第10話 お前のために勝つよ

 とうとう決勝戦まで来た。本当に、これに勝ったら甲子園だ。そう思ったら、僕は急に欲が出た。ベンチ入りしたいという、長年の夢を、少しでも叶えたいと思ってしまった。もちろん、本当の意味でのベンチ入りは無理なのだが、形だけでも・・・。制服ではなく、ユニフォームでベンチに入りたい。そんな欲張りな思いが生まれてしまった。

 明日が決勝戦という時、部活の場に現れた小野寺先生に、僕は思いきって聞いてみた。

「あの、先生。明日なんですけど、ユニフォームでベンチに入ってもいいですか?」

すると、小野寺先生は驚いたように目を丸くした。

「あー、それがね、選手と見分けが付かないから、ダメなんだよ。ほら、今うちはベンチ入り可能な人数ぎりぎりだからさ。」

そう、言われてしまった。

「そうですよね、分かりました。制服で行きます。」

僕は頑張って笑顔を作り、そう言った。今は練習着を着ている。選手と同じ服装をしているのだ。キャップもかぶっている。でも、明日は、試合の時には全く別の格好をしなければならない。

 先生が行ってしまうと、目の前に戸田が現れた。戸田は僕のキャップのつばをぐっと下げると、

「明日は、お前のために勝つよ。」

と言った。え?何を言われたの?驚いて顔を上げると、

「絶対、お前を甲子園に連れて行ってやるよ、瀬那。」

と、初めて名前で呼ばれた。

 それから、戸田が行ってしまっても、しばらく僕は動けなかった。瀬那、瀬那って呼んだ?遼悠って呼んでもいいのかな・・・。

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