第2話 強行突破



 送還魔法はうまくいった様だ。

 さっきまで居たクラスメイト達は一人も居ない。

 まあ、元の場所に帰れたかの確認は出来ないが、今は自分の感覚を信じるしかない。


 俺はここに取り残されてるからなっ!


 俺は恐る恐る宰相の方を見た。

 うん、ヤバイね。能面のような無表情で、こっちを睨んでるね。


 俺は国王を見た。

 こっちは顔を真っ赤にして、鬼のような形相で怒っておられますね?


 そして俺は周りを見た。

 剣を抜いた騎士共が取り囲んでいる。魔法使い風のも身構えているな。完全包囲だ。


 アカン。詰んでる?いや、まだだ!もう一度送還魔法を!


「その者を殺せっ!」

「いえ!陛下!此の者は使えます。捕縛して隷属魔法を!」

「では、捕らえよ!!多少の怪我は構わぬ!!かかれ!!」


 国王の命令で騎士共が動き出す。俺を囲む輪がじりじりと狭められる。

 これでは送還魔法どころではない。なんとかして、ここから逃げ出さないと!


 とか、思っていたら、騎士の後ろから、放物線を描いて火の玉が飛んできた。

 ヤバイ!かわしようがない!

 俺はとっさに頭の前に腕を掲げて、防御する。

 目の前に火の玉が迫る!


 だが、火の玉は俺の体に当たる手前で弾け飛んだ。

 ははっ!さすがチートだ、なんともないぜ!


「馬鹿な!全く効いてないぞ!」

 魔法使い風の奴が喚いたが、騎士共はひるむ様子もなく距離を詰めてきた。

 同士討ちを恐れてか、斬りかかっては来ないが、これは不味い。

 このままでは、押さえ込まれてしまう。


 そうだ!俺もさっきの火の玉を出せないだろうか?魔法スキルがあるんだし。

 俺は素早く火の玉のイメージを固めて、即座に発動させる。

 それを目の前の床にぶつける。流石に直に当てる勇気は無いからな!


 強い爆風が発生して周りの騎士共が弾き飛ばされ、うめき声をあげる。

「ぐっ!なんて威力だ!畜生!」

「化け物め!」

{ひるむな!囲め!」

 騎士共が怒鳴り声を上げた。


 防御姿勢をとった俺には、ダメージは無い。魔法的な防御が発動してるのかもしれないな。

 とにかく、この隙に逃げないと!

 俺は、この部屋の壁にあるガラス張りの大窓を見た。あまり頑丈には見えない。

 さっき見たステータスのスキル欄に、飛行魔法があった。使い方もなんとなく分かる。

 飛行魔法で包囲を飛び越え、窓に体当たりして突破出来るかもしれない。


 俺は、空中に飛び上がり、大窓に向かって飛んで行く。

「と、飛んだぞ!?逃がすな!!」

「魔法使い!魔法で撃ち落とせ!」


 何故か、窓に近づいた所で磁石の同極を近づけた時の様な反発力を感じたが、構わず突っ込む。

 俺の体が大窓に当たった瞬間、全身にものすごい衝撃を受けた。

 意識が朦朧とするが、気力でそのまま飛び続けた。




*****


「逃げられてしまったではないか!馬鹿者共が!手加減などせず殺してしまえばよかったものを!」

 顔を真っ赤にして王が叫んだ。


「ま、まさか、魔法で封じられた召喚の間から逃げ出すとは、、」

 宰相は顔を青くして答える。そこに王の殺意のこもった視線が突き刺さる。

「い、急ぎ、追手を差し向け、捕縛いたします!」

「殺せ!生け捕りにする必要はない!」

「は?い、いえ、あれほどの者ならば、我が国の戦力として、、」

「敵に回れば厄介だ!始末せい!:

「ははっ!畏まりました!」


 王は護衛の騎士達を連れ、召喚の間を去って行った。

 宰相は残った騎士達に怒鳴り声を上げる。

「奴を追え!見つけ次第、始末するのだ!事を終えるまで戻ることは許さぬ!」

 宰相の取り巻きを残し、他の騎士達はノロノロと召喚の間から出て行った。

「うまくいくでしょうか?」

 残った取り巻きの騎士の一人が宰相に尋ねる。

「奴を始末出来れば良し。失敗でも、奴を逃がした責任は取ったことになるであろう」

「追放と言うことですか?」

 宰相は、不機嫌な顔で鼻を鳴らした。


「ああ成りたくなければ、しっかり励むことだな」

 尋ねた騎士は顔を強張らせて、後ろに控えた。


 宰相達も去り、召喚の間は封印された。


*****





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