第24話 ゲームの中で見えた

橋の真ん中のあたり、影が集まる場所に立つ。


「……これは何かのテストなのか?」

 遠くに洋館らしきものが見える。ブルッと身体が震えた。

「行ってみるしかないか……赤い目の少女との奇妙な出来事の意味が分るかも」


 僕は歩く速度を変えずに、その洋館へ向かって歩く。

 洋館は近づくとかなり大きかった。


「まるで、ホラー映画に出てくる洋館だな。モンスターになるウィルスとか研究してそうだな」

 玄関に明りがついて玄関の扉が開く。

 白衣を着た研究員らしき男が現れた。


「……君は?」

 僕が黙っていると、男は頷いた。

「そうか……君は認識できたのか。素晴らしい……入りたまえ」


 男は古びた洋館に僕を招き入れた……バタン、大きな音を立てて扉が閉まり、カチャリ、自動的に扉に鍵が掛かった。

 白衣の男の後を進む僕は、この先にあるものを感じていた……それは……


「ブ、ブー、パンパカパーン、ガスガス、ドンドン……」

(うん?なんだ、なんだ?)


「おーい……すみません、魔法使いさん、起きていますか?」

 パーティーメンバーから、注意を促す為に使用される、ゲームの振動とチャイムで僕は起された。どうやら、ゲームで寝落ちしていたらしい。


「あ、起きた!」

「す、すみません。寝てました……」


 その後、パーティーのみんなに謝ってから、今日はパーティーを解散する事にした。別れた僕は、急いで町へ向かう、道具屋の娘に逢うために。


 道具屋のNPCは、スマホの紅い瞳のツインテールの少女に代わっていた。

「今日は、お買いもの? それとも、大事な物をお預かりかしら?」

「NPCのふりと、その決め台詞はいいから……僕の話を聞いてくれよ」

 首を傾げた青い髪の少女。


「一応、道具屋の娘があたしの本業なんですけど?」

「まったく、よくそんな事が言えたね。君みたいな派手で怪しいNPCはいないだろう?」

「あら、まさかのダメダシ? ふ~んそう」

「なんだよ……」


「少しは私に、心を開いてくれたのかな、と思ってね」

「ダメダシすると、なんで心を開いた事になるんだよ?」

「人間は仲がよい人、好きな人には乱暴な事を言ってしまうの。逆に仲が良くない、苦手な人には自然に礼儀を正すの」

「逆だろそれ?それだと、相手は誤解する」


「ええ、人間は些細な事で誤解するし思い込む……でもあたしはそんな事はないわ」

 自分が人間ではないかのような言葉。赤い瞳で僕を見つめながら続ける。

「……それで話って何?」

「昨日ゲームの中で……いや夢かもしれないけど……話したんだ」

「どこで誰と話したの?」

「古い大きな橋があって、それを渡ると古い大きな洋館があって……その中で白衣の男と話したんだ」


 僕の要領をまったく得ない説明に、彼女の表情が一瞬だけ止まった。

 青い髪……その幼くも整った顔……そして不安の影を写した瞳。

 少女が一瞬瞳に写した不安は直ぐに消えた。


「ふ~ん、ゲームにそんな所があったんだね。それで白い服の男とは何を話したの?」

 今はいつもの微笑みを見せている少女。

「記憶は途切れている。忘れてしまったのか、夢が途中で終わったのか、それも分からないけど」

「分らない事ばかりね……何でも知りたがるのは人間の悪い癖」

「……物事を理解したいと思うのは、人の良い点だろう?」


彼女が言った。

 進化する、その点からいえば、人間が持つ飽くなき知識への欲求、それは美点かもしれない。でも、その事が人を強くて孤独な種に変化させた。ネットで得た知識が全てみたいな今、美味しいご飯を食べる事、家族との些細な挨拶、ほんの微かな時間と心を彼女や友人に使う……そんな何気ない事が、些細な幸せが、いつのまにか世界の外れの国の戦争なんかより、遠い事に感じられる。


「……それは僕の事を言っているの? この世界で必要のない、ネットのゲームの中だけで、認識されている僕の事だろ? それって」

「違うわ。あなたは一人じゃない、今はそれが分らなくなっているだけ」

 言葉を強めた少女は、僕の顔を見た。

「今は……あたしがいる。そしてあなたは、あたしだけを見ていてくれる」

「そうだよ、今は僕が話す人は君しかいない」


「それだけでもあたしは救われているの……だからこれ以上知るのは止めて欲しい」

「……でも不思議な体験をしたらその意味を知りたくなる」

「ほらゲームで新しいミッションが増えるって」

 少女のさっきの表情、そしていつも違う強い話し方が気になる。


「たしかにミッションは追加されるみたいだけど、告知内容と違っているし、あのビジョンはどこかで見た事がある」

「でもね、サプライズって最近、流行っているし……」

「君はそれが何か知っている?」

 僕はいきなり核心を聞いて、少女の表情を確かめる。


「……そう。誤魔化すのは無理みたいね。あなたには見えたのね。あのビジョンが……」

 少女は瞳を閉じてさっき見せた不安の影は消していた。

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