

 俺は売り場でコップ入りのフルーツジュースを買ってみた。いい感じに冷えている。何か冷やす道具があるって事だ。

 やっぱり、必要な物が同じなら、同じような物が発明されるって事なんだろう。

 ジュースを飲み終わり、コップを返し、風呂屋から出る。


 通りは街燈で照らされていて結構明るい。この辺は繁華街ぽいから特に明るいのかもしれない。

 騒がしいというほどでもないが、活気のある場所だ。店のガラス窓からの光もいい感じだし。


 本屋らしい店を見つけた。ガラスのショーウインドウ、平積みの本、店内には本棚が並んでいる。元の世界の昔の本屋っぽい?雰囲気だ。

 そういえば、地図が要るんだった。ここで手に入るかな?


 本屋に入ってみた。

 入り口の周辺は小説本が置いてある様だ。娯楽本が普通に売られるほど出版物が豊富らしい。

 地図があるか店の人に聞くと、いくつか出してくれた。手頃な大きさの物を買う。紙がいいからか、ちょっと高い印象だ。

 小説の方にもちょっと興味はあったが、また今度にしよう。


 俺は本屋を出ると、ぶらぶらと歩き宿に向かう。どんな晩飯が出るんだろうな?



 *****



 ザックはオーマと別れた後、宿から幾らか離れた酒場に来た。

 店内のテーブルについていた同僚のランドが、軽く手を上げる。


「おう、ザック。やっと来たか。残業お疲れ。明日は雨かな」

「おい。俺は何時も仕事熱心だろ。明日も晴れだぜ」

 軽口を言いつつ、ザックも席に着いた。


「ふん。あの小僧は詰め所に来たのか?」

「ああ。ついでにギルドで紹介された宿に送っておいた」

「やけにサービスがいいじゃないか。、、お前が気に掛けるってことは奴に何かあるのか?

お前の能力に反応があったのか?」

「いや、無いな。奴から悪意は感知出来なかった」

「じゃあなんだ?」

「わからん。だが、奇妙な奴ではある」

「なんだそりゃ。お前にしては歯切れの悪い言い方だな」

 ランドはぶっきらぼうにそう言って、腕を組んだ。


「そうだな。

服装は田舎の村人風だ。だが、話してみると田舎者の雰囲気じゃない。

魔法が使えるようだが、町でやたらと攻撃魔法を使う事は禁止だって事を知らなかったようだ。

旅人にしては、旅慣れている様子がない。たとえ、収納魔法が使えるとしても、すぐ使う様な物は身に着けているもんだ」

「家を飛び出した貴族か金持ちのボンボンかもしれんぞ」

「話した感じでは、そういう高慢さは無かった。まあ、庶民だな。

そもそも、ボンボンが護衛無し高級装備無しで、町の外で旅をするのは無理じゃないか?魔法があってもな」


「ふーむ。最低限以下の装備で一人旅となると、、、逃亡者か?」

「だが、そうにも見えない。逃亡者にしては、緩んでるからな」

「じゃあ、なんだ?一般人に成りすました隣国の手練れの間者か?」

 ランドは少しからかいを含んだ感じでそう言った。


「緩んでるのが演技でも、俺の「感知」はごまかせない筈だ。少なくとも悪意は持っていない。

そもそも、間者ならあんなチグハグな格好は無いし、目立つ事もしない。

不良冒険者共とやり合うノーラを手助けする様な事はな」


「そうだな。間者でも逃亡者でもなさそうだが、カタギでもなさそうな奴、、か。

で、どうする?領主館に報告するのか?」

「いや、しばらく様子を見る。とりあえず冒険者ギルドに投げておいたしな。

ギルドマスターは切れ者だ。おかしな動きをすれば、何か気付くだろ。

こっちもそれとなく見ておくしな」

「はっ、ご苦労なこった」

「言っただろ。俺は仕事熱心なんだよ」

「はー、いろいろ考えてるんだな。、、考え過ぎじゃないか?只の世間知らずの間抜けかもしれんぞ?」

「さあな。だが、冒険者ランクはCランクスタートだったぜ?」

「とてもそうは見えんな。ライアンの奴、目が曇ったか?」

「ライアンがCランクスタートの許可を出すとは珍事件だからな」

「、、俺も目を光らせておいた方がいいかもな。そういや、小僧の名前は?」

「オーマと名乗ってたな」

「わかった。覚えておこう」

「ああ。じゃ、この話は終わりだ。飲もうぜ」

「待ちかねたぞ」


 二人は酒を飲み始めた。



 *****

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