第36話 恐るべき戦い
俺は作戦前に全隊員に強く注意を与えた。
「いいか細心の注意は払え。前に対峙したのは十二歳の少女だった。そしてその覚醒度は5%。少女は拘束着を破り、コンクリートの壁を破壊し部屋から脱出、制止した警備の者の腕を肩ごと引きちぎった……今回は二十歳の男の被験者。サードの覚醒度は、20%と想定されている」
レッドチームの隊長である俺の言葉が、三チーム、総勢十二人へ危険を留意させる。血天使の説明に顔色が変わった十二人は、真剣にイヤホンレシーバにより中央管理室からの作戦開始指示を受けた。
対血天使の三チームが地下八階へ潜入を開始した。
目的は血天使サードの捕獲。
カンカン、複数の鉄の階段を踏む音。
非常階段を下りて、徒歩で血天使の研究室のあった、地下八階のフロアへ降りていく。
三チームがフロアの入り口にたどり着き、突入準備が完了した。
「全チーム準備完了」
俺の報告に、即座にレシバーから流れる中央管理室の指示。
「了解。作戦を開始せよ!」
中央管理室からの制御で、静かに非常扉が上がる。
中に入ると、全ての照明は切られており明りは無い。
破壊された機器がショートして、火花が暗闇を時々光らせている。
制圧部隊は赤外線と熱感知を使い、血天使との範囲を狭めていく。
「まて! 熱源の反応がある……血天使の居る場所は近い」
事前のシミュレーションどおりに、ブルーチームが先行する。
グリーンチームがアシストにつき、少し後方から進む。
レッドチームはすぐに支援出来るように後方に待機。
ブルーチームの四人が慎重に先に進む。
そして熱源反応があった部屋の前に達した。
先導役の隊員が、部屋のドアに手を掛けた。
モーションで開けることを伝えると、残りのブルーチームの三人は頷いた。
横にスライドするドアを静かに慎重に開ける。
パチ、暗闇の中、医療機械から火花が散った。
アサルトライフルを前方に構え、再び前進を開始する。
先導役が破壊された研究室を、音を立ってないように慎重に熱源へと近づく。
その後方にはサポートが一人付き、後方を確認する一人は廊下の方に注意を促す。
左手のセンサーを確認する、ブルーチームの隊長の目に、部屋の奥の戸棚に熱源が表示された。隊長の指示で左右二手に分かれ戸棚に近づいていく……
歩を進め熱源の手前で立ち止まる隊員達。
手招きで三人を戸棚の前に寄せてから、モーションで「自分が開ける」と俺が示す。
頷く三人……カチャ、扉が開いた……
ゴロリ、人の首が転がり落ちる。
「うっ」
思わず呻いた……その声を聞いて〈僕〉血天使サードが背後から襲いかかる。
振り返った四人の隊員の目に映ったのは、狩りを楽しむ血天使の冷たい笑顔だった。一番後方の隊員の首に大きなナタ、血天使の腕が弧を描く……ブーン、後列の二人の首が空中に舞い上がる。
銃を構えなおす二人より早く、血天使の両手は残りの二人を槍の様に串刺しにした。異変に気付き、レッドとグリーンが急ぎ移動を開始した。
レッドチームの隊員達が呟いた。
「熱感知は? 何故効かない……クソ! 冷凍室か! 血天使はコンクリートの壁と同じ温度になるように、このフロアの冷凍庫で身体を冷やして熱感知から外れている」
俺は血天使の能力に戦慄していた。
「ばかな……体温を二十度以下にしたというのか?」
・
・
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「静かに……奴は音を聞いている」
暗闇の中、俺はチームの全員を黙らせ、アサルトライフルの安全装置の解除を指示した。全神経を音に集中する八人。
この暗闇の中を音で察知して襲ってくる血天使。微かな音でも死に繋がる。
先行し沈黙したブルーチームは気になるが、ここは慎重に進むしかない。
(……よし追い込むぞ!)
赤外線スコープに映る影が、ゆっくりと廊下を移動している。
二チームに別れて音を立てずに追い込む。包囲網が縮まっていく。
(……もう少し)
距離は二十メートル、さらに間隔を狭めから慎重に狙いをつける。
(この距離なら必ず当る。先制するぞ!)
俺のモーションに全員が頷き、一斉射撃を開始する直前。
「ピ……どうした? 血天使は見つかったのか?」
中央管理室からの定時連絡がレシバーから聞こえた。
隊員の一人が、恐怖と緊張でレシバーをオフにしていなかった。
「くっ! 全員散開!」
俺が叫び、八人は四方に飛びアサルトライフルを構え直した。
各々攻撃体勢をとりスコープから消えた血天使の姿を追う。
俺は素早く、コンクリートの壁に背中をつけた。
それを見習いレッドチームの三人は壁に張り付き、背中からの攻撃を防ぎ前方に注意を集中する。
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